ALL TOMORROW'S PARTIES

白昼夢


栩栩然として胡蝶なり。
自ら喩しみ志に適へるかな。
周なるを知らざるなり。
俄然として覚むれば、則ち遽遽然として周なり。
知らず周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるか。」


・・・・この夢を見るのは果たして何度目だろうか。
見覚えのある懐かしい光景が目の前に広がっていた。
白い砂に足を埋まらせながら青い空に溶けたような
茫漠と広がる海を眺める。
私はここでは幼い少女であった。
年のころは12、3歳くらいであろうか。
腰までかかる長い、軽やかな髪が風に柔らかくなびく。
そこで私は、歌を歌った。聞いたことの無い、それでいて
ひどくなつかしい、とても美しいメロディだった・・・


突然後ろから押し出されるようにして目が覚めた。
そこはいつもの、会社へ向かう朝の満員電車の中だった。
息苦しい車内に発狂寸前といった無表情の客たちが
ひしめきあっていた。
電車はちょうど主要ターミナル駅へと到着したところで
ドア付近に押し付けられていた私は降りようとする
中の客にものすごいいきおいで外へと押しやられたのだった。
(よくこんなところで眠れたものだ・・・)
いまだ寝ぼけ眼で頭のぼーっとしている私を押しのけ新たな乗客が
次々に車内に乗り込んでいったので私の戻るスペースはなくなってしまった。私はすっかり元通り埋まったその電車を力なく見送った。
そこでお腹の空いていることに気づいた私は、近くにあった
うどん屋に入り、月見うどんをひとつ注文した。


・・・・・それから私、は砂浜をゆっくりと歩き、
服を脱ぎ捨てると水着になった。
そして足先からゆっくりと海へと入っていった。
水は暖かく心地よかった。
そして沖合いまで思う存分泳ぎ、疲れると水面にうかんで
ゆったりと身を任せるのだった・・・・・


目が覚めると目の前にはさっき注文した月見うどんが
置かれていた。麺はのびきっていた。
あわてて時計を見るともう既に10時を回っている。
あれから私はまた居眠りをしてしまい、一時間以上が経過したらしい。
(起こしてくれてもいいのに・・・)
私は腹を立てて厨房を見た。居眠りする私をいい御身分だとでも
いったように皆忙しく立ち回っていた。
それにしてもこんなに眠いとは一体どうしたんだろう。
昨日の夜飲んだ睡眠薬が今頃聞いてきたのだろうか。
まさかな・・・
私はテーブルにある冷たいお茶を一気に飲み干した。
しかし、頭はちっともすっきりしなかった。

会社に無断で遅刻した私は早速部長に呼び出された。
部長のお小言は今朝の遅刻の件から、勤務態度、
私の最近の営業成績の不振にまで話が及び終わりそうに無かった。
しかし私の頭の中は相変わらずしびれたままで
ひどく現実感が無かった。
私のそんな様子に腹を立てた部長はさらに怒気を増して私を叱っていた。
「君っ!やる気はあるのか!?無いのか!?」
「・・・・はい。」
部長は呆れて私にもう戻っていい、といった。
そして最後に「君がそんな態度なら、こっちもなんらかの処分を考えなきゃならんな」と付け加えた。
私はただ、眠かった。

・・・・・・泳ぎ疲れた私は浜辺にあがり、
綺麗な貝殻を物色して拾い集めた。
これで首飾りを作るつもりだ。
濡れた貝殻は日差しに照らされてぴかぴかと光っていた・・・

やっと仕事を終えた私は疲れきった身体を引きずるように
家路を急いだ。
異常な眠気はまだ私の頭を支配していた。
勤務中も何度も白昼夢に陥りそうになった。
そのたびにあの青い海と空が私の眼前に広がった。
私はそこへ帰りたい、と思った。
「少女が私なのか、私が少女なのか。
果たしてどちらが本当なのだろうか・・・。」
そんなことを考えながらふらふらと道路に飛び出した。
信号は赤だった。横から大型のトラックが驚いて急ブレーキをかけながら
私に突っ込もうとしていた。
その時、私はこの日最大の眠気に襲われた。

・・・・・貝殻を集めた私は服に着替え、それをポケットにしまうと
家路を急いだ。日はいつのまにか傾きかけていた。
玄関からドアを開けるととてもいいにおいがした。
(今日はシチューだわ)
喜んでキッチンへといくと母親がシチューを作りながら
「おかえりなさい。」とやさしくいった。
拾った貝殻を見せると「綺麗ね」といって微笑んだ。
私はいつのまにか泣いていた。涙が止まらなかった。
母親が驚いて私を抱きしめ「どうしたの。」と聞いて髪をなでた。

「ママ、私、今日とっても悲しい夢をみたわ。」











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