「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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神頼みな毎日
途中作
静寂に包まれた神殿があった。
大理石造りの巨大な神殿の中央。眩しいほど白い広い間で、若い神官が一人立っていた。白を基調とした大きなローブに身を包み、手には彼の背丈ほどある杖を持っていた。
彼の後ろには台座があり、そこには剣が突き立っていた。そこにだけ日の光が降り注いでいて、剣は光をやさしく弾いて輝いていた。
彼はこの剣を守るために生まれた。外見には時の影響は見られないが、彼は青年の姿のまま、永遠ともとれる時間を剣の傍らで過ごしていた。
彼の使命はこの神殿で、この破邪の剣を守る事。そして闇を切り裂くために生まれたその剣を、闇に立ち向かう勇者に与えること。
そして時はきた。
◇
「もうすぐか……」
その日彼の中に予感のようなものが生まれた。予感と言っても曖昧で不確かなものではなく、それは彼の中でたしかな光として瞬いていて、彼が長年待ち続けていた光だった。
なぜこうまで自分の感覚が信頼できるか分からない。しかしこの予感だけは本物だと彼は思った。なぜなら静寂に満ちた長い年月の中で、これほど胸が熱くなり心なしかワクワクするなんて初めてのことだった。
今日来る。彼は子供のように騒ぐ心をなだめながら、神殿の入り口を見つめていた。
そして、太陽が空野一番高い位置に来た時だった。
「来た……」
神官は入り口に見えた人影に、背筋を伸ばし軽く咳をした。緊張が全身に回っていくのを感じた。
「クィーナ神殿、ここに破邪の剣があると聞いてきたのですが」
現れたのは、背の高い男だった。巨大な鎧に身を包んでいて、腰には大き目の剣が差してあった。鎧に残る傷は数々の修羅場を抜けてきたことの証明。柄がぼろぼろになっている剣は、今まで幾度振り何千と魔を斬り伏せてきたと言う証拠。
「貴方は何者ですか?」
「俺は魔族の王を討たんとする者です。闇を払い、世界に平和を満たそうと戦う者です」
「つまり、貴方は勇者ですね」
「ええまぁ、そういうことになります」
「そうですか……」
正直何者かなど聞かなくてもよかった。この神殿に入れたと言う事は、それは心清く光に愛された者。それ以外は入り口で弾かれる。
神官は満足げに息を吐いた。彼の使命がついに遂げられる時が来たのだ。今までの途方もない長い年月を思う。彼のなかで、充実感と高揚が入り混じる。
「私はこの神殿で、剣を守ってきました。この破邪の剣に見合うものが。闇をこの剣で切り裂き、世界に光をもたらす者が訪れるのを待っていました」
「俺は魔を統べる者を斬る。そのために、貴方の守ってきた剣を譲っていただきたい」
神官は微笑んだ。これは伝説のワンシーンになるのだろう。伝説の剣を勇者が手にし、そして最終決戦。これは小さな場面かも知れない。しかし勇者にとって大きな、大切な場面の一つなのだ。
「それでは」
これでそっと右に避けて、勇者に剣の台座を明け渡す。彼はここから剣を抜き、そして輝きに包まれながら間を切り裂きに飛ぶだろう。神官は何度も夢見たこの瞬間に酔いしれた。
しかし男が台座へと一歩踏み出したときだった。
「ごめんください」
神殿内に綺麗な女の人の声が響いた。男と神官が振り返る。神殿の入り口に人影が現れた。
金色の短い髪。すらりと伸びた手足。腰には細い刀身のレイピアを差していて、女性用軽量型の防具に身を包んだ美しい女性がいた。
「この神殿に、間を切り裂くための聖なる剣があると聞いてきたのですが……」
男と神官が顔を見合わせた。
「どなたですか?」
「私ですか? 私は世界を覆う闇を払うため、そして魔の王たる存在を滅するために旅をしているものです」
神官はじっと女性を見つめた。そして彼女の意志の強そうな瞳もじっと神官を見据えていた。
「つまりは……、勇者ということですか?」
「まぁ、そう呼ばれています」
もう一度神官と男が顔を見合わせる。
女性は不思議そうな表情を見せる男と神官を見て、小首を傾げた。
「勇者が二人?」
神官が小さく呟いた。
「……? どういうことです?」
その小さな呟きを女性は聞き逃さなかった。眉間に小さく皺を作り、今度は男に目を向ける。
そうして二人はしばらく見つめあったのちに、男が動いた。剣を抜くために台座に登ろうとした。
「こ、こらっ」
反応したのは当然女性だった。
「そこに祭られてるのは破邪の剣だろう。勇者しか手にしてはならない剣だ。何故君が抜こうとしている」
「俺が勇者だからだが?」
さも当然そうに答えた男に、女性は軽く動揺を見せた。しかしそんな女性にお構いなく、男は剣に手を伸ばす。
「こらっ! やめろ」
しかし男は聞く耳を持たない。その手が剣の柄を握る。そして、
「止まれ」
剣を抜くと思われた次の瞬間、男の喉元に刃が当てられていた。神官はその様子を見て目を丸くした。女性が入り口に近い位置から瞬時に男の下まで飛び寄ったその速さにではなく、勇者が勇者に剣を向けている事に驚いていた。
「剣から手を離してもらおうか。それは勇者以外が触れていいものではない」
「……俺は勇者なんだから、何の問題も無いはずだけどな」
そして剣を抜こうと力を入れるが、その前に女性が剣を男のあごに優しく当てた。真剣な目つきで男を見つめている。
「分かったよ。なにがなんだか分からないぜ、まったく」
剣から手を離し、男は両手を上げて台座を下りた。女性は彼が台座から降りるのを見届けてから、ゆっくり剣の方を向いた。
レイピアを鞘に収めて、その手を剣へと伸ばす。あと少しで触れるというところで、
「待て」
女性の背中に男の長剣が当てられていた。神官はその光景を見て目を丸くした。男が気配も無く片手で軽々と長剣を扱ってることにではなく、勇者が勇者に剣を突きつけている事に驚いていた。
「なぜお前が剣を抜こうとしている?」
「私が勇者だからだ」
「ふざけないで欲しいな」
女性は男を無視して剣を引く手に力を込めた。が、男の剣先が背中をつつき女性は仕方なく剣から手を離した。苦々しく顔をゆがめている。
そして台座を下りた二人はしばらくにらみ合う。しかしそのうち自然とその二人の視線は、争いの外側で傍観していた神官を向いた。不思議そうに二人を見つめていた神官は、見つめられて戸惑った。
「神官様。これは一体どういうことなのですか? 私が勇者のはず」
「神官様、あの剣を譲り受けるのは俺のはずだ。そうでしょう」
二人は非常に厳しい剣幕で神官に迫った。神官は怖い表情の二人に迫られて、たじろいだ。
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