WILDハンター(仮)

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三章「風は吹くからこそ風である」


      「風は吹くからこそ風である」

 ドブロクとソラスが組むようになっておよそ半月、ドブロクはドンドルマの街へ正式にソラスを村の近辺に住まわせる許可をもらいに行っていた。まぁ村で飼うことは姐さんが既に許可をもらっているのでそれは口実。本当はソラスと共にクエストへいく許可をもらいにきたのだ。しかしギルドの体裁上、飛竜とのパーティーが認められることは無かった。仕方なくドブロクは狩場への移動手段としてソラスを連れて行く許可をもらうことにした…のだが、これについてもかなり激しい議論がなされた。しかし結局ギルドのご老体達は口を揃えて“前例”がないから、とドブロクの申し出を一蹴したのである。

「一応お前の住民票はとってきてやったぞ」

 議論に疲れきったドブロクは、ソラスのところへくるなりギルドから渡された紙を見せながらそう告げた。

「ぐるぅ?」

 それを見ながらソラスは不思議そうに首をかしげている。

「要するにこの洞窟にずっと住んでいいってお許しだ」

「グルァ♪」

 ドブロクの説明を聞いてソラスはうれしそうに鳴き声をあげた。が、ドブロクの様子が変なので心配そうにドブロクの顔を覗き込んできた。

「ん…いや…これじゃ約束は果たせないなと思ってよ」

 ソラスの顔を見ながら、申し訳なさそうに話しかける。

「世界を見にいこうって誘ったのにこれじゃあなぁ…」

「グルゥ…」

 ドブロクの言っていることが呑み込めてソラスもくやしそうに唸った。そんなソラスを見てドブロクはこんな提案をした。

「やっぱり…」

――それから二日後の早朝――

村の入り口にソラスが寝そべって誰かを待っている。と、朝靄の中を村の方から歩いてくる人影が一つ…それに気づいたソラスが首をもたげるとぼんやり見えていた人影がはっきりと見えてきた。長旅の準備を済ませたドブロクだ。

「すまん、待たせたみたいだな、んでも一つすまんが足にこの荷物をくくりつけていいか?」

 ソラスの様子を見てドブロクは謝りながら荷物を降ろすと、ソラスは身体を起こして立ち上がった。早速ドブロクは太ももに持ってきた装備をくくりつけ始めた。その作業が終わろうかというときに、村から誰かが走ってくる音が聞こえてきた。ソラスとドブロクが振り返って見ると、向こうから小さな影が迫ってくるのが見えた。あっちにもこちらの姿が見えたのだろう。聞きなれた声が響いてきた。

「だんにゃさ~~~んッ!待つニャ~~~~!!!」

 背中に山菜爺さんが背負ってるような籠を担いだサウロがかけよってきた。

「サ…サウロ…なんで、ここに…」

 村の誰にも言わずに来たのにと、言いかけたがサウロが手で制してこう言い放った。

「だんにゃさんの考えることなんて丸分かりニャ~、第一、昨日から狩りの予定もにゃいのに荷物をまとめておいてくれって頼まれて不審に思わないほうがおかしいミャ~」

「な…ッ!」

「まぁまぁそんなに怒らないの♪サウロちゃんはあなたに置いてかれるのが嫌なのよん♪」

「グルゥア!?」

「姐さん!?どっから沸いて出たんすか!?」

 やれやれと肩をすくめるサウロにツッコミをいれようとした時、姐さんがいきなり現れてソラスとドブロクは驚きの声をあげてしまった。

「沸いて出たってのはご挨拶ね~…ドブさん♪ちょっとこっちにいらっしゃいな♪」

 にこやかな表情で手招きする姐さんだが、その眼は笑っていなかった…

「すいません、急に出ていらっしゃったので心にもないことを言ってしまいました…」

 行ったら確実に殺られる…そう直感したドブロクは素直に土下座して謝った。

「ふ~ん…まぁいいわ、それでソラス君とどこに行く気かしら?」

「…」

 姐さんにそう聞かれてドブロクは顔を伏せて黙り込んでしまった。少しの間考えていたが、顔を上げて答えた。

「世界を見に…かな」

 姐さんはそれを聞いて呆れた顔をして言った。

「当てのない旅ってこと?本気?」

「あぁ、こいつを誘ったときの言葉だ」

 姐さんの問いにドブロクはソラスの首に手を当てながらそう答えた。

「グルゥ…」

 そのとおりという風にソラスもうなづいてみせた。姐さんはニヤニヤ笑いながら腕組みしてこともなげにドブロクにこう言った。

「ふ~ん…それじゃあギルドの決定に逆らうってことになるわねぇ」

 それを聞いてドブロクはバツの悪そうな顔をしながらこう返した。

「ま~ギルドにはやっぱり手に負えず自然に帰しました、とでも言っておいてくれないかな?んでドブロクは責任をとるために旅に出ましたってことにして…」

「あなた達二人はのんびり世界を廻って見るって?」

「そうそう」

 姐さんの相槌にのってそう答えると、ドブロクは足元でさっきから不安そうに自分を見つめているサウロの頭に手を乗せてこう続けた。

「俺達は三人だけどね」

「ニャ!?」

 それを聞いてサウロはうれし泣きしながらドブロクの足に跳びついた。

「だんにゃさん~~ありがとうニャ~~~愛してるミャ~~~~」

「えぇいッ離せサウロ!オスに愛してるとか言われても嬉かないわい!」

 必死にサウロを振り落とそうと足を振るドブロクを呆れ顔で見ながら姐さんはソラスにそっと話しかけた。

「暇しそうにないわね、良かったじゃない」

「グルァ♪」

 ソラスは嬉しそうな鳴き声を返した。とようやく足からサウロを引き離したドブロクが姐さんに、

「そろそろ行かないと村のみんなが起きちまうよ、悪いけど行くぜ」

「分かったわ…ギルドには上手くごまかしといてあげる、ただ…」

「たまには戻って来いでしょ?」

 ドブロクはそう言うと、サウロを抱えてソラスの背中に飛び乗り背中の甲殻から生えてる突起に手をかけた。

「えぇ、この村の人たちにとってあなたは英雄なんですから」

 姐さんがいつになく真剣な口調でそう言うのを聞き、ドブロクは苦笑しながら答えた。

「俺は英雄なんてガラじゃないよ、ただのハンターさ…英雄なんかいらない時代だって村長も言ってたぜ」

「あの坊やが?」

 それを聞いて、姐さんがいぶかしげに聞き返した。するとドブロクは見当違いだと言わんばかりの笑い声をあげ、そしてこう答えた。

「はははッ、ここに来る前の村長の言葉さ、ココット村のね」

「ココットって…あなたまさか…」

「まぁ、いずれまた会いましょう!行くぞソラスッ!」

「グオオオオオン!!!!」

 姐さんが何か言いかけたけれど、ドブロクはそれに構わずソラスを飛び立たせた。ソラスは雄叫びをあげるとゆっくり羽ばたき、明け方の空を西へ向かって飛び去っていく。それを見つめながら姐さんはぽつりと呟いた。

「これで寂しくなるわね…」

 しばらく、姐さんはドブロク達が消え去った西の空を見ていたが、夜明けの太陽が顔を出すのを見ると村の方へ戻っていった。と、橋の途中で不意に立ち止まり、何気ない風に声をかけた。

「あなたもきちんとお別れをしておいた方がよかったんじゃないかしら?」

 振り返ると橋のたもとにパティが寝巻き姿のまましゃがみこんでいた。

「いいえ、こんな格好じゃ会えませんし…それにまたこの村に帰ってきてくれますから、その時に文句なりなんなり言いますよ」

 パティは立ち上がるといつもの調子でそう言ったが、目にはうっすらと光が滲んでいる。

「そうね、さて私達はいつもの一日を始めましょうか」

「そうですね、いつあの人達が帰ってきてもいいようにしておかないと」

 パティを元気づけるように姐さんが言った言葉を聞くと、パティは立ち上がって姐さんと一緒に酒場の準備をしに戻った。

「空を飛ぶって気持ちのいいものだな、そう思わないかサウロ?」

「だんにゃさんは怖いもの知らずだニャ…」

 ソラスの背中に乗って風を存分に浴びながら、ドブロクは後ろにしがみつい
ているサウロに話しかけたが、サウロはしがみつくのに必死で初めての空の旅をまったく楽しめていなかった。否、楽しむ余裕がなかったのだ。ドブロクは自分が風になったような感覚に不思議と懐かしさを感じながらソラスに話しかけた。

「なぁ…ソラス、翼があるっていいもんだな」

「グルァ?」

 それに、何を言ってるんだという風にソラスはドブロクに返事をした。が、ドブロクには聞こえていないようで、妙に懐かしい感覚を覚えて誰に言うでもなくドブロクは独り言みたいに呟いた。

「いや…俺も昔こんな風に空を飛んでた気がするんだよ」

「ニャ?だんにゃさん何か言ったかミャ?」

「グルゥ?」

「いや、なんでもない、それよりソラス適当な獲物を見つけたら狩って朝飯にしようぜ」

「グォォオオン!」

 サウロとソラスには聞こえなかったようだったので、ドブロクはソラスに朝飯の提案をしてお茶を濁すと、それにソラスは同意の雄叫びをあげて応えた。しばらく飛んでいくとアプトノスの群れが草原で草を食んでいるのを見つけたソラスはいつも彼がするように空から滑空して一頭のアプトノスを仕留めた。しかし、

「うおおおっ!?!?ちょっ…ま…グベッ!!」

「ニャアアアアッ!?!?!?!?ブミャッ!!」

ドブロクとサウロは初めて降下を体験したから、ソラスが停止する勢いを殺せず背中から投げ出されて地面とキスする羽目になってしまった。その後、ソラスが仕留めたアプトノスを解体して朝食になったのだが、ドブロクとサウロは二人ともこんがり肉を食べてもしばらく土の味が口からとれなかったらしい、かくしてドブロク達の「セカイ」を巡る旅は幕を上げた。これから何が彼らを待ち受けているのか…、それは誰にも分からない。

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