ALL TOMORROW'S PARTIES

地下室


その閑静な丘の上の修道院では年末の大掃除で皆おおわらわでした。
私も朝から地下室の掃除を担当し、一人でだだっ広いその部屋の掃除に追われていました。
床を掃き終わり、本棚の埃をはらっていますと、ふいにその後ろから
ねずみが這い出て私の足に絡みつきました。
「きゃっ」
私はびっくりしてバランスを崩し、転倒すると、鼠はあざ笑うかのように
また本棚の影に隠れてしまいました。
「鼠の巣があったのね・・・」
私は慎重に本棚を移動し壁から隙間を覗き込みますと、奇妙なことに
そこには壁ではなく大きな扉があったのでした。
「こんなところに扉があったかしら・・?」
私はしばらく逡巡していましたが、好奇心に唆されて本棚をどけるとドアの取っ手に手を掛けました。
幸いかぎはかかっていません。
扉を開けて中をのぞくとそこは階段になっています。
私は意を決してその階段を下って行きました・・。

しばらくその薄暗く狭い階段を下っていくと、やがてまたもや大きな扉の前に私は立っていました。
その扉には表札がかけてありました。

「CLUB QUE」

恐る恐る扉を開けますと、そこは前方の壇の備え付けられた薄暗いホールのような場所でした。
驚いたことにたくさんの男女がそこにはひしめきあって、壇上を見つめているのでした。
その人々の服装、髪型は見たことがないひどく奇妙なもので
とてもこの国の人とは思えません。
私は怯えながらもただじっと壇上を同じように見つめているしかありませんでした・・・。

最初に男3人が脇から壇上へと出てきて、とたんに歓声がわきあがりました。そのうちの一人は
頭を鶏のとさかのように立ち上げ脇をそりあげるという大変奇妙な髪型をしておりました。
続いて一段と大きな歓声が上がったかと思いますと、
長身で髪の長い上半身裸の男がおぼつかない足取りで壇上へ登場し、
真ん中に立て掛けてある棒の先端に向かって話しはじめました。
「はい」
男の声はこの世のものとは思えないほど大きく、フロア全体に響きわたりました。歓声が応えました。
「えー、おれ達はぁー、この腐った世の中を・・・・」
男はそこまで言うとうつむき、なにやら鼻をぐずぐずいわせていましたが
また向き直って続けました。
「・・・・ま、いいや。めんどくさいから曲いきまっす」
そして男が大きくかぶりを振った瞬間・・・
耳をつんざくような爆音が鳴り響き、私は転地がひっくり返ったかのような衝撃を覚えました。
それは今まで聞いたどんな音楽とも違う・・・いや音楽とさえ呼べるのかどうか・・ほとんど騒音に近い不快な音でした。
にわとり頭の男は手にした弦楽器の弦を狂ったようにかき鳴らし(それはひどくゆがんだ音でした)、
その後ろでは丸坊主の男が金属性の板を力任せに棒でたたいていて、
そして真ん中の長髪の男は髪を振り乱してほとんど聞き取れない奇声のようなものを発していました。
これは一体何なのでしょう。
唖然として周りを見渡すと他の人たちは飛び跳ねたり、頭を振ったり、こぶしをあげたりしてどうやら喜んでいるようです。
「俺の内的宇宙に呼応しろ!テメーらのくさった脳髄ぶちまけろ!!」
男はそう叫ぶと棒をなぎ倒し、振り回し、(それは隣にいた弦楽器を弾いていた男に当たりました)、
床に転がりさらに大声で何事かを叫びました。
途中興奮したらしい男の一人が壇上によじ登って来ましたのを、
にわとり頭の男が手にしている弦楽器で殴打し、さらに足で下に蹴落としました。
男が手を上げて笑うとフロアに大歓声が巻き起こりました。
恐ろしい・・恐ろしい光景でした。
私は納得いたしました。これが・・・これがサバトというものではないかしら・・。
サバトとは神を冒涜するために悪魔や魔女たちが集まり、背徳的な行いにふける集会のことです。
では、あれは悪魔・・悪魔に違いないわ・・。
私は必死で十字をきりました。神よ、お助けください・・!
しかし一体どうしたことでしょう。あれだけ不快に感じていた音がいつのまにか不思議な魅力をもったリズムとなって体に入り、
内部から衝動となって湧き上がってくるのを感じていたのです・・・。
「おいっ、俺の言ってることわかるか!?わかるやついるかぁ!?」
髪を振り乱して叫ぶ男の姿は薄暗い照明の下で恐ろしく輝いて見えました。
まるで悪魔そのもの・・・しかし、それはひどく魅力的な悪魔でした・・。
いつしか私の体は振動にあわせて小刻みに揺れていました。
それはとても素敵なことのように思われました。
少なくとも・・・修道院にはこのようなエネルギーを感じるようなものはなかったわ・・・
私はいつしかそう考えていました。
「俺はこの世の嫌われ者 アンドロメダからやってきた 
ソーセージ爆弾で木っ端微塵 アナーキーな世紀末
ヘヘヘイ 俺の言ってることわかるかよぉ!?」 
ああ、私は悪魔に魅せられてしまった・・・・。
もう我を忘れて飛び込んでいくしかなかったのでした・・。


そしてその数日後・・・ああ、なんということでしょう!
悪魔に魅入られた私は見ているだけでは飽き足らずついに壇上の上に上がり、
あの、恐ろしい弦楽器を片手に・・、こう叫んでいたのでした。

「さあ!神を信じない馬鹿ども、私の歌をよく聞きな!!」

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