WILDハンター(仮)

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十四章「人の中で生きるモノ」



 レイテアの案内でドブロクとサウロはサウロの巣穴から里へ向かっている。うっそうと茂る雑木林の中を進んでいく途中、彼女からいろいろと外の世界についてやつぎばやに尋ねられドブロクは少々うんざりしはじめていた。
「へ~、んじゃあんたのいったことのある大きな街ってのはドンドルマとミナガルデだけなんだ」
「まぁ、そうだな。狩りでいく地方の拠点になる街や村とはまるで違う」
「具体的には?」
「設備のレベルと規模だな」
「セツビ?キボ?」
 聞いたことのない言葉だったのだろう。ドブロク達の前を歩くレイテアはそう呟き首をかしげた。
「ぁ~分からないか。そうだな。簡単に言えば規模は街の大きさで設備は鍛冶場や研究所なんかのことだ」
 街の大きさと聞いてレイテアは踏み出した足を軸に回れ右すると目を輝かせてドブロクにつめよると子どものように興奮しながら、
「どれくらいでかいの?里よりも?元のあたしの体より大きい?」
 ずいっと顔をちかづけてきた勢いにドブロクはたじろぎながら、
「た…たぶん大きいと思うぞ」
 その言葉を聞いて彼女はまたくるっと一回りすると両手を胸の前で組み夢見る乙女のようなうっとりとした口調でしみじみと呟いた。
「いってみたいなぁ」
「感動にひたっているところ悪いがまだ里には着かないのか?」
「んにゃ…」
 ドブロクとサウロのツッコミに気分を壊されてレイテアは不満そうな顔を彼らにむけたが黙って行く手を指差した。見るとやや上り坂になっている先が開けている。
「あそこだよ。とりあえず着いたら長のところへ挨拶にいくよ」
「そういうところはあんまり変わらないんだな」
「まぁ元飛竜が人間の生活様式を学ぶところだからね」
 二人と一匹が坂をのぼりきるとそこは湖のそばで、水辺の近くにこじんまりとした数軒の平小屋の集落があった。表に人の姿は無かったが、ドブロクとサウロは周りからの視線を気にしながらレイテアの後ろにしたがって一番奥のこの集落で唯一門のある家へ入っていった。まんなかに火床があり車座に座れるようにつくられている家の中には人がふたりいた。ひとりは50歳くらいでほりの深い顔立ちをした黒髪の男。もうひとりはかなり高齢の竜人族の男。ふたりは火床の向こう側に座ってじっとこちらを見ている。レイテアはふたりに向かって深々と一礼し、
「長、客人をお連れしました」
「うむ」
 それに竜人族の爺さんが答えた。傍らの男は無言でドブロクとサウロへ座るようにうながした。レイテアは入り口の近くに座りふたりが腰を下ろすと、
「久方ぶりの客人じゃの、ギルドからの連絡がない者は」
 長はふたりをまじまじと見ながらそうきりだした。どうにも突然の来訪者は歓迎されないようだ。
「こちらはギルドから追い出されたような形なのでそれはしかたないですな」
 少し大げさなくらいの身振りで苦笑しながらドブロクはそう返した。それを聞いて長の隣にいる男が、
「まずは名乗るところから始めるのが筋なのではあるまいか」
 無礼な訪問者に対し不快に思っているのだろう。ほりの深い顔に眉間にしわをよせてかなりおっかない形相になっている。
「これは失礼、手前どもはしがない旅の者で私はドブロク、こっちのアイルーはお供のサウロといいます。以降お見知りおきを」
 ちょっと芝居がかった調子でドブロクはそう言い軽く一礼した。
「してドブロク殿は何用でこの里へいらしたのかな」
 すかさず男は本題をきりだした。語調には返答次第では叩きだすと無言の圧力がかかっている。しかしドブロクはいつもの調子でこう返した。
「いくところが無かったので友人の故郷に来てみただけです。ついでによければしばらく厄介になろうかなとも思っています」
 臆面もなくそんなことをいわれ男は険しい顔をむけたが長は、
「ほっほっほ、まぁいいじゃろう。たまに外のものがいてもよかろうて」
 面白いやつがきたもんだと快活に笑い逗留の許可をくれた。そして入り口の近くに座っているレイテアに顔を向けて、
「レイテアよこの御仁たちをお前の家に泊めてやりなさい」
 その言葉にレイテアが驚いて目を丸くしていると、
「長。それは承諾できん。こんなどこの馬の骨ともしれんやつを我が家へ泊めるなど言語道断だ!」
 険しかった顔にさらにしわを深くよせて男はそう言い放った。それを聞いてサウロは、
「んにゃ?ということはこの怖いおっちゃんはレイテアの?」
 そう言いながら二人を交互に見比べて信じられないという風に目をぱちくりさせている。険悪な空気になったがかまわず長はレイテアの父にこう言った。
「まぁよいではないかグルジェフ。それにこのハンターはソラスに連れてきてもらったのだろう。飛竜と気の合う人間なんてそうそう会えるものではないぞ」
「…」
 レイテアの父グルジェフが長のその言葉に押し黙ってしまうと、
「しかもじゃ、よそ者と見れば話も聞かずに捕まえようとするレイテアが普通に連れてきたということはレイテアをいなしたということじゃ。それほどの腕前をもったハンターをむげに追い返すこともあるまい」
「……」
 村長の言葉にグルジェフは黙ったまま何か思案していたが、
「いいでしょう。ただしその物騒な得物はこの家に置いていってもらうぞ」
「そうじゃの。無用な騒動は起こしてほしくないものじゃ」
 長もそう言い、グルジェフはドブロクとサウロの逗留に同意した。この申し出は当然だったのでドブロクは素直にデルフ=ダオラと弾薬一式を長の家に預けてレイテアと共に長の家を出た。
「いや~よかったね。滞在の許しがでてさ」
「そんなことより何でお前の親父はあんなに反対したんだ?」
 あっけらかんとした調子のレイテアにドブロクは意外だったという風にきいた。
「あぁ、それはね…」
「よぅ!レイテ~今日も流れのハンターをふんじばって長に怒られてたのか?」
 レイテアが何か言おうとしたら遠くから男が声をかけてきた。声のした方を向くと声のわりに老け顔で真っ赤な外套を羽織った吟遊詩人風な男が歩み寄ってきていた。ドブロクは先客がいたのかと察した。それならば先ほどの態度にも合点がいく。なるべく外のものを招き入れずに過ごしたいのはこういう奥地の集落にはよくある傾向だ。それを考えるとこの集落も十分人間的な考えができているのだなとドブロクは感心した。
「ザックさん!私が外の人間と会えば誰でも殴りかかるみたいな物言いはやめてください!一応相手を判断してやってるんですから!」
「…よくいう…俺のときは有無を言わさず殴りかかってきたくせに…」
 ドブロクがそう呟くとレイテアはゆっくり振り返りながらにっこりとほほえみ、
「何か言いましたか?」
 その笑顔を見て洞窟での惨劇シーンがドブロクの脳裏によみがえり反射的に、
「イイエナニモ」
「ならいいのです」
 その様子を見てザックと呼ばれた男がドブロクに、
「あんたもこの子にこっぴどくやられた口かい?」
「まぁこっぴどくやられたのは俺じゃなくて連れの方だがな。ところであんたは?」
 そっちもかといった調子で同情した口調でいったあとにドブロクは尋ねた。
「おっと悪い悪い。俺はザック。見ての通りただの吟遊詩人さ。んでおたくは?見たところハンターのようだが」
 ドブロクの身なりを見てザックはいぶかしむように尋ねた。
「ご名答。見ての通りただのハンターさ。名前はドブロクだ」
「ふ~ん、ただのハンターがこんなところまで来れるもんかねぇ」
「それはお互い様だろう。ただの吟遊詩人もこんなところには来ないさ」
 ふたりとも意地の悪い笑みを浮かべながらそう言いお互いに高笑いした。その様子をレイテアとサウロはぽか~んとした顔で見ている。と、そこへ空から影が…
「ザック~やっと退院できたよ~」
 そう言いながら降りてきたのはなんと青い甲殻をもったクック亜種であった。しゃべる飛竜なんて見たことも聞いたこともなかったドブロクとサウロはショックで固まっている。
「いよぅハンペン。レイテに殴られた後遺症はないか?」
「だからそんなに強く叩いてませんから!」
「そのことについておいらからは何もいえないよ…」
 ふたりと一匹のやりとりをまだ固まったままドブロクとサウロは聞いている。ザックは思い出したように、
「ぁ、そうそうこいつが俺の相棒のハンペンだ。口が悪いがよろしくしてやってくれ」
「…ザックそれはきみのことだろう。おいらはそんなに口は悪くないよ」
「なにをぅ!」
「やるかぁ!」
 そうザックとハンペンが喧嘩しそうになったが、
「ふたりとも!それくらいにしないと鉄拳制裁で両討伐しますよ!」
 レイテアの恐ろしい言い間違いにその場の全員が凍りついた。レイテアは間違いに気づいてないのかみんなからの視線にきょとんとした様子でいる。
「レイテア…それを言うなら両成敗だろ…」
「…ぁ」
 ドブロクのツッコミでようやく気づいたレイテアは顔を赤くさせてしょぼんと肩をすぼめている。みんなはその様子を見て大笑いしてしまった。レイテアは顔を赤らめたまま体裁をたもつようにこう言った。
「とにかく!これからしばらくは家族として一緒に生活するんですからつまらないいざこざはナシでお願いします!いいですね!」
 それにみんなはまのびした口調で返事をした。
「は~い」
 ちなみにその頃ソラスは、
「んにゃ~これはひどい脳震盪ですニャ。しばらくは安静にしててくださいニャ」
「グルァァァ…」
 自分の巣穴で村の医者アイルーに傷の具合を診てもらっていた。そんなこんなでドブロクとサウロの隠れ里の暮らしが始まったのでした。


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