VISIT

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さくら  1




「あれっ直んねぇ、これ」
何でだ。何でいくら拭いても直らないんだっ。電気具屋『鎖衛門』の店長から、一週間自分が旅行にいくというので、その間店番を任された俺は非常に焦った。もしこのままこれが直んないで一週間過ぎてしまったとしたら・・・・・・・・・・・、
確実にヤられる。あの我が儘かつ傲慢、般若という言葉が恐ろしいほどに似合う、あの、女店長に。
「くそ。マジでブッ飛んだか。直ーれ、治れぇっ。」
「何、やってるの。」
知らない、機械みたいな一直線の声。
見ると、そこには一人の女の子がいた。風貌から見て小学生らしい。いまどき珍しくもない私服制の学校、胸につけた名札(激ダサ)には『梅宮 敦子』って名前と『5-1』の文字が見て取れた。・・・小学生か。俺なんかよりよっぽどいい頭持ってんだろうな。

2015年。そっから世界はガラリと変わった。遺伝子組み換え禁止令が解除されて、アインシュタイン並みの脳みそ、天才的な音楽感性、体の一部変改などなど人間が今までできなかったことをそっからのたった1年ですべてやってのけた、最高の時代。俗に言う革命時代ってワケだ。不運にも俺はその時代には立派に学生してて、このガキは遺伝子操作で最高のなにかを持ってこの世に出てきたんだろう。実に怨めしい。
「何、嬢ちゃん。何か用あんの?」
「だって、それ、拭いても直るわけないよ。」
「何を言ってる、1988型のテレビは拭きゃ治るんだ。見てろ嬢ちゃん、俺が治す!」
「無理だよ、いくらディスプレイ拭いたって直るわけないでしょ。馬鹿だね、お兄さん。」
いくら馬鹿な俺でもガキなんかに嘗められるとは!最低の気分だ!
「んじゃ拭く以外にどうすりゃ直るんだっての。言ってみろこの糞ガキ」
「こうするの」
言うのが遅いか早いか、嬢ちゃんはテレビの側面をグーで殴った!
「なっ・・・!?お前何してくれんだ!商品なんだぞっ!?」
カッとなった俺は思わず嬢ちゃんの胸倉を掴んでしまっていて、引っ込みつかなくなってそのままの格好でジロリ、と嬢ちゃんを睨んだ。
「・・・テレビ見て。」
・・・・・・あらっ?直っ・・・てる。
テレビは順調にそこらに流れてる有料法外電波をキャッチして、スプラッターな画像をディスプレイから流していた。
悪いことしてしまった。というか、さすが遺伝子操作のガキだな、と感心した。きっとさっきの一発も、あの頭で緻密な演算、計算を繰り返し、どの程度の力を与えれば正常に動くか、とか考えて、それで実行に移したんだろう。
「ごめんな。俺すぐ頭くるタイプだから。」
そう言って俺は手を離し、片手で謝る仕草をしてみせた。
「別に。家で慣れてるもん。」
「何だよ、それ。」
「親、暴力振るうから。」
なんだそりゃ。というか、その前に俺の頭には疑問が浮いた。だってこのガキは〔遺伝子操作されたんじゃないのか〕。こいつは今小5だから10か11。
2015年から革命時代で今は2027年。つまり嬢ちゃんは革命時代に生まれてるから操作はされてるはず。問題はここからだ。
今では操作なんて100¥ぐらいで楽にできるが始まったばかりのときは結構な額・・・。そこまでの膨大な金をつぎ込んだ子供に暴力なんてふるうのか?
「嬢ちゃん、嘘だろそれ。だいたいお前操作されてるだろ?」
「操作って遺伝子操作のこと?されてない。うちは貧乏だから。」
! 俺としたことが、ガキだからってすぐ操作されたと決め付けてしまったいた。
あぁ、自分愚かしい・・・。
「えっ、てことはさっきのテレビ叩いたのは緻密な演算と計算を繰り返しどの程度の力で正常」
「何いってるの?勘だよ、あんなの。」
なんつーガキ。
「じゃ、じゃあ本当にやられてんの。」
嬢ちゃんは何も言わず自分の長袖パーカをたくし上げた。
「ぅっ・・・」
そこには、赤や青の痣でめいいっぱい彩られたうえに、タバコの跡、ナイフか何かでつけられた傷で埋まった腕があった。なんつー親だ。その時俺は、ぶん殴りてぇ、と本気で思った。
「大丈夫なの?なんならウチ、泊まってくか。」
「でも、いなくなると怒られるかも。おつかいの途中だから、私」
嬢ちゃんの持ってたバッグを横目で見ると、中にはタバコと酒、旧式ドラッグが入っていた。こんなもんガキに買わせてきやがってっ・・・!
「いいいい、ウチ泊まりな。んな野郎ほっとけばいい。」
「でも・・・、」
これまでロボットみたいに無表情だった嬢ちゃんが、初めて困った表情を出した。
「大丈夫。それに、もし嬢ちゃんの親がウチ来たって追い払えばなんてことねぇよ。だろ?」
「お兄さん・・・弱そう。」
「何を!この腕を見てみ、新しく発見されたニバリウムってかたーい物質でできてんの。だからそんな野郎楽に倒せんのさっ」
「本当に、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!俺のこと信じろって!」
果たして、本当に信じてくれるだろうか?この腕がブリキ製だってことを知られてなきゃいいんだが。
「・・・・わかった。」
それでやっと困った顔が無くなると思いきや、さらに顔をしかめながら了承した。少し気に喰わないけど、ま、いっか。とりあえずこの子は今日、何にもされずに済むんだから。

「嬢ちゃんの名前は敦子、だろ。俺は古村 竜菫(りゅうきん)。リュウでいいから。」
「・・・一晩、よろしく。リュウさん。」
「ぁぃよ。晩飯何がいい?」
「んー・・・、麻腐カレー。学校の給食なんだけど。」
「うしっ。よくわかんねーけどとりあえず作ってみてやるよ。グワッハッハッハ!」
そうして、俺とアッちゃんの短い同居生活は始まった。



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