ALL TOMORROW'S PARTIES

平凡なサラリーマンのある平凡でない一日


私は通勤電車の中でいつも本を読むことにしている。
今日読んでいるのは「人妻調教ー闇の肉宴」という倒錯的な性愛を
実地的見地から描いたとても興味深い本である。
他のやつらは皆本にブックカバーなんて物をかけて自分の読んでいる本を
人に知られないように細心の注意を払っているが、私には全く理解できない。
どうして隠そうとするのだ。そんなのは不健康な姿だ。
人間はもっとありのままに生きるべきだ。
私の目の前の座席に腰を下ろしている女性が私を怪訝な顔でにらんでいる。
これは私の下半身がいつのまにやらエレクトしてしまっていることが関係しているのだろう。
しかし、下半身とは別に私の頭の中が今どんなに理性的か。
ちょっとみせてやりたいくらいだ。例えば私は今日本の将来を憂いて
少子化をふせぎ、高齢化を食い止めるためのよい具体案を必死で考えているところだ。
それなのにこの女ときたらそんなことは考えもしないで
人を変態と決め付けている。短絡的で想像力が無い。
こういうやつらが日本を駄目にするんだろう。
嘆かわしいことだ。私はため息をついた。
目的の駅に到着しホームを降りると今度は往来を行きかう人が
遠慮も無く私をじろじろ見る。子供づれの母親が私を見て
驚いて必死に子どもの目を覆っている。
これはさっき下半身が窮屈だからとジッパーを全開にしたことが
関係しているのかもしれない。それにしてもあのきちがいをみるような
目はどうだ。人の尊厳なんてまるっきり無視しじゃないか。
私は妻も子どももいる。今だって部長として立派に
一日の職務を遂行しようと会社に向かっているところだ。
そんな生活をもう20年以上続けている。
税金だってちゃんと納めている。何、一市民として当然のことだ。
それなのにお前らは私をそんな目で見るのか。若者よ。働け。
やっと会社についてほっとした。しかしいつもは可愛らしく元気に
挨拶をしてくれる若い女性社員たちが今日は私を見るなり悲鳴を
あげて逃げ出した。なぜだ。もしかしたらさっき暑いからと服を全部脱いでしまったのがいけなかったのか。
しかしいやらしい気持ちは微塵もないのだ。その証拠に私はもうエレクトしていない。
暑い、だから脱ぐ。それだけのことにお前らは私をいやらしいという眼で見る。
そんなお前らの方がいやらしい。
私が気を取り直していつもどおり「やあ、おはよう」と挨拶しても
皆腰を抜かして私を非人間的な目で見る。泣き出す女性社員もいる。
それにしても服を着ていないというだけでよくこれだけ人を馬鹿にできるものだ。
人を外見で判断するとは、これが教育を受けた人間のすることだろうか。
文明的な生活というのはここまで人の心を荒廃させるのか。
なんということだ。もう手遅れだ。
私は絶望的な気持ちになった。
その時けたたましいサイレンの音が鳴り響きパトカーから警官が
でてきて私をいきなり押さえつけた。

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