WILDハンター(仮)

WILDハンター(仮)

三章



 ジャンボ村の朝は静かだ。遠くから、時折聞こえる鳥の声と川の流れゆく水音が響くのみである…まだ夜明けの最中に川岸でドブロクが顔を洗っている。

「ふぅ…さっぱりした。さて朝飯でも作るか…っとそんな事したらあいつにどやされちまう。危ない危ない…」

 そんなことをつぶやきながら家に戻ると、テーブルの上に置いてあるベルを叩き家の奥へ声をかける。

「お~い,サウロ朝飯を頼む~」

「ご主人様は朝が早いミャ…ご飯かニャ?」

 そう言いながら、家の奥のほうから明らかに今起きたばかりのアイルーが出てきた。

「あぁ、適当にあるものでつくってくれ」

「了解ニャ~」

 ふらふらと歩きながら台所へ向かう姿を見送りながら、椅子に座って料理が出来上がるのを待つ。一度(といっても村に来て三日目に)自分で食事つくっているところを見られて、”おいらの仕事をとる気かニャ~~!!“と叫ばれながらお玉とフライ返しで折檻され、それ以来ちゃんと仕事をさせてあげている。ちなみにサウロという名前はドブロクがつけた。

「できたニャ~♪温暖期のおすすめ、米虫とドライマーガリンを使ったガッツチャーハンニャ♪」

「虫?」

 いぶかしげに言ったドブロクにサウロが説明をしながら皿をテーブルの上に置く。

「そうニャ~でも安心するニャ♪虫そのものを炒めたわけじゃないミャ♪お腹の中に入ってる卵を炒めたものニャ♪ニャっと…ではごゆっくりニャ~♪」

 置かれた料理をドブロクはまじまじと見たが、特に変なところも無い普通のチャーハンであった。それでも恐る恐る一口食べると、

「う…美味い、普通に米だな…」

「当然ニャ♪」

感心してドブロクがそう言うと、満足そうな笑みを浮かべながらサウロが言った。そんな一幕もありながら、ドブロクは朝食を終えると、部屋の片隅にある鎧入れの前にいき、中から先日工房で合わせてもらったチェーンメイルとブルージャージーを取り出して身に着け始めた。その様子を見て、皿を片付けながらサウロが尋ねる。

「ニャ?今日はお仕事にいくのかニャ?」

「あぁ、今日ばあちゃんに頼んでおいたアルパレストがしあがってるはずだからそれを受け取ってクエストを請けるつもりだ」

「了解ニャ~昼ご飯はいるかニャ?」

 サウロの問いかけた言葉に、ドブロクは持ち物を確認しながら答えた。

「いや、近い所のようだけど多分戻るのは夕方になると思う、晩飯の用意だけでいい」

「わかったニャ♪」

 相変わらず軽やかな調子で返すサウロの頭にドブロクは手を乗せ、

「じゃあ、行ってくる、留守は任せたぞ」

 そう言うと、サウロはいつもの調子で返す。

「任されたニャ♪」

 それを聞くと、ドブロクは手をそっと離して外へ出て行った。

 ドブロクの家の向かいにある工房は、ある一人の老鍛冶師がきりもりしている。村の人々は彼女のことを親しみを込めておハルばあさんと呼んでいる。

「やぁ、おハルさん俺のアルパはしあがってるかい?」

 工房の二階にある鍛冶床の脇でなにやら作業をしているおハルさんにドブロクは声をかけた。ちらりと振り向いておハルさんは、

「あぁ、あんたかいちょっと待ってな」

 そう言って一階に降りていった。しばらくして下の方から一丁の折りたたんだ状態の重弩を背負って戻ってくると鍛冶床の脇に下ろして、

「これでよかったかぃ?」

 と確認をとる。それなりの重量があるであろう重弩を担いできたのに顔色一つ変えないこの老婆も只者ではないようだ。ドブロクは置かれた重弩のロックを外し、展開させて調子を確かめながら、

「あぁ、間違いない…しかしこっちにロングバレルがないと聞いたときは焦ったよ」

 と、少しおどけた調子で言うとおハルさんもにやつきながら、

「こっちはロングバレルなんて聞いたことないからどんなものか聞いちまったよ」

 そして、ほっほっほっと笑うと、そばにある樽の中からボウガン用のマガジン5つを取り出して、ドブロクに差し出す…

「これはサービスじゃよ、Lv2通常弾30発頑張っておいで」

「ありがとさん、弾代も馬鹿にならないからね」

 礼を言いながらアルパレストを折りたたみ腰のフックに固定すると、差し出されたマガジンを受け取りそれも腿にあるホルダーに差し込むと、ドブロクは工房を後にした。次に彼は村で唯一ハンター向けの商品を置いてある店に向かった。

「お客様は神様ニャ~!今日のお勧めは『マタタビ』ニャ!猫ならのどから手が出る一品ニャ~」

そう言いながら、店主のアイルーは売り物のマタタビに目が釘付けである。よく手を出さないものだと、ドブロクは感心しながら

「Lv2通常弾60発とLv1散弾12発マガジン入りで」

「はいニャ~…しめて348ゼニーになりますニャ!」

 と、必要な弾薬を買いその場で腰や胸にあるホルダーに差し込むと酒場に向かった。

「あっ!ドブロクさんおはようございます~クエストを受注しにいらしたんですか?」

 ドブロクに気づいたパティがいつもの多少のんびりした口調で話しかけてきた。

「あぁ、そのつもりで来たのだが…何か適当なクエストはあるかい?」

 ちらりとクエストボードを見て、パティに聞くと…

「そうですね~こっちの狩場に慣れるために特産キノコ採集なんてどうでしょう?契約金も要りませんよ~」

「ふむ…悪くないね、丁度財布が空に近かったんだ」

 苦笑いを浮かべながら、パティの薦めてくれたクエストを受注する。

「はい!では村の橋の方に船着場があるので、そこから狩場へ向かってください!」

「ういさっと、それじゃあまたあとで」

 手を振り、短い別れの挨拶をするとパティの声を背にうけながら、ドブロクは新たな狩場へとその足を向けたのである。そう彼にとって未知の世界へと…

 ──ザ…ザ~ン ヒュォォォォ… パシャッパシャッ…

 広大な川の水音、その上を滑る風…そして船の櫂の漕ぐ音が静かに響いている。案内人が漕いでいるいかだの上では、ドブロクがアルパレストの手入れをしている。彼は今ジャンボ村からさほど離れていない密林の狩場へ向かっているのである。

「フィフさん、まだ着かないのかい?」

 相変わらずアルパの手入れをしながら、フィフと呼んだ壮年の男に問いかける。

「最近のハンターは我慢がなってないね~、急かさなくてももう目の前だよ、顔を上げて見てみな」

 そう言われてアルパから視線を上げると、目の前に絶壁を背にした砂浜が見えた。ふと彼は違和感を覚えた…何かが足りないと思い、すぐに分かった。キャンプテントが無いのである。普通狩場のベース地には、ギルドがキャンプテントを張ってあるのだがここにはそれが無いのである。そのことをフィフに聞こうとした時、

「浜につけるぞ~ちょっと揺れるから気をつけな!」

──ズ…ゴゴゴ…
 船は言われたほど揺れることもなく浜に乗り上げる…舵手の腕が良いのだろう。フィフは、船がしっかり乗り上がったのを確認すると船の奥にいき、何やら作業を始めた。

「何してるんだい?」

「寝床をこさえてるのさ」

 ドブロクの問いに木の枠に厚手の布を被せながらフィフが答える。

「じゃあこの船がテントの代わりになるのか…」

「そういうことになるな…っと、これで完成だ!」

 感心してドブロクがつぶやくと、ベッドの上に雨よけを立て終えたフィフが言葉を返す。設置を終えるとフィフは一番奥の舟に乗り(この船は三つの舟を横につないだもの)

「じゃあ、わしは帰るぞ!定刻になったら迎えに来ちゃるからの~せいぜいモンスターに食われないようにな~」

 そう言い残し、舟同士の連結を解いて戻っていった…

「あんたも途中で食われるんじゃないぞ~!」

 遠ざかっていく舟に皮肉まじりに返すと、軽く深呼吸をして一言…

「戻ってきたって感じかな…」

 感慨深げにつぶやくその顔には、清々しさと懐かしさを感じている様子がはっきりと浮かんでいる。ドブロクはとりあえず支給品ボックスから、地図と携帯食料を取り出して船のへりに腰をかけ、クエストの計画を立てはじめた。

(さてと特産キノコ5個か…まぁこっちにもモスはいるだろうから、あいつらを見つけた方が早いかな…)

 地図を見ながら携帯食料をかじり、そんなことを考える。やがて携帯食料を食べ終えると、ボックスから応急薬を取り出し地図と一緒に腰のポーチにつっこみ…

「では探索開始といきますか」

 軽い調子で言うと、彼は川沿いの方へと歩を進めていった…その先にある全くの未知の世界への期待を胸に抱いて…

──…ザザァ…ザァ…──

「結構この断崖は続いてるんだな」

 ベースキャンプから砂浜の方へ歩いてきたドブロクは、そう洩らした。そして向こうに見える岩穴の方に進もうとした時、ちょっとした違和感を覚えた…

(…何かいる?)

 確信はなかったが念のため腰のアルパレストを展開し、注意深く辺りを窺いながら進んでいく…と、すこし離れた先の地面の砂が妙な動きをしていることに気づいた。

(何かが呼吸しているのか?)

 その周りの砂が規則的に舞い上がっている…

(ここの地形じゃガレオスってことはないな…まぁ遠回りしていってみるか…むこうが襲ってくれば狩るだけだ…)

 そう思いアルパを構えたまま、その場所を避けて通ろうとしたとき、そこから赤い鋏が飛び出した!驚きながらもドブロクがその鋏に銃口を向ける間に、その鋏の持ち主が地上へその姿を現す。

(カニ!?)

 それを見てドブロクは驚きを隠せなかった。彼のいたミナガルデ地方ではこんなモンスターを見たことがなかったから…そんなことを知らない赤いカニのようなモンスターは、鋏を振り上げてこちらを威嚇している。それを銃口を向けたまま見ながらドブロクは考えていた…

(どうするかな…対処の分からない相手か…恐らく甲殻はそれなりの強度をもっているはず……頭は狙いどころと思えるが…今回は特産キノコの採取が目的だし…それにむこうから襲ってくる気配も無い…ここは引いてもう一方の方から探索に出るとするか…)

 そう決めると狙いを外さずにそのままジリジリと後ろに下がっていく…と、カニはこちらが引いていくのを見ると鋏を下ろし、ズズズッと器用に鋏を使い地面に潜っていく。それを見てドブロクも、アルパを腰に戻してベースキャンプへ向かった。
 その後、林の方から探索に出たドブロクは初めての場所に戸惑いながらも、特産キノコを集め、無事に帰路につくことができた。日が落ち始める頃、村に戻りパティから報奨金と成功報酬を受け取ったドブロクは流石に、ドンドルマ地方のみに生息するモンスターのことを考えていなかった自分の迂闊さを悔い、ここの狩猟に慣れるまではいく狩場について村長に聞こうと決めた。そして彼はまだ住み慣れない我が家へと歩を進める…今日は元々酒場で食事をする気が無かったからだ。家のドアを開け、主人の帰りを待っていたサウロに一言、

「ただいま」

「おかえりニャ♪」

 サウロが軽やかに言うのを聞きながら、鎧入れの前にいき装備を解いて中にしまうと、

「飯の用意をしてくれ」

「わかったニャ~♪」

 サウロが厨房へいく後姿を見送りながらテーブルに腰を下ろす。こうして彼のジャンボ村に来て初めてのクエストを終えた一日は暮れていった…

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