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オキナワの中年
全国で売れる沖縄本
2001/05/31
沖縄関連書籍が売れに売れている。書店により若干の異同はあるが、売り上げベストテンのうち少なくとも三冊、場合によっては半数を占めている店舗もある。もともと沖縄県は他の地域に比べ郷土関連の書籍が強く、各書店が郷土関連書籍の展示法に工夫を凝らしている、という面もあるが、やはりその強さは驚異的であると言ってよい。
テレビドラマの後押しのある岡田恵和「ちゅらさん(1)」を度外視したとしても、既に一年以上沖縄のみならず全国的に売れ続けている沖縄オバァ研究会編「沖縄オバァ烈伝」、およびその続編「続・沖縄オバァ烈伝 オバァの喝!」、仲村清司「爆笑 沖縄移住計画」、篠原章「熱烈!沖縄ガイド」等はいずれもかなりの版を重ねており、沖縄ナンデモ調査「沖縄のナ・ン・ダ!?」も好調な出足を見せている。
既に指摘されていることだが、この種の沖縄本は既に十年以上前の、まぶい組「沖縄キーワードコラムブック」(一九八九年)という嚆矢(こうし)を持ち、他に岡正弘「シマ・ナイチャーの見聞録」(一九九五年)という先例もある。「オバァ」という素材についても、たとえば本紙副読紙の「レキオ」では、随分以前からコラムとして連載されていた。すなわち試みとしてはそれほど斬新(ざんしん)でないにもかかわらず、ここに来て大ブレークしているのである。
もちろんこれらの先行書と現在の書籍との差異は少なくない。一つは、かつては沖縄の出版社から、基本的に県内の読者を想定して編まれていたのが、今回のベストセラー群は全国を市場とした、中央の出版社の企画であるという点である。それが沖縄に還流してくる。特に「爆笑 沖縄移住計画」や「熱烈!沖縄ガイド」は明らかに本土の読者を想定しており、沖縄移住のハウツー本として本気で執筆されている。いまや「沖縄」という素材が全国規模で楽しまれているのだ。
また比較的類似した企画である「沖縄キーワードコラムブック」と「沖縄のナ・ン・ダ!?」を読み比べると、重要な違いをみることができる。「沖縄キーワードコラムブック」は単に沖縄の生活文化をおもしろく紹介するという目的と平行して、世代論という視点があった。多くの執筆者が復帰以前を体験しており、失われていく沖縄という一種のセンチメンタリズムを含んでいた。例えば「あがー」という項目では、一九六五年以降に生まれた世代が「アガー」を「イタイ!」と言う、と慨嘆されている。
これに対して現在のベストセラー群にはかつてを懐かしむという面は希薄である。良くも悪くも複雑な屈折はなく、純粋に現在の沖縄を楽しむというスタンスに貫かれている。現在の読者層のひとつとして、「アガー」のかわりに「イタイ」という世代がいる。彼らにとっても、まったく未知の事柄は少ないはずだが、何気なく生きてきた沖縄が今、新たな「沖縄」として再発見されているのだ。それは新鮮な対象であり、かつてあった悲哀や、劣等感、あるいは愛着と嫌悪の葛藤(かっとう)といったものはほとんどない。
これらの書籍が一般の人々に好まれている状況を見るにつけ、思い起こされるのは「方言論争」(一九四〇年沖縄を訪れた柳宗悦が、沖縄の文化的独自性という観点から「標準語励行運動」を批判し、これに沖縄県学務部が反発したため起こった論争)をはじめとする多くの筆禍、舌禍事件である。かつては沖縄文化の固有性を賛美することが、同化政策を推進する県側の反発を招くという状況があった。沖縄の文化を消し去ることが、差別解消の唯一の方法だと思われた時代があったのである。またそうせざるを得ないような、わずかな差異をも許容しない日本の実情があった。
戦前のみならず、例えば大城立裕「亀甲墓」に描かれた、近代合理主義とかけ離れた沖縄のオジィ、オバァの論理、すなわち未曾有(みぞう)の沖縄戦という状況下において、先祖にこだわりあるいは村の慣習を守ろうとする論理、これは発表時点においては理解しにくいという評価を受けた。ただこだわりを持たない一人の女子高生のみがその面白さを理解したという。今やそのオバァはまさに沖縄文化の象徴として、全国的に享受されている。何のこだわりもなく異質な文化を受け入れ、それを楽しむということ。この一見たやすいことが実現するためにかくも長い時間が必要とされた。
沖縄に来たばかりのころ、私は年々進む学生たちの悪(あ)しき大和化を憂慮していた時期がある。仲間同士の人間関係は希薄化し、その一方、時間厳守や勤勉といった部分はそれほど受け入れられない。このままでは沖縄と大和それぞれの文化の悪い面だけが複合してしまうのではないか、と思われる時期があった。しかしここ数年、全面的とはいえないまでも、新たな傾向が見え始めている。守るべきルールはしっかり守り、他人への思いやりを持つ。大和から発信された文化も、沖縄固有の文化も、こだわりなく同様に楽しむ。彼らの中には一種の多文化主義が存在するのかもしれない。二つの文化がごく自然に内面化され、時と場合に応じて有効な選択ができる。仕事と私生活が別の論理に基づいても、なんら矛盾を感じないのである。このタイプは残念ながら今のところ多数派とは言いがたい。が、仮にこういった若者が増えていけば、「テーゲー主義を完全に克服しない限り、経済的自立は不可能だ」といった、硬直化した二元論を乗り越えられるかもしれない。
もちろんこれが、かなり希望的な観測を含んだ楽観論であることは否定しない。しかし彼らに夢を託すのは意味のあることであろう。なぜなら沖縄の持つ最大の財産は、彼ら若者だからである。
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