「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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toshikoのめちゃ元気ですーroom
パート2
いくらい、勇気を使わないとできませんね。でも、これが私の
悩みの解決に役立つなら、それだけの勇気を使う価値はあるん
だ思います。だけど、難しいですねー。」
B氏「やるかやらないかは、ご自分で決めてくださいね。
私も、一生に一度の勇気を使う価値はあるとおもいますけど。
それから私は、次の予定がありますので、このあたりで失礼し
ます。もし実行されたらご連絡下さい。次のステップをお教えします。」
A子にとって救いなのは、「形だけでいい」ということだった。
「謝る」ということについては、気持ちがともなわない。
「悪いのは父親の方だ」という思いがあるから、自分が謝るの
は筋違いだと思う。だけど、書き留めた文章を棒読みするくら
いならできそうだ。それならば、やってみた方がいいに決まっ
ている、と思えた。A子は「電話をかけよう」という気になってきた。
そして、電話をかけようとしている自分が、不思議だった。
こんなきっかけでもなかったら、A子が父親と電話で話すとい
うことは、一生なかったかもしれない。結婚して間もないころ
は、実家に電話をして父が電話に出たときは、すぐさま「私だ
けど、お母さんにかわって」と言っていた。
しかし今は、「私だけど」と言っただけで、父の「おーい、A
子から電話だぞ」と母を呼ぶ声がする。父も「A子から自分に
用事があるはずない」ということわかっているのだ。
しかし、今日は電話で父と話すのだ。
「躊躇していたら、ますます電話をかけにくくなる」と思った
A子は、意を決してすぐに電話をかけた。
電話に出たのは、母だった。
A子「私だけど」
母 「あら、A子じゃない。元気にしてる?」
A子「うん、まあね。・・・ねえお母さん、お父さんいる?」
母 「えっ?お父さん?あなたお父さんに用なの?」
A子「う、うん。ちょっとね。」
母 「まあ、それは珍しいことね。ねえ、お父さんに何の用なの?」
A子「えっ?えーと、ちょっと変な話なんだけど説明するとや
やこしいから、お父さんにかわってくれる?」
母 「わかった、ちょっと待ってね。」
父が出てくるまでの数秒間、A子の緊張は極度に高まった。
すっと父のことを嫌ってきた。
父に心を開くことを拒んできた。
その父に、感謝の言葉を伝え、あやまるのだ。
ふつうに考えて、できっこない。
しかし、息子のことで悩みぬいたA子にとって、その悩みが深
刻であるがゆえに、ふつうだったらできそうにない行動を取っ
ているのだった。もしも、その悩みから解放される可能性があ
るなら、わらにもすがりたいし、どんなことでもする。
その思いが、A子を今回の行動に向かわせたのだ。
父 「な、なんだ? わしに用事か?」
A子は、自分では何を言っているかわからないくらいパニック
しながら話し始めた。
A子「あっ、あのー、私、今まで言わなかったんだけど、言っ
といたほうがいいかなーと思って電話したんだけど、・・・
えーと、お父さん、現場の仕事けっこう大変だったと思うのよ。
お父さんが頑張って働いてくれて、私も育ててもらったわけだし。
あのー、私が子どものころ、公園とかも連れて行ってくれたじゃない。
なんていうか、『ありがたい』っていうか、感謝みたいなこと
言ったことないと思うのよ。それで、一度ちゃんと言っておき
たいなと思って、・・・。それから私、心の中で、けっこうお
父さんに反発してたし、それもあやまりたいなと思ったの。」
ちゃんと「ありがとう」とは言えなかったし、「ごめんなさ
い」とも言えなかった。だけど、言うべきことは一応伝えた。
父の言葉を聞いたら、早く電話を切ろう。そう思った。
しかし、父から言葉が返ってこない。
『何か一言でも言ってくれないと、電話が切れないじゃない』
そう思った時に、受話器から聞こえてきたのは、母の声だった。
母「A子!あなた、お父さんに何を言ったの?」
A子「えっ?」
母「お父さん、泣き崩れてるじゃないの!何かひどいこと言っ
たんでしょ!」
受話器から、父が嗚咽する声が聞こえてきた。
A子はショックで呆然とした。
生まれて以来、父が泣く声を一度も聞いたことはなかった。
父はそんな強い存在だった。
その父のむせび泣く声が聞こえてくる。
自分が形ばかりの感謝を伝えたことで、あの強かった父が嗚咽
しているのだ。
父が泣く声を聞いていて、A子の目からも涙があふれてきた。
父は私のことをもっともっと愛したかったんだ。
親子らしい会話もたくさんしたかったに違いない。
だけど私はずっと、父の愛を拒否してきた。
父は寂しかったんだ。
仕事でどんなに辛いことがあっても耐えていた強い父が、今、
泣き崩れている。
娘に愛が伝わらなかったことが、そんなに辛いことだったんだ。
A子の涙も嗚咽へと変わっていった。
しばらくして、また母の声。
母「A子!もう落ち着いた?説明してくれる?」
A子「お母さん、もう一度、お父さんにかわってくれる?」
父が電話に出る。
父「(涙声で)A子、すまなかった。わしは、いい父親じゃな
かった。お前にはいっぱいイヤな思いをさせた。うっ、うっ、
うっ、(ふたたび嗚咽)」
A子「お父さん。ごめんなさい。私こそ悪い娘でごめんなさ
い。そして、私を育ててくれてありがとう。うっ、うっ、うっ
(ふたたび嗚咽)」少し間をおいて、再び母の声。
母「何が起きたの?また、落ち着いたら説明してね。
一旦、電話切るよ。」
A子は、電話を切ってからも、しばらく呆然としていた。
20年以上もの間、父を嫌ってきた。
ずっと父を許せなかった。
自分だけが被害者だと思っていた。
自分は父の一面だけにとらわれて、別の面に目を向けようとは
しなかった。父の愛、父の弱さ、父の不器用さ、・・・これら
が見えていなかった。父はどれだけ辛い思いをしてきたんだろう。
自分は父に、どれだけ辛い思いをさせてきたんだろう。
いろいろな思いが巡った。
「まずは、形から入ればOKです。気持ちは、ついてきますか
ら。」と言ったB氏の言葉の意味が、ようやく分かりかけてきた。
「あと1時間くらいで、○○○(息子)が帰ってくるな」
そう思った時に、電話が鳴った。
出てみるとB氏であった。
B氏「どーも、Bです。今、40~50分くらい時間ができたので
電話しました。さっきは、次の予定が入ってたので、お話の途
中で電話を切ったような気がしまして。」
A子「実は私、父に電話したんです。電話して本当によかった
です。ありがとうございました。Bさんのおかげです。」
A子は、父とどんな話をしたかを簡単に説明した。
B氏「そうでしたか。勇気を持って行動されて、よかったですね。」
A子「私にとって、息子がいじめられてることが最大の問題だ
と思っていましたが、長年父を許していなかったことの方が、
よほど大きな問題だったという気がします。息子の問題のおか
げで父と和解できたんだと思うと、息子の問題があってよか
ったのかな、という気すらします。」
B氏「息子さんについてのお悩みを、そこまで前向きに捉える
ことができるようになったんですね。潜在意識の法則というの
がありましてね、それを学ぶと次のようなことがわかるんです。
実は、人生で起こるどんな問題も、何か大切なことを気づかせ
てくれるために起こるんです。つまり偶然起こるのではなく
て、起こるべくして必然的に起こるんです。ということは、自
分に解決できない問題は決して起こらないのです。
起きる問題は、すべて自分が解決できるから起きるのであり、
前向きで愛のある取り組みさえすれば、後で必ず『あの問題が
起きてよかった。そのおかげで・・・』と言えるような恩恵を
もたらすのです。」
A子「そうなんですね。ただ、息子の問題自体は何も解決して
いないので、それを思うと不安になります。」
B氏「息子さんのことは、まったく未解決なままだと思ってお
られるんですね。
もしかしたら、解決に向けて大きく前進されたのかもしれませんよ。
心の世界はつながっていますからね。
原因を解決すれば、結果は変わるしかないのです。」
A子「本当に息子の問題は解決するんでしょうか?」
B氏「それは、あなた次第だと思いますよ。さて、ここで少し
整理してみましょうか。あなたにとって、息子さんのことで一
番辛いのは、息子さんが心を開いてくれないことでしたね。親
として、何もしてやれないことが情けなくて辛いとおっしゃい
ましたね。その辛さをこれ以上味わいたくないと。」
A子「はい、そうです。いじめられてることを相談もしてくれ
ない。私は力になりたいのに、『ほっといて!』って拒否され
てしまう。無力感を感じます。子どもの寂しさが分かるだけ
に、親として、何もしてやれないほど辛いことはありません。」
B氏「本当に辛いことでしょうね。ところで、その辛さは、誰
が味わっていた辛さなのか、もうお解かりですよね。」
A子「えっ?誰がって・・・(しばらく沈黙)」
その時、A子の脳裏に父の顔が浮かんだ。
そうか!この耐えがたい辛さは、長年父が味わい続けたであろう辛さだ。
娘が心を開いてくれない辛さ。
娘から拒否される辛さ。
親として何もしてやれない辛さ。
私の辛さといっしょだ。
この辛さを、父は20年以上も味わい続けたのか。
A子のほほを涙が伝った。
A子「わかりました。私は、私の父と同じ辛さを味わっていたんですね。
こんなに辛かったんですね。父が嗚咽したのも分かります。」
B氏「人生で起こる問題は、私たちに大事なことを気づかせる
べく起こるんです。」
A子「あらためて父の辛さが解かりました。息子のおかげで、
解かることができたんだと思います。息子が私に心を開いてく
れなかったおかげで。」
B氏「息子さんもお父様もあなたも、心の底ではつながってい
ます。お父様に対するあなたのスタンスを、あなたに対して息
子さんが演じてくれたのです。そのおかげで、あなたは気づく
ことができた。」
A子「息子にも感謝したいです。『大事なことに気づかせてく
れて、ありがとう』って気持ちです。今まで、『どうしてお母
さんに話してくれないの?』って心の中で息子を責めていました。」
B氏「今なら、息子さんの気持ちも理解できますか?」
A子「そうか!私が子どものころ、口うるさい父がイヤでし
た。いろいろ口出ししてきたりするのがイヤでした。
今考えてみれば、それも父の愛情からだったんでしょうが、当
時は負担でしたね。今、息子も同じ思いなんだと思います。私
の押し付けがましい愛情が負担なんだと思います。」
B氏「あなたが子どものころ、本当はお父さんに、どんな親で
いてほしかったんでしょうね?」
A子「私を信頼してほしかった。『A子なら大丈夫!』って信
頼してほしかったです。・・・(しばらく沈黙)。
私、息子を信頼していなかったと思います。
『私が手助けしないと、この子は問題を解決できない』と思っ
ていました。それで、あれこれ問いただしたり、説教した
り、・・・。もっと息子を信頼してあげたいです。」
B氏「あなたは、お父様の辛さも理解し、息子さんの辛さも理
解されましたね。では次に、ご主人とのことに移りましょう。
朝お電話をいただいた時に、『あなたの大切な息子さんが人か
ら責められてしまう原因は、あなたが身近な誰かを責めてし
まっていることです』とお話したのを覚えていますか?」
A子「はい、覚えています。主人を尊敬できないという話をしました。」
B氏「ではもう一度、ご主人に対してどんなふうに感じておら
れるか、話してもらえますか?」
A子「どうしても、主人に対して、『教養のない人』とか『思
慮の浅い人』というふうに見てしまうんです。息子のことにし
ても、私がこれだけ悩んでるのに、根拠なく楽観的なんです。
それで主人に対しては、グチこそはぶつけますが、ちゃんと相
談したりすることはありません。
主人がアドバイスなどしてきても受け付けられないんです。」
ここまで話しながらA子は、自分の夫に対するスタンスが、父
親に対して取ってきたスタンスに似ていることに気がついた。
A子「私が父に対して取ってきたスタンスと似てますね。」
B氏「そうなんです。女性の場合、父親に対してとってきたス
タンスが、ご主人に対してのスタンスに投影されることが多い
んです。ところで、お聞きしていると、ご主人は息子さんのこ
とを信頼されているようですね。」
A子「あっ、そうですね!そうか、主人のそういうところを見
習うべきだったんですね。息子は主人に対しては、けっこう本
音を言っているみたいなんです。息子は信頼されてると思うか
ら、主人には心を開くんですね。私は主人のよいところをまっ
たく見ていませんでした。」
B氏「なるほど、そんなことを感じられたんですね。
さて、では宿題を差し上げます。やるかどうかは自分で決めて
くださいね。
今日の午後、『父に感謝できること』と
父に謝りたいこと』という2種類の紙を作ってもらいましたよ
ね。その紙に、お父様に感謝できることと謝りたいことを、書
き出せるだけ書き出して下さい。
紙は何枚使ってもOKです。それが終わったら、もう一つ紙を
用意してください。その紙のタイトルは、『父に対して、どの
ような考え方で接したらよかったのか?』です。これは過去の
お父様との関係を後悔するために書くのではありません。これ
からのご主人との接し方のヒントが見つかるはずです。
そしてもう一つ、息子さんが夜眠られたら、息子さんの寝顔を
見ながら、心の中で息子さんに『ありがとう』を100回ささや
きかけてください。どうですか、やってみたいですか」
A子「はい、必ずやってみます。」
電話を切って間もなく、息子が帰ってきた。
息子はランドセルを玄関に投げると、いつものようにグローブ
とボールを持って、公園に行った。『昨日、友達に追い出され
たというのに、この子は、また公園に行くの?』A子の心は心
配な気持ちでいっぱいになった。A子は、その心配な気持ちを
まぎらわすように、宿題に取りかかった。
父に対して感謝できることがたくさん思い浮かんだ。
・現場監督のきつい仕事を続けて、家族を養ってくれた。
・私が子どものころ、夜中に高熱を出したことが何度かあった
が、その都度、車で救急病院まで連れて行ってくれた。
(肉体労働をしていた父にとって、夜中はしんどかったはず)
・私が子どものころ、よく海や川に連れて行ってくれて、泳ぎ
を教えてくれた。
・子どものころ私はメロンが好きだったが、毎年の私の誕生日
には、メロンを買って帰って来てくれた。
・子どものころ近所のいじめっ子にいじめられていたことが
あったが、その子の家に抗議しに行ってくれた。
・私は私立大学に入ったが、文句を言わず学費を出してくれ
た。(当時のわが家にとって、大きな負担だったはず)
・私の就職先が決まった時に、寿司を出前で取ってくれた。
(とても豪華な寿司だった。その時私は「寿司は好きじゃな
い」と言って食べなかった。父はしょんぼりしていた)
・嫁入り道具に、高価な桐のタンスを買ってくれた。
「感謝したいこと」に連鎖して「謝りたいこと」も浮かんできた。
「感謝したいこと」と「謝りたいこと」を書きながら、涙が浮
かんできた。
「私は、こんなにも愛されていた。
反発する私を、愛し続けてくれていたんだ。
許せないという思いにとらわれていたから、その愛に気づかな
かったんだ。
そして、こんなにも愛してもらいながら、私は父に何もしてあ
げてない。親孝行らしいこともほとんどしていない。」
自分が父親の仕事を尊敬していなかったことにも気づいた。
父親の現場監督の仕事に対して、「品がない」とか「知的でな
い」とか思っていた。父親が仕事を頑張り続けてくれたおかげ
で、自分は大学まで行かせてもらえたのに。
そのことを初めて気づいた。
父親の仕事に対して、尊敬心と感謝を感じた。
そして今、自分の夫の仕事に対して、「知的でない」というイ
メージを持っている。自分の夫に対する「教養がない」という
嫌悪感をともなうイメージは、父に対して持っていたイメージ
とそっくりである。自分は、夫に対しても感謝できることがた
くさんあるはずだ。そんなことを考えながら、続いて、「父に
対して、どのような考え方で接したらよかったのか?」という
タイトルの紙を用意した。
これについては、すぐに文章が浮かんできた。
「父の言動の奥にある愛情に気づくこと。
自分が不完全な人間であるように、父も不完全で不器用な人間
であることを理解すること。してもらっていることに感謝をすること。
愛してもらうだけではなくて、自分から愛すること(父を喜ば
そうとすること)。
そしてその上で、イヤなことはイヤと伝えて、おたがいが居心
地いい関係を築くこと。」
これはまさに、これから夫に対してするべき考え方だ、と思った。
働いてくれている夫。
自分の人生のパートナーでい続けてくれている夫。
自分は夫に対して感謝することを忘れていた。
夫に対して、こんなに素直な考え方ができるのは初めてかもしれない。
これは父に感謝できたことと関係があるのかもしれない。
今日は夫に感謝の言葉を伝えよう。そんなことを考えているう
ちに、外が薄暗くなりかけていることにA子は気がついた。
思えば、今日は家事らしきことをほとんどしていない。
朝の9時ごろB氏に電話してから、1日中自分と向き合っていた。
「晩ご飯の用意、どうしよう?」
そう思った時に、息子が帰ってきた。
息子「ねえ、お母さん聞いてよ!」
A子「どうしたの?何かいいことあったの?」
息子「C君知ってるでしょ。実は昨日、C君に公園でボールぶ
つけられたんだ。」
A子「あっ、あー、そうなの。C君って、あなたを一番いじめ
る子だよね。」
息子「さっき公園から帰ろうとしたらC君が公園に来てさー。
で、『いつもいじめててごめんな』って言ってくれたんだ。」
A子は「そうだったの!」と言いながら、まるで奇跡でも体験
しているような気持ちになった。そして、心から感謝の気持ち
が湧いてきたのだった。A子は、夕食の準備をするより息子と
話そうと思い、出前を取った。出前が届くまでの間、A子は息
子に次のようなことを伝えた。
「今まで、あなたのことに口出しをし過ぎてごめんね。これか
らは、なるべく口やかましくしないように気をつけるからね。
そして、お母さんの助けが必要な時は、いつでも遠慮なく相談
してね。あなたのことを信頼してるからね。」
息子は本当に嬉しそうな顔をして、「わかった、ありがとう」
と答えた。
やはり息子は、母親に信頼してもらいたかったのだ。
「今日は、なんか変だなー。いいことが続くなー。」と息子が続けた。
A子も幸せな気持ちになった。
間もなく出前が届いた。
A子「お母さんは、お父さんが帰ってくるのを待つから、先に
食べてね。」
息子「えっ?どうしたの?いつもは先に食べるのに。」
A子「今日は、お父さんといっしょに食べたい気分なのよ。
お父さん、お仕事頑張ってくれて、疲れて帰ってくるからね。
一人で冷めた親子丼たべるの、寂しいでしょ。」
息子「じゃー、僕もお父さんといっしょに食べる!三人で食べ
る方が楽しいでしょ。」
A子「ほんとうにあなたは優しい子ね。お父さんに似たのね。」
息子「なんか変だなー。いつもお父さんのことを、『デリカ
シーがない』とか言ってるのに。」
A子「そうよね。お母さんが間違ってたのよ。お父さんは、優
しくて男らしくてたくましくて、・・・男の中の男よ。」
息子「勉強しないと、お父さんのような仕事くらいしかできな
くなっちゃうんでしょ?」
A子「ごめんね、それもお母さんが間違ってたのよ。お父さん
の仕事は立派な仕事。世の中の役に立ってるのよ。それに、お
父さんが働いてくれてるおかげで、こうやってご飯食べたりで
きるんだからね。お父さんの仕事に感謝しようね。」
息子「お母さん、本当にそう思う?」
A子「うん、思うよ。」
A子がそう言った時の息子の笑顔は、その日で一番嬉しそうな
笑顔だった。
子どもは本来、親を尊敬し、親をモデルして成長する。
A子の言葉は、息子に対して、「お父さんを尊敬してもいい
よ」という許可を与えたことになる。息子はそのことが何より
も嬉しかったのだ。
しばらくして夫が帰って来て、三人で冷めた親子丼を食べた。
自分の帰りを待っていてくれたことが嬉しかったのか、夫も上
機嫌だった。冷めた親子丼を「うまい、うまい」と言いながら
食べていた。
夫が風呂に入っている間に、息子が眠りについた。
A子は息子の寝顔を見ながら、心の中で「ありがとう」を唱え始めた。
その言葉の影響なのか、心の底から感謝の気持ちが湧いてきた。
『この子のせいで私は悩まされてると思ってきたけど、この子
のおかげで大切なことに気づけた。本当は、この子に導かれた
のかもしれない。』そう思っていると、息子が天使のように見えた。
いつの間にか、涙があふれてきた。
(ほんとに今日は、よく泣く日である)
間もなく電話が鳴った。
出てみるとFAXであった。
母の字で次のようなことが書いてあった。
A子へ
今日のことお父さんから聞きました。
お父さん、話しながら泣いていました。
お母さんも嬉しくて涙が出ました。
お父さんは、「70年間生きてきて、今日が一番嬉しい日だ」
と言っています。晩ご飯の時に、いつもお酒を飲むお父さん
が、「酒に酔ってしまって、この嬉しい気持ちが味わえんかっ
たらもったいない」と言って、今日はお酒を飲みませんでした。
次は、いつ帰ってきますか。
楽しみにしています。
母より
「晩酌を欠かしたことがない父が、お酒を飲まなかったなんて。」
自分が伝えた言葉が、父の心をどんなにか幸せな気持ちで満た
したのであろう。A子の目からは、またもや涙があふれていた。
「どうした?泣いてるのか?」
風呂から出てきた夫が聞いてきた。
A子は、その日起きたことをすべて話した。
朝、B氏に電話をかけたこと。
午前中は、父への恨みつらみを紙に書きなぐったこと。
午後、父に電話して和解したこと。
「そうか、お父さんも泣いてはったか。」
夫も、目に涙を浮かべながら聞いてくれた。
そして、息子がいじめっ子から謝られたこと。
「ふーん、不思議なこともあるもんやな。Bさんのやり方は、
俺にはよくわからんけど、おまえも楽になったみたいでよかったな。」
続けてA子は、泣きながら夫に謝った。
そして夫も、泣きながら聞いたのだった。
次の日、A子はB氏に報告して、心からのお礼を伝えた。
朝一番で夫からも電話を入れていたようだ。
B氏「ご主人からも電話もらいました。お役に立てて何よりです。
あなたの勇気と行動力を尊敬します。
さて、これからが大切です。
毎日、お父さまとご主人と息子さんに対して、心の中で『あり
がとうございます』という言葉を100回ずつ唱える時間を
持って下さい。」
その日の夕方のことである。
「ただいま!」元気な声で息子が帰って来た。
「お母さん、聞いて!今日ね、友達から野球に誘われたんだ!
今から行ってくるから!」
息子はグローブを持って飛び出していった。
A子の目には、またもや涙がにじんでいた。
声が詰まって、「行ってらっしゃい」の一言が言えなかった。
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