魂の還る場所

魂の還る場所

明日のつづき

 よく周りから「見てて飽きない」と言われるのはこういうところかもしれない…
と、今頃気付くのは、やっぱり遅いのだろうか?
 ひとり、玄関先で思った。

 それは今からほんの少しだけ遡る。
 部屋の前に着いてチャイムを押そうとしたところで、ふと、何て挨拶しようか迷ってしまった。
 「お邪魔します」にしようか、「お世話になります」にしようか・・・
 それとも、「ただいま」にしようか。
 改めて考えて、どきどきしてしまった。 
 ここに来るのは初めてじゃないし、それどころか鍵だって持っている。
 …今までそれは、スペアキーだった。
 部屋の主が留守の時でも、入って待っていられるように貰った鍵。
 けど、今日からは違う。
 スペアじゃなくて、ちゃんとした本物の鍵。
 留守の時でも入れるための鍵じゃなくて、ここに帰ってくるために、ここに帰ってくるから持ってる鍵だ。
 どきどきしてきた。
 照れくさいって気もするし、不安もあるし…それ以上に嬉しいって気持ちとわくわくが大きくてどきどきした。
 どんな挨拶をしよう?
 まだ決まっていなかったけど、
 ・・・くしゅんっっ・・・
 横を向く余裕もない突然さでくしゃみが出てきて、
 ・・・ぴんぽーん・・・
 勢いでチャイムを押してしまった・・・なんてこった・・・ちょっと乙女チックかもー???って悩みは何だったんだろう・・・。
 そこはかとなく空しさを感じているとドアが開いた。
 パジャマと髪が「今起きました」と物語っている姿と対面する。
「なんや、鍵持ってんねんから自分で開けて来たらええやん」
 挨拶も何も、いきなりそう言われた。
 崇之の笑顔と関西弁が頭の上から落ちてくる。
「…初めが肝心って言うやんか…」
 脱力しつつ靴を脱ぎ脱ぎ返した答えに、移ってしまった関西弁が混ざる。
 …ヤバい…意識しないと、妙な関西弁が出てしまうようになってきている…気を付けねば…。
 ぶつぶつ呟きながら奥へ入って、鞄を置いてコートも脱いで座った。
「何で菜由、正座なん?」
 コーヒーを淹れて部屋に入ってきた崇之に指摘されて、顔を見上げる。
 部屋の3分の1を占拠しているベッドの上で、思わず正座してしまっていた。
「・・・。
 何となく」
 自分のものも来るたびに少しずつ運んでいたから既に自分の部屋と言える状態になっているのに、こうして今日からここに住むと改めて思うと畏まってしまった。
「足しびれんで」
 …実はもう痺れてたりして…。
 口を真一文字にしている時は、言われたことが当たっている時だったりする。
 崇之は笑顔で足の裏をつついた。
「…の・ぉ・ぉ・ぉ・ぉ…」
 逃げるに逃げられなくて、ロープロープと連呼する。
「いや、ロープないし」
 笑って言うあんたはオニですかい。
「やめとこ。あんまいじめると菜由さん泣くから」
 …既に半泣きなんですが。
 少しでも早く痺れをとろうと、土踏まずをとんとん叩いた。
 荒療治でも、早く解放される方がいい。
 崇之はこっちを見ながら椅子に座ると、コーヒーを啜った。
 大分と痺れが収まったけど、今度は右のふくらはぎが攣(つ)りかけている。
 そっちは良く揉んで、どうにか鎮まった。
「今度は何してんの?」
「…攣りそうになった。」
 正直に答えたら、「ホンマおもろいなー、菜由は」と思い切り笑われた。
 あっはっはと本当に面白そうに笑われても…嬉しくないんですが。
「よー揉んどき」
 …こんなにカンジ悪いのになぁ…
 近づいて頭をぽんぽんと撫でてきた崇之にしがみつく。
 どう見ても「抱きつく」なんて表現より「しがみつく」と言う方がぴったりだ。
「どしたん?」
「…何となく」
 何となくこうしたくなっただけ。
 崇之は「ふむ。」と声に出すと、ぎゅうぅぅぅぅぅぅ…って抱きしめた。
「どーしたん?」
「いや、何となく」
 カンジ悪いのに、甘えるのと同じくらい甘やかすのも上手い。
 …こうしてずっと勝てないんだろうなぁ…。
「…あのさ…」
 顔を上げられない。
「ん?」
 顔を隠したまま深呼吸して、言う。
「ふつつか者ですが、よろしく」
 照れくさくて、冗談っぽく言ってみた。
「こちらこそ、ふつつか者ですが」
 言った崇之の腕がもう少しだけ強くなった。

 こんな風に毎日が始まって、続いていく。


                              20031217 23:50up




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