“お笑い”哲学論のページにようこそ!

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◆首が回らない◆


私は金持ちではないが、頭痛持ちです。

膝も痛みます。
膝は、いつも痛むわけではありません。
季節の変わり目などに、膝をどこかにぶつけた時に痛むのです。

目の調子も良くない。
パソコンなどで目を酷使した後などに本を読んでいると、漢字によっては読めないことがあります。
アラビア語の本などは、まったく読めません。
よほど目の調子が良い時でないと、読めないでしょう。
(今まで一度も、アラビア語の本が読めるほど、目の調子が良かったことがありません)

心臓の調子も良くありません。
きれいな女性と一緒にいると心臓の動悸が激しくなります。
そのうえ、高級ブランドのブティックなどに入ると、心臓発作を起こすに違いありません。
(幸い、入った事はありません)

先日、追い撃ちをかけるように、首が痛くなりました。

これまでも痛かったのですが、真後ろにまで首を回そうとした時しか痛まなかったため、異常だと思いながらも、誰にも言わないでおいたのです。
それが、今度はちょっと横を見ようとしただけでも痛むのです。

そもそも首というものは、ネックレスやマフラーを巻くためにあるのではありません。
首は身長を増やし、頭部を回すためにあります。
首が回らないのは、考えない頭と同じくらい始末が悪い。
魚介類のように首が無いのもいますが、その場合は目が、ほぼ360度見える位置に付いていて、頭を回転させる必要がないのです。

首が痛くなって発見したことがいくつかあります。
1. 身体の不調は、より大きい不調によって取って代わられる。
 (実際、首の痛さで他の不調が気にならなくなりました)
2. 首が痛い時は、背筋をピンと伸ばした異様に正しい姿勢しかできない。
3. 首が痛む人は魚介類ではない。

首を痛めた原因としては、仕事のしすぎ、パソコンの使いすぎ、食べすぎ、飲みすぎ、運動不足、睡眠不足、端正な顔立ち、優しい性格、寝違え、などが思い当たります。
(首が回らないことから推測すると、資金繰りの悪化も懸念材料です)


一日経ってもよくならないので、通りがかりに偶然見つけた治療院に入りました。

指圧と整体を合わせたような治療を掲げているところで、一般の民家の一部を少し改装したような治療院です。
入ってみると、誰も居なくて薄暗くひんやりとした内部で、選択を誤ったという後悔が私を襲いました。

六畳ほどの和室が診療室になっており、真ん中にぺちゃんこの布団が敷いてあります。
奥から出てきた先生は、六十代後半でくたびれた白いワイシャツに黒ズボンという格好です。
太い眉、厚い唇、太く短い首、つやの良い顔色、いかにも頑丈そうです。
どうして、こういう人は丈夫そうなのでしょうか。
指圧されるよりも、指圧する方が健康にいいのかも知れません。

ズボンのベルトを外し、布団の上に座るように指示されます。
どうしてベルトを外す必要があるのか、疑問に思いながら指示に従うと、先生はやおら上半身裸になり、さらに、ズボンを脱ぎました。
私は「や、やめてください」と叫ぼうとしましたが、ちゅうちょしている間に、先生は背後に回り、両腕と両足を私の身体に巻きつけて、強い力で抱き締めました。

抵抗しようにも身動きがとれません。
もう、なるようになれ、と諦めたとき、身体に回した腕に力が入ったかと思うと、裂ぱくの気合とともに、私の首が強く捻られ、ボキッと音を発てて折れました。

整体治療で頚椎を折り、全身不随になったという噂話を聞いたのが思い出され、脇の下に冷や汗が滲みます。
おそるおそる手足を動かしてみると、幸いなんとか動くようです。
ホッと安心したところに、二回目の気合が走り、今度は本当に首が音を発てて折れました。

「少しは良くなりましたか」と訊かれて、恐々と首を動かしてみると、痛みが走り、麻痺していないことは判りました。
痛いのがこんなに嬉しかったのは始めてです。
私は、
「嘘のように治りました」
と嘘をつきました。

「痛い」と答えたら、今度こそ本当に首を折られるかも知れません。
奇跡が三回も続くはずがありません。
私は痛いのを悟られないよう、晴々した顔を作り、できるだけ自然に見えるように首を動かしながら診療室を出ました。

帰り道、私は異様に正しい姿勢で歩きながら、首が痛いことの喜びをかみしめていました。

そして、この治療院を、日頃から私を酷使する佐々木さんに薦めようと思い立ち、ついでに何人かの友人の名前をメモしたのです。



《追記》
これを読んだ私の周囲の方々で、私のせいで体調が思わしくないとおっしゃる方には、是非この治療院の治療を受けることをお薦めします。





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