サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.04.14
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カテゴリ: 文学
 彼女の階級意識というのは、今どきの倫理観で裁断してはいけないのかもしれません。殿上人と受領層、はては平民と、当時の社会は截然とした階級社会をなしていたので、受領階級である父をみながら、彼女は宮仕えのやっかいさ加減をつぶさに見ていたでしょう。
 それは同時に平民を観る彼女の眼もまた、当時の社会規範を大きく超えることは出来なかったことを現しているので、彼女の記述が平民に対しても公平な書きかたをしているといっても、それが時代を飛び越えた平等思想の先取りをしたかのような捉えかたは間違っています。彼女はあくまで受領階級の娘という自己規定の中で、社会と人間を観ていたので、それは同時に殿上人の中味を厳密に区別するという眼でもあったでしょう。

 それが如実に現われたのが、この光源氏と右大臣の振るまいかたの違いとなって、余すところなく書き記されているので、その違いとは繰り返しになりますが、 貴種の血筋と世俗の意識の差 だと思うのです。「賢木」まで読み進んできて、あるいは気付かれる人もあるかもしれませんが、光源氏はこれほど多くの女どもと関係しながら、子供は今のところ藤壺の宮と葵の上の二人との間にしか出来ていません。六条御息所や朧月夜など、いつ子供が出来ても不思議ではないほど、逢う瀬を重ねているのですが、出来なかったということをもって、源氏は一種のフノーだったのではないかという議論もあるらしいのですが、実はこれをコントロールしているのは、あたりまえのことですが、紫式部の意志なのです。
貴種の血 というのは、そう簡単に継承されるべきものではない、めったなことでは分けてもらえない(でないと貴種としての値打ちが下がる)、めでたい血筋という意識が、彼女には強くあったのではないか、と私には思えます。後々誕生する夢の御殿、六条院のパンテオンでも源氏の血を授かったのは「明石の上」だけで、最愛の紫の上といえども子供は授かっていませんね。
 この物語の前段では、彼女に「やむごとなき」貴種の血筋の物語という、昔物語風の構想があったのではないか、というのが今の私の感想です。

 しかし幾多の人物が描き込まれるにつれ、彼らが彼女のコントロールを離れて、かってに動き出して、当初の構想からはるかに離れた高みにまで達したのが、今我々が眼にする「源氏物語」でしょう。これも誰かがおっしゃってましたが、この物語を読むということは、神話時代に生まれた物語から、今どきの心理小説に到るまでの、 人類史における文学という営み を、一度に追体験するという仕儀になるのです。何だか難しい話をしてしまいました。



― 宮は、いとゞしき御心なれば、いと物しき御気色にて、 ― 同上

 大后はそうでなくてさえ憎くてならぬ御心なので、大そう御不快な様子で、(円地文子訳、新潮文庫)

 これまた、源氏に対する恨みつらみを、一時は朱雀帝の北の方とも考えた左大臣家の葵の上を、添い臥しの妻として光源氏に取られたことからはじめて、延々と語るのですが、語るごとによけい感情が昂ぶる、その大后の女性原理そのままの様子は、ぜひ本文を読んでみてください。

― つづく ―





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Last updated  2009.04.14 11:53:45
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
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