神頼みな毎日

神頼みな毎日

彼らの進化論




                     ――村田 作久


「なんだこれ」
 理科室の机上に散乱する設計図。それらに目を通していると端に走り書きでそんな一文が書かれているのに気付いた。
「偉人の格言みたいな一文だが、どこぞの馬鹿学生の名前が一緒に書いてあるぞ」
「あぁ、それ。俺が考えた格言だもの」
 世話しなく設計図を整理していた村田が俺が手にしていた設計図を覗き見て言う。……自分で考えた?
「意味が分からないんだが……」
「分からない? じゃあ仕方ない説明してあげよう。いいか、この言葉を設計図の端っこに書くことには、実は大きな意味があるんだ」
「へぇ。意味って?」
「設計図がそれとなく格好良くなる。あと自分自身も」
「……」
 阿呆である。もう中学三年生だと言うのに去年とまったく変わっていない。むしろ意味不明度が前年比の三倍である。
 村田は中身以外も変わっていなかった。身長は相変わらず俺と同じくらいだし、髪型をイジることもなく、顔立ちだって変わらない。相変わらず子供っぽい阿呆面のままだ。
「あ、お前のその目は人を蔑んでいる目だな」
「正解だ」
 設計図をぐしゃりと丸め潰して、ゴミ箱に放る。だが村田が慌ててゴミ箱に駆け寄り、今捨てたゴミを拾って机の上で皺を伸ばし始めた。
「人の設計図を簡単に捨てるもんじゃないよ! 全く……」
 キーキー文句を言いながらわしゃわしゃと皺ほ伸ばしている。まるでわが子を愛でるような丁寧な仕草だが、
「設計図って言っても、読んでも意味不明で、しかも半分以上白紙じゃないか。書き損じだろ」
「違うね! それは違うよ岸辺君!」
 何が違うのか。
「俺のモットーは今読んだだろ。『発明とは99%の理論と1%の偶然!』」
「書いてあったのとだいぶ違うぞ」
「内容的には同じさ」
 なんだかものすごく適当だった。それに設計図に書かれていた格言にはファンタジーとかなんとか書いてあったが……。内容的に同じなのか?
「何もかも理論で固めた発明なんて面白くもなんともないじゃないか。そんな
夢の欠片もない設計図なんて、それこそ紙くずだ。途中までしか書かないことによって、神様や妖精、その他不思議の類が手を加えても良い余地を残しておくのさ」
「……そんなのは設計図とは言わないだろ。て言うかどうせ途中で考えるのが面倒になったのと、つまりは行き当たりばったりってことだろ」
「し、失敬な。そんなことは、おそらく全然ない!」
 微妙な返答だった。
「それを言ったらお前だって、あのタイムマシンもどきは偶然の産物じゃないか」
「あれは事故だ。それに俺のせいじゃない」
 村田が突然そんなことを言い出したので、理科準備室のドアに視線をやった。今も理科準備室で埃かぶっているあれは、去年とても面倒なことをしでかしてくれた我が作品である。俺の設計図では時空移動(正確には瞬間移動しか実証されていないけど)するようには作られていなかった。原因は……、
「な、なんだよ。なんで二人して見てるんだよ」
 村田と俺の視線に気付いて、鳥里悠太が顔を上げた。背がひょろっと長く細身な彼も、去年と外見は大して変わっていないようだ。かけていた眼鏡が少しズレて、それを指で直す。
「お前みたいなのが妖精なのなら、設計図に余地を残したりするのが嫌になるな」
 村田が嫌だ嫌だと首を振る。……可愛らしい女の子ならまだしも、こんな男が妖精だとすれば、妖精という概念があまりにも可哀想すぎた。
「お前らまたあの失敗を穿り返すのかよ! もうちょうど一年前だぞ」
「だからこそだ。今度こそ妙なことしないでくれよ」

「あぁそうだ、失敗と言えばな。生徒会から三度目の厳重注意が渡されてるんだけど」
 村田が突然思い出したように言う。自身のカバンから取り出したのは一枚のプリント。警告と大きく書かれた文字が嫌でも目に付く。一番下の文には生徒会長の名前がある。
 水時夏樹。見知った名前だ。彼女にはよくお世話になっている。悪い意味で。
「度重なる器物破損やら騒音やら、とにかく騒ぎすぎ。あと予算使いすぎだとさ」
「大部分村田の発明が原因だろ?」
 こいつの意味不明な発明はやたら騒がしく、また金を食う。妖精なんかに任せるから無駄が多く、またトラブルも多い。
「なんで俺!? それ言ったらお前のタイムマシンだっていい加減維持費かかりすぎなんだよ」
「そうだそうだ! 場所取りすぎだぞ」
「こないだの出火騒ぎは鳥里、お前が原因だったな」
「すみません」
 ギャーギャー三人で言い合っていると、そばで一部始終黙って見ていた夜中朝幸が言った。
「俺らの科学部ってさ。絶対普通の科学部と違うよな」
「「「なんで?」」」
「……」


 もうすぐ中学時代最後の文化祭である。


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: