Give me a break…休マセテ…

PreciouS









今、私はあなたの部屋にきている。

道を歩いてたらたまたまあなたに会って、

目の前のマンションが仁の家で。



「はい、タオル。」


あなたがバスタオルを渡してくれた。

あなたの部屋は結構広くて、きれいだった。

男の人の部屋って初めてで

なんかドキドキする。



「何やってたんだよ、傘も差さずに。」

「……」

「いってくんなきゃわかんねーだろ?」



あなたは怒ってるっていうより心配してた。

私だって言いたいよ。

あなたは私の過去を聞いたら、私が全てを話したら

後悔するんじゃない?

…違う。後悔するのは私の方だ。

言わなきゃよかったって思うんだ、きっと。


不安で胸が押しつぶされそう…



「あかね。俺さ、学校行った方がいいって言ったじゃん?」


あなたはベッドに座って話し始めた。




「あれな、お前に俺と同じ道歩かせたくなかったからなんだ。
…俺、高校ん時非行少年でさぁ(笑) 学校ほとんど行かなくて。
たまに学校行ってもケンカしたり問題ばっか起こしてた。
あん時、俺は多分自分を認めてほしかったんだと思う。
俺の親ね、小さい会社経営してて、家ではいつも俺1人だったから。
そんで俺、高3になる前に辞めたんだ、学校。
学校側は早く俺を辞めさせたかったみてーだけど。
うちの親が援助金ちょっとだけだしてたみてーでさ。
俺、そのこと知らなくて親の前でキレたんだ。
『愛情よりも金なのか』って。それから俺の非行はますます激しくなった。
親のカード盗んで使いまくって。家にも帰んなかった。
それが3ヶ月くらい続いたある日、…親父が交通事故に遭ったんだ。」



急にあなたの顔が暗くなった。

いつも見ているあなたの顔じゃなかった。

短い沈黙のあとあなたがまた話し始めた。




「親父が運転してた車にトラックが突っ込んだんだ。
親父は重体で生死をさまよってた。
俺は、このことを母親からの電話で知ったんだ。
でも……俺は行かなかった。
それから2日後親父は死んだ。そのとき久しぶりに家に帰った。
そしたら母親が泣きながら俺に抱きついてきて
『心配したのよ』って。その時初めて親の愛情を感じた。
俺はただ棺の前に立ち尽くして ごめん
ってそれだけしかいえなかった。
あとで母親が教えてくれたんだけど
親父は死ぬ寸前まで俺の名前を呼んでたらしい。何度も何度も。
意識なんてほとんどなかったはずなのに。俺はやっと自分がしてきたことの罪の重さを知ったんだ。」


あなたの目には涙がにじんでいた。

いつも明るい仁がはじめて見せた表情。

あなたも…あなたも私と似てるんだ。

あなたも、親に愛されたいんだ。



私も目から自然と涙がこぼれた。

忘れていた涙。

私のいやな過去と一緒に捨てたはずの涙が。



「ねぇ…。」




私はきていた上着とシャツを脱いだ。


「おい、何やってんだよ!?」


あなたは慌てて目をそらす。

当たり前だよね。私、今、上は下着だけだもん。

でもね、あなたに言いたいんだ。私の過去を。

あなたが私に言ってくれたように。


「ねぇ。こっち向いて?」

「……」


あなたは無言のままこっちを見てくれない。

泣少女

「ねぇ!!」


私はあなたの元に駆け寄った。


「私ね、私の体…」


私はそっとあなたの前に腕を出した。

痣は消えてなくなったけど、今でも残ってるタバコの痕。

それを見たあなたはびっくりして私を見る。



「私ね、両親いないの。6歳の時から施設で暮らしてるんだ。原因は父親。
父親の暴力。私の体にあるのはその痕だよ。
母親はね、私を置いて出てった。
私が保護されるまでの8ヶ月間、父親の暴力は毎日続いた。ご飯もろくに食べさせてもらえなくて。
私が保護された時、6歳児の平均体重の半分もいってなかったんだ。
周りからは「よく生きてたね」っていわれてたらしい。
それから、私は施設で暮らし始めた。…でも大人の人が怖かった。特に男の人が。
大きくなるにつれてだいぶ克服していったけど今でもやっぱ怖い。
初めてあなたに会った時、私、タバコ投げ捨てたでしょ?
あの時も過去の記憶が蘇ってどうしようも
できなかったんだ。
怖くて怖くて、またタバコの火を押しつけられるんじゃないかって…」


あなたは私の話を黙って聞いてた。て


「あなたがそんな事しないのはわかってるけど、でも怖かった。
頭の中で何度も父親の暴力シーンがリピートされて…
だから、最初仁を信じるのが怖かったんだ。
あなたも母親みたいに私を見捨てるんじゃないかって、
父親みたいに冷たい目で私を見るんじゃないかって…っ」


止まった涙がまた溢れた。

あなたの手が私のほほに触れる。

そして、私を優しく抱きしめてくれた。



「よく、頑張ったな。」


あなたの言葉でまた涙が溢れてくる。

今まで溜めてきた涙が一気に溢れだした。


「ぅ…んっ…」




涙が邪魔で声にならない。

私は小さい子のように泣きじゃくった。

あなたがゆっくりと私から離れて、2人の目が合った。

あなたの目にもうっすら涙が滲んでた。



「あのねっ…私も…あなたのことが、好きっ…」


涙ながらに伝えた言葉。

やっと…やっと伝えれた。


あなたは優しく微笑んでくれた。

あなたの暖かい手が私の傷跡に触れる。

一瞬、体がビクついた。



「怖がらなくても大丈夫。俺はお前の味方だから。
なぁ…愛してるよ。」



唇が触れ合う。幸せだって思えた瞬間だった。


私はもう一度仁に抱きついた。


「私も、愛してるよ。」


もう一度、キスをする。

さっきよりも 深く、長く。



私たちはそのままベッドに倒れこんだ。





朝、あなたのベッドで目を覚ます。横にはまだ寝ている仁。

すごく幸せ。

私はあなたに抱きついた。


「…んっ?」


あなたの腕が私の腰に回る。


「あ、ごめん。起こしちゃった?」



「なぁ。」

「ん?」

「お前、母親に会えよ。」


突然のあなたの言葉。

あの後、私話したんだ。母親のことを。

自分は会いたくないってことも。

そしたらあなたも話してくれた。あなたの母親のこと。

あなたの母親は半年前に亡くなったって。



「お前には、母親がいるんだ。世界にたった一人の母親だぞ?」


あなたの言葉が重く感じた。



「今までの気持ち伝えてこいよ。一生懸命生きてきたんだって自慢してやれ。
愛はそれくらい価値のある人間なんだ。」


あなたの言葉でまた涙が溢れてくる。

それに気づいたあなたが私をそっと包んでくれた。


「うん…会うよ。ありがと…。」







「ありがとね。行ってきます。」

「頑張れよ☆」


あなたに見送られて あなたの部屋を後にする。


あなたが私に話してくれたこと。あなたが私にくれた愛。



私、強くなる。もう、逃げないから。

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