オーラル・コミュニケーション



                                イデミー


私の授業の持分

 平成6年4月より、高校1年生を対象にオーラル・コミュニケーションを3クラス1単位づつ担当している。外国人講師とのペアの授業である。弘学館は、中高一貫教育システムを根幹にしている。この3クラスは中学校からの内進組である。中学3年間を通して毎年、週に1回の英会話授業で外国人講師と話すのに慣れているクラスである。高校1年生は5クラスあって、内進組3クラス(各43名)、外進組2クラス(各45名)で構成されている。

高校1年生は週に8時間の英語の授業で、6時間の英語1と2時間のオーラル・コミュニケーションで成り立っている。私は、6時間×2クラス(外進組)を担当している。そして、その外進組のオーラル・コミュニケーションは生え抜きの松尾先生1人の授業と、松尾先生と外国人講師のペアの授業で成り立っている。すなわち、松尾先生と私は、外進組と内進組に相互乗り入れしている訳だ。原則として持ち上がり制なので、学年の全生徒を把握したいという思いで、この形となった。(宮崎先生は、非常勤講師である。)



弘学館のレベル

私の勤務校・弘学館は、昭和62年4月の開校で、卒業式は、平成2年よりわずかに5回を数えるのみだが、第1回卒業生より連綿と東京大学に進学しているが、その数の推移は、8人、2人、8人、14人、18人、と上昇中である。第1回卒業生の数は61人、第5回卒業生の数は210人ということを考えれば、約1割がコンスタントに東京大学に進学して行ったことになる。私のような、福岡県の標準的な県立高校の卒業生としては、驚異的な数字の東大進学者数である。

弘学館の生徒たちにクラスで、2学期も半ば、次のように言ったことがある。

「君達は、近くに東大進学希望者と何人も接するから幸せである。たかだか東大じゃないか、自分よりスピーチが下手だとか、自分より成績の悪かったこともあるとか、いろいろ身近に等身大に弱点を知っている。実際、慶応に落ちたけど、東大にはパスしたとか、いろいろなケースに出くわすわけで、さして遠い存在ではない。東大卒業生が社会で、必ずしも成功しているわけではない。東大は、人生の一通過点、一選択だ、目的はもっともっと高遠であれ。」



オーラル・コミュニケーションAかBかCか?

新課程が平成6年度より始まったが、各都道府県ではそれまでの5年間に新しい学習指導要領の習熟・勉強のための研修会が全高校教員に対してなされた。そして平成6年度から5年間、今度はまたしても、その新しい学習指導要領の確認・勉強のための講習会が開かれる予定だ。そして、オーラル・コミュニケーションA,B,Cの定義や、英語1、英語2との関わり等、かまびすしい。

英語1も英語2も、オーラル・コミュニケーションA,B,Cも、いずれも、「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育てる」というのが、各目標の文末である。だから、この5科目とも重なり合う部分があって当然のことである。リーディングの「英語を理解しようとする積極的な態度を育てる」、ライティングの「英語で表現しようとする積極的な態度を育てる」、この2つの目的を結びつけると、「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育てる」になる。順順巡りで結局、7科目とも大目的、根幹は同じなのだ、英語とは、トータルなものであって、受験英語とか、新聞英語とか、商業英語とか、そうそう異なるものではない。根幹は同じということを、しっかり押さえておくことが、この際、重要だ。

英語を生きた言葉として学び、それによって異文化間の交流ができるようになることを願っているのが、新指導要領の骨子だと思う。だから、目くじら立てて、我が校はオーラル・コミュニケーションAだから、生徒が話さなければならないとか、Bだからリスニングを主にすべきだとか、Cだからディベートというような線引きは、ナンセンスである。

弘学館は、オーラル・コミュニケーションBであるが、AかBかCかは、私は全然気に留めなかった。時にはCと名づけてもいいのではと内心思ったりする内容をしている。英語は、トータルなものであるべきだ。



ペアの英会話クラス、一学期

一学期は、アメリカのペンシルバニア州から来たマイケル先生とペアを組んだ。テキストには、テレビ英会話上級「インタビューを楽しむ」を使った。

平成6年4月1日、赴任した早々、松尾先生より、この英会話テキスとを使ってくれと言われ、正直言ってびっくりした。テキスとなしでは理解しがたいというのが私のリスニング・アビリティであったから、当然に生徒はチンプンカンプンであろうと老婆心ながら思ったものだ。ところが、松尾先生は、「生徒にとって難しいかもしれませんが、一つの挑戦です。知的刺激を与えるのです。それに、いろんな題材が盛り込まれますから、生徒の目が開かれると思います。」と言われた。これには、参った。感動した。共鳴した。

生徒に20分間、ビデオを見せて、残りの30分間に、トピックについての質問をマイケル先生がした。2週間してみて、これは生徒に事前に質問用紙を渡して予習をしたかどうかの確認をした方がいいと感じ、早速、実行した。マイケル先生は、生徒が答えに窮している時には、よく私に同じ質問をした。私は、彼との英会話の時間は、耳をしっかり彼の方に向けておかねばならなかった。英会話の時間は、もちろん、日本語は一切使わなかった。マイケル先生が欠勤、出張の時は、私がまるまる50分間、英語だけの授業をした。パターンは、20分間のビデオと30分間の確認のための質問と、発展的関連トピックについての各人の見解を引き出すことで、ペアでやっている授業を1人でやるだけで、何も変わりばえ。しなかった。

一学期を通してやってきたパターンを詳しく見ると、大体8つの質問事項を作り、その内5つはテレビ英会話の内容の確認、そして残りの3つは、そこから発展した、関連トピックであった。この関連トピックで、マイケル先生は生徒にディベートをさせたかったようだ。結論的な発言よりは、いろいろな見解に耳を傾けた。

一例を挙げよう。7月の第3週は、米国の女性誌『ミラベラ』の編集長の話を扱った。「恐れを知らない百人の女性」に、女優のジョディ.フォスター、歌手のジェシー・ノーマン、宇宙飛行士のミー・ジャミソン、陸上選手のジャッキー・ジョイナー・ケルジー、そして当然、弁護士のヒラリー・クリントンも入っていた。

この時は、次の5つの質問を作った。


What does Bryant mean by a “fearless “ woman ?


What kind of magazine is Mirabella ?


Does Charnin believe that the furure of fashion is the uniform ? Why or why not ?


Name three Japanese women who you think should be included in Mirabella’s “100 Fearless Women” list.


How do the mass media portray women in Japan ?

1~3は、トピックについての確認のための質問であり、4,5は、発展的関連トピックである。関連トピック4では色々な答が出た。特に多かったのが、宇宙飛行士の向井千秋、科学技術庁長官の田中真紀子、衆院議長の土井たか子、ほんとによく時代を反映していると思った。生徒は人物を挙げ、そして選んだ理由をマイケル先生に質問されるというパターンで授業は進んだ。

6月初旬だったか、中だるみを感じた折、私はクーポン券の導入を思い立った。発言した生徒には、私が、クーポン券を渡し、授業が終わるや、そのクーポン券に各自の名前を書いて私に戻すという形で、誰が発言したかをしっかり把握した。大体1レッスンに人別で10人がしゃべった。(延べ人数では12人くらい。)



一学期の評価

英会話の評価は、最終的に私一人でした。もちろんマイケル先生と松尾先生には了解済みであった。

出席さえしていれば最低60点はあるというような点の出し方をした。7回の質問用紙(予習確認用紙)の提出で、1回提出に付き3点とした。すなわち、60~81点の広がりができる。それに、クーポン券発行の4回について、1回発表に付き5点を与えた。同じ授業で2回3回発表すると、追加点1点づつ加えた。そうすると、予習確認用紙を7回全て出した人で、かつ4回発表した人は、81点+20点となり、100点を超すが、100点を越えた人は100点とした。

何とうまい具合に、平均点77点で正規分布を描いた。100点は、3クラスで4人出た。高得点を取った者は、やる気のある生徒で、彼らは以後のテストの総合点で、しっかりと頭角を現してきた。


ペアの英会話クラス、2学期

7月末でマイケル先生は、2年間の契約を終え、8月初旬より新しく英国より、ディーン先生が来られた。ディーン先生にも1学期のやり方を踏襲してもらうつもりであった。ところが、ディーン先生は、ビデオよりも生の英語をもっともっと生徒に聴かせたい、生徒とスキンシップをたくさん取りたいという申し出で、ビデオを20分から10分に少なくした。テレビ英会話の前半部のみ見せた。これはうれしいことであった。(実は、1学期に、私はこの前半部だけのビデオ放送をすすめ、マイケル先生に残り40分で会話をしてもらったことが1回だけあった。しかし、マイケル先生の強い要望で、ビデオは全部見ることになった。)

テレビの内容の質問に関しては、ディーン先生は、きちんと解答をコピーして、授業の最初に配られる。だから、この質問に関する英会話は、カットだ。彼は、ビデオ10分、ゲーム10~20分、ビデオ関連トピック20~30分といった配分だ。

9月のクーポン券の発行実績はすばらしく、1学期の2倍を優に超えている。延べで各回に、28人位がしゃべる。(人別で22人ほどだ。)

そこで、10月はクーポンなし月間にしている。Assistant Language Teacherというが、英会話の授業では、ディーン先生がmainだ。ALTを生き生きさせる、最も良い方法は、JALがアシスタントに徹することである。私は、ビデオの取り扱いと出欠簿の管理に、できるだけ専念するつもりだ。


7.2学期、3学期の評価

11月以降、結局、クーポンを取り入れなかった。2学期の評価は、英検準2級のリスニングテストを課して、リスニング20点、予習確認用紙の提出20点、発表10点、出席50点とした。3学期は、2学期のスタイルを更に発展させて、リスニング(第2回英検準2級の得点を2倍)40点、用紙の提出30点、出席30点とした。(この項目は、平成7年3月に追加)



生徒の反響

ディーン先生は、生徒の気持ちを把握したくて、授業内容に関するアンケートを9月中旬に実施された。

英会話上級のビデオを何分見たいかという問いは、3者択一式だった。


0 mitutes ………・・5人


10minutes・・……・・65人


20minutes・・……・・20人

残りは、アンケート未回収だった。このアンケートは、無記名で、授業後3日して係の生徒が集めたものを、先生に渡した。

テレビ英会話上級の番組についてどう思うかに対しては、大半が難しいと答えていた。宿題(予習確認用紙=質問用紙)を課すことについては、大半が嫌悪感を表明。ゲームに関してどう思うかの項目では、もっと多くのゲームを望み、ディーン先生の国の話などをもっと聞きたいという意見があった。又、クーポン券については、各クラスで1名づつ、否定的見解を書いていた。

ディーン先生と私は、これらのアンケートをたたき台に、参考にしつつも、テレビ英会話は続けることを確認した。クーポン券についても、評価は、あくまで教員の裁量権だから、適宜利用していくことを確認した。より良い評価のあり方、そしてより実りある楽しい英会話クラスを求めて、現在奮闘中だ。

                          (平成6年10月執筆)

                  (松尾学園弘学館中学校・高等学校教諭)

CHART NETWORK 英語 No.16 (平成7年4月発行)からコピー





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