本物はお金も時間もかかる
尊敬する知人の建築家から直接聴いた言葉だ。
先日、兵庫県立美術館で開催中の「東山魁夷展」に
行ってきた。
本物が持つ迫力というのだろうか。
わたしは特に、唐招提寺御影堂の壁画（濤声）での
東山氏の画力に圧倒された。
怒濤のような波が描かれているが、まさに波のしぶきが
私の服にまで、かかってきそうな勢いだ。
また、海原のまっただ中に私がいて、波の轟音が
聞こえてくるかのような錯覚を私に起こさせてくれた。
東山氏の年譜を読むと
東山氏は青年期までは順風満帆の人生だったが、
その後、さまざまな試練が東山氏を襲いかかる。
それでも困難に怯まず、自己習練を重ねるうちに、
徐々に脚光を浴び始める。
それまでに、ひたむきな基礎固めの時期、構想にかかる時間、
修練の日々、その間にかかる取材、生活費等、
海外遊学の費用等々、膨大な自己投資を
重ねただろうことは想像にかたくない。
「これはっ、一長一短に出来るものではない」
しみじみそう思った。
展覧会場をゆっくり歩きながら、私の耳に冒頭の建築家の
ことばがフッと聞こえた。
「本物はお金も時間もかかるんです」
「ほんまやなあ」「なるほどなあ」「まさにそうだなあ」
その建築家は
建築材料である大黒柱を探すために、
日本全国の山に分け入り、自分の目で確かめ
一本一本吟味しに行くという。
そして、本物の大工と職人を選び、お客様が喜び
自分も納得いくものを建てるという。
組む人間は、ただ単に生活費をかせぐためだけに
イヤイヤ仕事をしている人でなく、本人の「心意気」から
「本当にお客さんが喜ぶ家を建ててあげたい」と心底
思っている人だ。
そういう考えでやっている人は稀であり、人件費も高い。
自己の利益のためだけに、安上がりであげようとする
工務店の中には、後々シックハウスになる合成建材で
建て、住まわれた家族中が病気になっている人もいる
らしい。
その建築家が建てる家は
価格面は短期的には、普通の値段からすれば高くつくが、
何十年も住んでみると、その良さが実感できる。
安くあげようとすると、工期を短くして、手を抜けば
いくらでも安くできるが、そんなことは鼻っから考えも
及ばないという。
暴利をむさぼるのではなく、適性利益を考えての
価格だという。結果的には「安かったなあ」となる。
また、「クライアントに喜んでもらいたい」と思って
作業を行うため、ひとつひとつの工程が手作りに近く、
工期も通常の建築の倍ほどの時間が、どうしてもかかる。
しかし、自ずから出来上がりが違う。
結果的には長く幸福に住める家ができあがるのだと言う。
そういう「本物」の建築をプランニングし広げることを、
その建築家は「使命」とし、「生き甲斐」を感じている。
２つの事例をみて、わたしは考えた。
「本物とは何だろうか？」と。
逆に
「偽物とはどういうものだろうか？」も
考えた。
本物とは
広辞苑によると
「その名に値する本当のもの」
「技芸などが素人ばなれしていること」とある。
これは、私には、わかったようなわからないような感じだ。
わたしの結論はこうだ。
「価値を生み出すかどうかの違いだ。」
と考え出した。
私たちは『価値』のあるものにお金を、使う、払う。
「それでは『価値』とは何か？」
これまた広辞苑によると
『価値』とは
「物事の役に立つ性質、程度」
「ねうち、効用」とある。
それはそうだ。
そう考えると本物とは何か？
真善美にできる限り近いものではないか。
私の定義は、
われわれ人間の理想としての普遍妥当な価値である
「『真善美』に非常に近い存在や事物。」だ。
つまり、
認識上の真と、倫理上の善と、審美上の美により近い人、物、事だ。
もっとわかりやすく言うと、
「本当、良い、美しい」に、
より近づいた人や、物や、事だ。
そういえば、
わたしたちは「本当、良い、美しい」人、事物に
何故かスッと心が惹かれる。
『本物』と出会った時、私は「心を打たれる」
こころが動かされる。感動する。
充たされた気持ちを味わう。
例えようもない「ええなあ」という良い感覚を味わう。
ひるがえって私の生活や行動はどうだろう。
「本物にふれる」と、
自分の襟を正そうという気持ちになる。
理屈ではない。自然に。
今の自分などは、未熟で、ヒヨッコもええとこやなあと
思い知らされる。
まだまだ全然、足下にも及ばない。
しかし
「本物はいい」
生きている間に、
わたしは少しでも本物に近づきたいと思う。
そのポイントは継続だと思う。
夢や志や情熱を、どれだけ心に抱き続け
向上するための行動を続けられるか。
そのためには、もちろん、お金もかかる。時間もかかる。
それはお金も時間もかかって当然だ。
何よりも「自分に克つ」ことが最重要だ。
少しでも「本物」に近づきたい。
日々自己と対峙しながら、自己習練、自己錬磨に
精進しよう。
そのためには今日から自分との勝負だ。
自分の甘さと弱さと小ささを踏み越えて行こう！
日々、自分が決めたことを自分が守りやり遂げるしかない。
今日から、もう一度気を引き締めて勇往邁進しよう！
よしっ、今日もやるぞ！
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