サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.09.11
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 さて、「乙女(をとめ)」の帖に入るまえに、長々とおしゃべりをしたというのは、すでに話したように、その前の「槿(あさがお)」や「薄雲」の帖に比べて、文体や構成の印象がずいぶん変わった気がしたからで、私はその理由を紫式部が「槿」のあと、いわば個人的必要に迫られて、そのまま時系列にそった物語を続けることはいったん休止して、気分を変える意味で、傍系の物語を「求婚譚」を下敷きにして書き始めたのではないか。さらに彼女周辺からさまざま出ていたリクエストにも答える必要が出てきたのではないか、ということで、よけいな推測までしてきたわけです。

 本来、話の筋としては、もし「求婚譚」を下敷きにしたというのなら、それは次の「玉鬘」の前こそ自然ではないか、という理屈は当然成り立つし、b系論者の方々にはa系物語完結後(「藤裏葉」まで)、これらはまとめて書かれた、という考え方が一般なようです。たしかにb系の物語は、単独で続けて読んでも(a系と同じく)、一つの長編(出来ばえは別として)と見なすことが出来るのですが、私は先にも触れたように、「乙女」の冒頭に朝顔の宮の話が再現されている点、それと「乙女」の文体や構成が「槿」までとずいぶん変わっている点を挙げて、あえてb系物語が「乙女」の前から書かれ始めたのではないか、と考え続けているのです。
 もう少し突っ込んで言えば、少なくともb系物語のうち「帚木」「空蝉」「夕顔」のワンセットだけは、この時期に書かれたのではないか?(白状しますと、そのあとのb系とされる「末摘花」や「蓬生」「関屋」は、自信がないのです。これらこそ「玉鬘」十帖と並行して、周囲のリクエストに応じて、適宜書かれたのではないか、と今は思っているのですが)。

 それらを考えていく意味でも、早く「乙女」の本体に入りたいのですが、その前にもう一つ「帚木」以下の三帖にみられる文章の印象で顕著なのは、前にも触れたような柔らかくて明晰な筆つきということの他に、プロット(場面構成)の巧みさが挙げられると思うのです。
 どういうことかというと、a系が物語を進めていくついて、人と人とのもつれ合いを、もっぱら一対一の関係で描いていたのに対し、b系の物語はこの一対一のあいだに、もう一人の人間を放り込むことで、物語の展開に多様性を与えているように思えることで、その事例はこの前の引用の、光源氏と空蝉と小君のくだりを見ても明らかです。
 これまでのa系の話で似たような場面がなかったか、いろいろ探してみますと、「紅葉賀」の帖での源典侍をはさんでの光源氏、頭の中将のすったもんだが思い出されますが、これは話の本筋とはあまり関係してこないですよね(関係がないのに、ここの場面が面白くて印象に残るのは、三人の人物の心理が錯綜して、その必然の結果として、それぞれの振るまいが描かれているからです)。それともう一つ、「賢木」の帖のくだり、例の朧月夜と光源氏の閨に、父の右大臣が闖入する場面がありました。ここもa系の話の中では、飛び切りそれぞれの個性が、気鮮やかに描かれて、とても印象に残りますね。

 このときは期せずして用いられた(であろう)、こうしたプロットの面白味を、彼女は気分を変えたb系を描くにあたって、相当意識して使っているのではないか?「夕顔」の帖では、源氏と夕顔の主役のあいだに、惟光だの右近だのが参入して、主人公たちとほぼ同等の存在感で活躍しますね。どうも彼女の物語上手の秘密の一つは、この「三人め」の登場にあるようで、これはたんにいわゆる男女の三角関係だけでなく、物語の進行に拡がりと臨調感を与えるとともに、ある種の社会性を持たせることにもなっているような気がするのです。
 家族を考えた場合に、兄弟が三人以上だと、子供同士のやりとりというのは、自ずと社会性を帯びざるを得ないでしょう。二人が対立したとき、三人めというのがキャスティングボート(決定権)を握っているように、そこには交渉だの予測だの威迫だのといった、いわば世間ではおなじみの、他人との付き合いの原型が詰まっているのです、今どきの少人数家庭(核家族)では望むべくもないのですが。

 とはいえ、次回から見ていこうと思っている「乙女」の帖に、はたしてどのようにそうした(「帚木」以下の三帖のような)社会性が入ってきているのか?これをきちんと示さないと、私がくだくだしく話してきた仮定は、最初からすべて吹っ飛んでしまうことになりますね。






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Last updated  2009.09.12 00:12:21
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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