「天国からの赤いカーネーション」 「ママ、いつもありがとう。」小さな手から貰う赤いカーネーション。 5月の“この日”は、幸子の心をとても暖かくしてくれている。 今では、大好きな“この日”だけれど、 10歳までの幸子にとっては、1年で一番嫌な日だった。 物心ついた時には、父と二人暮しだった幸子。 忙しい父に代わって、家事は幸子がやっていた。 感謝したくても、その相手はどこにも 存在せず、誇らしげに赤いカーネーションを 買える友達みんなが、羨ましくて、憎らしかった“あの日”。 そんな幸子を変えたのは、10歳の“あの日”の出来事。 暗い気持ちで目覚めた幸子の目に、 飛び込んできた物は、赤いカーネーションの花束と1枚のカード。 「小さなお母さん、幸子へ いつも私の代わりに、ありがとう。 天国の母より」 それは、ひと目で分かる癖のある字、父の字だった。 毎年、幸子の機嫌が悪い“この日”を なんとかしようと考えた末での、行動だったらしい。 それから毎年“この日”、世間では “母の日”と呼ばれている日には、 幸子の元へ天国から、赤いカーネーションが届いた。 幸子が“小さなお母さん”から、 “本当のお母さん”になる時まで・・・。 不器用だったけど、精一杯の愛情を注いでくれた父。 “母の日”を、笑って過ごせるようにしてくれた父。 たくさんの優しさと、思い出を、惜しみなく与えて、 母の元へ旅立っていった父。 世間では、“母の日”だったけれど、 幸子は、そんな父に、感謝せずにはいられない。 そして、きっと今頃天国では、母からも 「私の代わりに、ありがとう。」 と、感謝されていることだろう・・・。 文・挿絵/わち姫 (参照:Cam's北見2006年5月号) |