「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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WILDハンター(仮)
六章「弱気な角竜と強気な人間」
「は~今回もディアブロス討伐かよ…」
そう愚痴ったのは、ハンターSシリーズに身を包み大剣クロームレイザーを背負った長身で短い金髪、街で見かけたらかなりいい男の部類に入るだろうサイツ・グーリー。
「まぁまぁここいら辺りの通商に問題が出ますから、ね」
ふてくされているサイツをなだめてるのは、イーオスUシリーズを着て片手剣デスパライズを腰にさした少し長めの黒髪に切れ長の目が特徴的なカイヅ・ヤーズィ。
「ガタガタうっさいわね!チャチャっと片付けて報酬もらうわよ!」
その二人を後ろからどやしているのがディアブロシリーズにブロスホーンボウを背負った赤髪で小柄なリータ・フォウルグ。彼女の目はオッドアイという珍しい左右で違う色の瞳で右が紅、左が深緑になっている。この3人がジャンボ村の発展に貢献した3組のハンターの最後のチーム「フォウルグ興産」である。彼らは特定の街で活動するハンターではなく、商隊の護衛を主にこなすハンターだ。なぜ、そんなことを生業にしているのかというとそれはこのチームを立ち上げたリータが、
「色んなところへいってみたい!」
といって聞かなかったからだったりする。ちなみにこの3人は同じ砂漠の街レクサーラの出身でいわゆる幼馴染とか悪友とかいう間柄である。今、彼らは数年ぶりに故郷レクサーラに戻っていた。そこで最近頻繁に通商路に現れるようになったディアブロスの討伐依頼を請けたのだが、
「しっかし一月でもう4頭目だぞ!いくらなんでも異常だ!」
サイツがそう言い足元の小石を蹴飛ばした。そう彼らがこの依頼を請けるのは初めてではない。およそ一ヶ月前に彼らがジオ・ワンドレオでレクサーラ方面への通商路に出るディアブロスの話を聞き、
「じゃあ狩るか!」
と、リータの一言で二人はしぶしぶ依頼をこなしそのままレクサーラ入りしたのだが、彼らが最初のディアブロスを討伐しておよそ一週間後。レクサーラから出発した商隊が再びディアブロスに襲われたのだ。それをまたリータ達が片付け、また一週間後、新しいディアブロスが現れるのだ。タフなハンターといえど月に四度も飛竜討伐に出ると、さすがに疲れとストレスが溜まってくる。
「しかし、何故ここまで頻繁にディアブロスが現れるんでしょうね?」
岩山の間を縫うように開かれた通商路を歩きながらカイヅがそう疑問を口にした。それにサイツがうんざりした顔で答えた。
「そんなもんはこれから会うディアブロスにでも聞けよ」
それに対してリータは力強くこう断言した
「あたしは金になれば文句はない!」
「そうですか…」
チームの参謀であるカイヅ自身がわからないのだ。突撃特化の二人に聞くだけ無駄だとは思っていたが、さすがに堪えた。そうこうしていると、彼らは岩山地帯を抜け砂漠の入り口にさしかかっていた。3人はポーチからクーラードリンクを取りだして飲んだ。ここから先は気温がものすごく高い。体温調節の補助にクーラードリンクは必須なのである。言葉少なく辺りに気を配りながら3人は、ジオ・ワンドレオ方面へ進んでいった。すると砂漠地帯の中ほどで何かがにらみ合っているのをカイヅが見つけた。
「二人ともあっちに何かいます」
「OK」
そういってサイツは双眼鏡をかまえてカイヅが指差した方を覗き込んだ。
「…ディアブロスとドスガレオスの縄張り争いみたいだな」
「ちょっと貸しな!」
自分も見たくてリータはサイツの手から双眼鏡をぶんどって覗いた。
――乾いた風が吹く砂漠…その砂原を統べる二つの竜の姿があった――
どちらも砂色の鱗を持ち、砂の海を渡るモノ。違いは孤高であるか否か。群れで砂海を泳ぎ渡る魚竜ドスガレオス。砂漠の頂点に立つ王者ディアブロス。彼らの対峙は珍しくない。しかし何かが違っていた。
「あいつ怯えてないか?」
リータがそう呟いた。それにサイツがあきれた声で返した。
「はぁ?ドスガレオスがディアブロスを怖がるのは普通だろ?」
「…いえ、その逆なんですよ」
いつの間にか双眼鏡を持っていたカイヅがそういってサイツに双眼鏡を渡した。合点がいかない顔で双眼鏡を覗いて再びディブロスとドスガレオスを見比べてみると、
「ありえないだろ…」
さっき一瞬見ただけでは分からなかったが、確かにディアブロスはドスガレオスに怯えているようだ。固体差があるとはいえ、元々角竜種は気性が荒く好戦的で縄張りに入ってきた外敵を手当たり次第に排除する性質を持っている。それが数段劣るはずのドスガレオス相手に怯えている。もちろんドスガレオスもディアブロスに怯えている。つまりどちらも仕掛けようとしない完全な膠着状態。これには3人とも面食らってしまい、しばらく立ち尽くしたままになっていた。
「だんだん腹が立ってきた」
不意にリータはそういうと、背中に背負っていたブロスホーンボウを構えた。何故かあのディブロスに対してものすごく説教したいと思ったのだ。
「ちょっと待てリータ!少しは考えろ!」
「さすがにそれは無謀ですから!」
リータが二頭に喧嘩を売りにいくと誤解したサイツとカイヅが肩と腰に抱きついて必死に止めた。
「だぁぁぁぁっ!勘違いすんな!はなせ!!」
叫ぶなり肩に組みついてきたサイツには顔面に裏拳を、腰を押さえにきたカイヅには右かかとでおもいっきりみぞおちを蹴り上げた
「がっ!?」
「ごふっ…」
鈍痛の走る場所を押さえて二人とも突っ伏してしまった。
「てめぇら何を考えてるんだ!あたしが二匹とも相手にするなんていったか!?」
その二人の前に仁王立ちしてリータは怒りのままに叫んだ。
「はぁ…はぁ…じゃあ違うんですか?…っ」
みぞおちを押さえたままカイヅが息も絶え絶えにそう聞いた。それを聞いて青筋を浮かびあがらせてリータはまた叫んだ。
「当たり前だろうが!大体…」
といいかけたとき、
――グォォォォォ…――
遠くからディアブロスの悲鳴が聞こえた。リータが振り向くとディアブロスがドスガレオスに首を噛まれて組み伏せられていた。リータの頬が引きつり肩は小刻みに震えている。
――ブツン――
「やっぱりいきましたね」
「あいつはああいうのを許せない性質(たち)だからな」
いまだに痛みの引かない二人は二頭のところへ駆けだしたリータを見てそういった。くみ伏せたディアブロスにとどめをさそうと首を執拗に攻めるドスガレオスが何かの足音に気づき、音のする方を向くと明らかな殺意をもった敵が迫ってくるのが見えた。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
リータは怒号を発すると走ったまま弓に矢をつがえてドスガレオスに突進していった。ドスガレオスは砂を口に含み“弾丸”の準備をしている。弓の間合いはドスガレオスよりも短い。それを知ってか知らずか自分の間合いに入った標的にドスガレオスは“弾丸”を放った。リータもそれに合わせて矢を放った。まだドスガレオスには届かない距離だったが、彼女の狙いは自分に向けて放たれた“弾丸”であった。これは砂をガレオスの唾液で固めただけのものだが、直径4~50センチの岩塊が迫ってくるのと変わらない。それを彼女の放った矢はいとも簡単に撃ち砕いた。これはドスガレオスも予想外だったのだろう。一瞬怯んで、隙をつくったのが最後だった。リータはすぐさま次の矢をつがえて二本たて続けに放ち、二本の矢はドスガレオスの両目を射抜き視界を完全に奪った。今まで感じたことのない痛みにドスガレオスは砂漠の上でのたうちまわっている。無防備にさらけだされた腹にリータは情け容赦なく矢を撃ち込み続けた。数分後、ドスガレオスからは生気が消え、ただのモノと化した。その様子をじっと見ていたディアブロスは恐怖ですくんでいるようだ。ちゃんと仕留めたことを確認したリータはディアブロスの方へゆっくり歩み寄っていった。痛みが薄らいだのかカイヅとサイツもさっきリータの来た方から歩いてきた。ディアブロスの前までいくとリータは、
「それでもディアブロスかぁぁぁぁ!!!!」
一喝してディアブロスの顎に渾身のアッパーカットを叩き込んだ。きれいにディアブロスの頭が撥ね上がり、砂漠に沈んだ。
「アッパー一撃でディアブロスが気絶したぞ…」
「彼女とは喧嘩したら素直に謝った方がこっちのためですね…」
その光景を見た二人はあきれながらそんなことをいっていたが二人とも、
((リータを怒らせてはいけない))
と心に固く誓っていた。二人に気づいたリータが早く来いと手招きしたのでサイツとカイヅは急いで彼女のところへ走っていった。彼らが来るなりリータは、
「こいつを特訓するぞ!ふんじばってレクサーラの闘技場に連れていく!」
「「えぇぇぇぇぇ!?!?」」
それを聞いて二人とも抗議の声をあげたが、リータは目を据わらせてドスを利かせた声で二人にいった。
「文句あるか?」
「「いいえありません」」
二人ともさっきの誓いを忠実に守った。街までディアブロスを二人っきりで運ぶはめになったサイツとカイヅも気の毒だが、一番気の毒なのは捕まったディアブロスであることに間違いない。彼が目を覚ましたとき、目の前には鬼教官がいるのだから。
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