VISIT

VISIT

さくら  3



電具屋『鎖衛門』をでてきた俺は、これからどうするか考えあぐねていた。
と、まるで頃合いを見計らったかのように梅宮夫妻の姿を見かけたので、ちょっと、びびった。
しかもこっちに近づいてくるようだ。敦子ちゃんの事を知ってると気づかれないよう、俺は平静を装った。
「よう。なぁ、あの後見かけたか、こいつ。」
そういって奴等が見せて来た写真の中の敦子ちゃんの目は、今のものと大きな差があった。

カオが無い。
そう、この敦子ちゃんには、顔が無かった。突き詰めていうと、表情。
子供の頃から見てきた。 怒り、悲しみ、喜び、憎悪、恐怖、嫌悪、愛情、嫉妬。
隠したって俺にだけはだいたい分かる。相手が何を考えていて、何をしたいのか。
この話は俺の生い立ちとふかーい関係があるのだが、その話は後にして、とにかく敦子ちゃんの写真からはどの感情も見受けられなかった。本物の無表情、その言葉がぴったりだ。

きっと敦子ちゃんは。

本当に、何かを考えられる余裕というのが、皆無だったのだと思う。

「いや、本当知らないんですって!つーか、なんでこんなガキ探してるんですか?あ、やっぱ娘とか?」
「関係ない。知らないのならそれでいい。見たら教えろよ」

「・・・・教えろって、連絡先しらないんですけど。」
「あぁ、東区奈津芽。そこのクラブMAPにだいたいいるから。じゃあ。」
こいつ、携帯番号の一つも教えないのか。ま、個人情報探るのにはあんまり影響しないけど。俺のコネと力量はすごいから。
このくらいならグライドに頼めば十分程で済むだろう。報酬がないのは残念だが、竜のためだ、大切な奴のためならいくらでも頑張ろう。
問題は、敦子ちゃんの方なんだよな。腑に落ちないところがありすぎる。
俺はグライドの住んでるホームページに飛ぶために、ポケットからケーブルをとりだして、ケータイと耳の下に付けたコネクタに差し込んだ。

さて、ちゃんといるかな?
俺がグライドのページを入力すると、視界は可愛らしい子供部屋に変わった。相変わらず奴の趣味は悪い。
「グライド、居る?」
「なんだ、また十部衛さん?最近やけに足を運ぶね。」
「無駄話はいいからさ、はや……」

「やっば!!!」
現実の俺の目の前には、大型トラックがせまってきていた。どうやら、赤信号を渡ってしまっていたらしい…。反射的に前に走り出したが、バランスを崩してころんでしまった!おかげで左足の膝から下をタイヤの下敷きにされ、俺の足は様々な色のコードが丸見えになった無残なものとなってしまった。
何はともあれ、頭が無事でよかった。
ちょっと視界を体に戻したら、目の前にはトラック、だもんな。
やっぱり歩きながら回線繋ぐのはよくないか。
気づいたころには俺を轢いてくれたトラックはすでにいなくなってしまっていて、轢かれるところを見ていた傍観者も、俺が何事もなかったかのように立ち上がるのを見ると平然と歩き出していた。嫌な時代だ。そんなことを、ふと思う。
俺はまだ使える右足でぴょんぴょん跳びながら、人気の無い路地裏に入ると、視界をネットに切り換えた。

「どうしたの?」
「あぁ、轢かれた。」
「はぁ!?轢かれたって何だよ?」
「左足轢かれたんだよ。ま、体機械だから何ともないけどさ。」
「あ、そ…。で、用事は?」「梅宮トシヤと梅宮レンカを消してくれ。戸籍からバーコードナンバー、全部な。」
「その人達にウイルス送っちゃえば現実からも消せるけど?」
「いや、いい。お前にこれ以上貸しつくりたくないもん」
「はいはい。じゃあ終わるまで待っててよ。暇だし」
「何?お前同時進行プログラム組んだの?」
「四、五個同時にできなきゃ仕事が減らないんだよ。」
「はっー。大変ねぇ。」

グライドの本当の名前は知らない。それどころか奴の本体の在処も、何歳かも俺には見当がつかない。というか、知りたくもない。
なぜかって?
奴は、ゲイだからだ。
顔は可愛い美少年につくっているが、それも男にとりいるための小細工であり、グライドの網にひっかかる奴も少なくはない。…考えるだけで恐ろしい。だから奴に貸しをつくりたくなかったのだ。下手すると体を捧げなくちゃなんなくなる。それだけは絶対に、絶対に避けたい。

「ねぇ、十部衛さん?」
「寄るな、触るな、殺すぞ」
「全く!相変わらずつれないなぁ。お前の好みはどんなだよ?」
「メス。」
「はぁ…。時代は同性愛だよ?」
なんて時代だ…。そんな事を思いながら俺は次の話題へ切り替える。
「なぁ、全部終わったらもうひとつ頼みごとがある。」
「金は?」
「十万¥やる。これはちょっと厄介そうなんだよ。」
「そんなにー?嬉しいねぇ。で、誰をどう調べれば?」
「ちょっと待ってろ。今映像データ送るから。」
俺は自分の記憶から敦子ちゃんの写真データと、竜と一緒にいるときの敦子ちゃんの動画データを引き出した。
「この写真の女の子?名前は?」
「梅宮敦子。で、こっちの動画が竜が連れ出して数日経ったときの敦子ちゃん。」
「ふーん・・・。何、十部衛さんロリコンだったの。」
「阿呆。とにかく調べてくれ。ところで、もう二人の方は終わったんじゃないのか?」
「ん・・・、あれ?十部衛さん、何かこいつらもワケありっぽい」
「どんなだ」
「こいつら、政府関係の人たちだ。でも、それ以前にヤクザとの関係が見られるから・・・、政府に潜り込んで組に有力な情報調べてる、そんなところだろう、そう思ってた。」
「それで?」
「うん。どうやらそれすらカモフラージュらしい。それで何をそんなに隠したがってるのかって言うと・・・」
「いうと?」
「わからない。」
「はあ?お前腕落ちた?そこわかんなくてどうするんだよ」
「仕方ないよー・・・。だってどんな手使ったって肝心な場所にアクセスできないんだもん。パスワードがどうしても開けられない。」
「全く・・・、俺がまた来るまでになんとかしろ。あと、敦子ちゃんのほうも忘れるなよ?」
「えー、面倒くさい。」
「何のために同時進行プログラム組んだんだよ。じゃ、よろしく。」
そう言って俺はすばやく回線を遮断した。無駄な掛け合いはしたくなかったし、こっちにだって、時間がない。早く足をつけなければ。
俺は必死に足をぴょんぴょんさせながら、近くのタクシープールへ向かった。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: