「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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WILDハンター(仮)
十八章「黒き暗雲・後」
「くっは~、カートリッジがもつか微妙なところだねぇ」
ダクシュは大木のかげへ駆け込みながらポーチを探ってそうぼやいた。既に元々目指していた方角からはだいぶ南にずらしている。だがフィアが全部の村をまわって村人が避難するまでにはまだ時間がかかるだろう。まだ引くわけにはいかなかった。
「数が少ないから確実に気を引けそうなところを狙わないとね…っと!」
ゆっくりとダクシュが隠れた大木へアカムトルムが顔を向けると、ダクシュは大木の陰から覗き込むような姿勢で立て続けに3発のLv2通常弾をアカムの眉間に撃ちこんだ。獲物の位置を確かめたアカムは周りの木々をへし折りながら後ろ足で立ち上がり、大木めがけて斜めに倒れこんできた。ものすごい轟音と土煙があがり地震のような揺れまで起こる。クイックキャスト改を抱えてダクシュは間一髪転がり逃げたが激しい振動で視界が揺れる。額を右手でおさえ、揺れを鎮めるとダクシュはポーチから方位磁石を取り出しアカムの頭が向いているだろう方向を確認した。
(ほぼ真南…か。あとは距離を稼ぐだけだね)
土煙がおさまる頃合を見計らってまたアカムの注意を自分に向けようとダクシュが得物を構えたその時、
――ブォォォォォオオォォオォォ――
聞きなれない角笛の音が響いた。
――その数時間後、ジャンボ村――
点在する村を駆けずり回ったフィアが酒場の奥の部屋で姐さんに事態の説明をしていた。
「―――ですので、一刻も早く住民の避難をお願いいたします」
「わかりました。住民の避難はこちらでやっておきましょう。ですが」
姐さんはそう言葉を切ってフィアの目をじっと見ながら続けた。
「賞金目当てで集まったハンターたちが騒いでいまして」
その言葉にフィアが困惑した表情をうかべた。たしかにあの黒い竜に対してギルドは多額の賞金をかけている。それに挑むのは一向に構わないが問題は彼らにあの竜を狩ることができるのかということだ。通例だと賞金首モンスターのランクをギルドが図ってから公布する。しかし今回はあまりにも情報が少なくランクをつけずに公布したためその危険度はわかっていない。ハンターの中にはこのせいで大食漢の狩りやすい相手と認識している手合いもおり、もしもそのようなハンターばかりで当たれば返り討ちは必至だろう。
「わかりました」
数分考えてフィアはそう答えた。黒い竜の討伐を認めたのだ。独断ではあるが既に賞金がかけられている竜であるから問題はない。その答えを聞いて姐さんが席を立とうとしたとき、フィアは付け加えて言った。
「ただし危険度は特Aクラスであるということをお伝え願います。無駄死にはできるだけ避けたいので」
「了解したわ。でもわたしが言うまでもないわ…よ!」
姐さんはどこか楽しそうにそう言うと部屋の扉をあけた。すると、
「うおわッ!?」
驚いた声をあげて何人ものハンターが将棋倒しに倒れこんできた。おかっぱ頭の女双剣使い、金髪のキザったらしい感じの男ランサー、ハイメタシリーズで全身をかためた男ハンマー使い、東洋風な衣装の男双剣使い、高飛車そうな女ランサーにどこか天然な印象の女狩猟笛使い。その後ろにはさらに強面(こわもて)で頭から下をクシャルシリーズで固めた男太刀使い、従者のような印象の男大剣使い、近寄りがたい雰囲気をもつ女ガンナーが立っていた。
「あたた~代表はん、いきなり扉開けんといて~な~」
そう独特なイントネーションでおかっぱ頭の女が姐さんに文句を言うと、
「あなたが後ろからグイグイ押してくるのが悪いのではなくって!」
その下敷きになっている高飛車そうな女が印象そのままの口調で彼女にくってかかる。
「まぁまぁマイハニーたち喧嘩をよくないんじゃナ~イ?」
キザそうな男はついでにナルシストのようだ。
「はう~、すいません~わたしがとろいばっかりに~」
間の抜けた感じで一番端に倒れている女狩猟笛使いが謝っていると、
「他人の秘密を知りたがるのは人間の性(さが)でござる」
その下で東洋風の男が何やら時代がかった物言いをしている。
「おまえら、はようわしの上からどけや…」
すると、一番下でつぶされているハイメタシリーズの男がドスのきいた声でツッコミをいれ全員急いで上からどいた。そんなドタバタがあったものの姐さんは、
「とりあえずあなたたちは例の賞金首の討伐に向かうのね」
「そうやね。ねっ師匠~」
そう言っておかっぱ頭の女は強面の男を振り返っていい笑顔をうかべた。
「そうだな。ここのところ仕事がなくて金もなくなってきたからちょうどいいだろう」
男は渋い声でそう答えると、
「わたしたちはいかがいたしましょう。お嬢様」
男大剣使いがそう女ランサーに尋ねると、
「愚問ね。彼女たちが請けるならわたくしたちもいきますわよ!」
「はい、了解いたしました」
彼が彼女に慇懃に一礼しているのを尻目にハイメタシリーズの男が男ランサー、男双剣使い、それと女狩猟笛使いに話しかけている、
「わいたちはどないする?」
「僕は別に構わないと思うジャ~ン」
「わ、わたしも参加したいです!」
「拙者も異存ない」
ここだけなぜかのんびりした空気だったが、女ガンナーひとりでじっと話が進むのを待っている。全員参加と決まり、姐さんは詳しい内容を話し始めた。
「相手は老山龍のおよそ半分くらいの大きさの竜という話です。性格はかなり凶暴で今、密林の奥地を南へ進んでいるそうです。総合的にみてギルドが決めた定員での狩猟は困難だと予想されるため、今回は9人を3人のパーティーに分けて3パーティーで目標の狩猟を行ってもらいます。現地へはこちらのギルドナイトの方が連れていってくれる手はずになっています。何か質問や要望は?」
女ガンナーが静かに言った。
「あたしはひとりが性に合ってる。だからパーティー編成を4:4:1にしてくれないか」
「分かったわ。それぞれ合ったやり方があるでしょうから認めましょう。ただし連携を忘れずに」
「了解」
姐さんの答えに女ガンナーは短く返事をした。すると、
「は~い、代表はん質問なんですが」
おかっぱ頭の女が勢い良く手を挙げた。
「はい、どうぞ」
「賞金の取り分はどないなりますのん?やっぱり討伐したパーティーに多く分配されるんか?」
参加するハンターたちが最も気にしていることを彼女は言った。
「分配は公平に9等分よ。ただし割り切れなかった分は紹介料としてうちの村がもらうけど異存はないかしら?」
「妥当なところだろう」
強面の男が姐さんの言葉を聞いて頷きながら言った。その言葉に全員が頷いた。
「では皆さんすぐに準備を整えて村の北門へお願いします」
フィアの言葉に一同が酒場を出ようとしたそのとき、フィアはかすかな振動を感じた。一定の間隔でわずかにではあるが地面が揺れている。反射的にフィアは酒場のテーブルに置いてある麦酒の入ったグラスを見た。かすかに、だが確実に中身の麦酒が揺れている。
(まさか!?)
フィアの脳裏に最悪の事態がうかんだ。そして、それは的中することになる。
――ジャンボ村から東へ50km地点――
ダクシュが聞き覚えの無い角笛の音色に導かれるようにアカムトルムはジャンボ村の方角へわき目もふらず進んでいた。ダクシュは必死にアカムトルムの注意をひきつけようと弾丸を撃ち込むがまるで効果がない。角笛を吹いている何者かを拘束すればなんとかなるかもしれないが、木々をなぎ倒し地響きをたてながら進むアカムの周辺で音だけを頼りに密林の中からその何者かを探し出すのはいかに訓練された人間でも無理がある。
(ったく、どこのどいつだよ。見つけたら即射殺してやるッ)
アカムの斜め前の立ち位置を維持しつつ無駄かもしれない射撃を続けながらダクシュは危ないことを考えていた。駆けながらLv2通常弾を撃ちきったカートリッジを抜き新しいカートリッジを装填しようとポーチをまさぐったダクシュの顔色が変わる。ついにカートリッジが底をついてしまったのだ。
「ちっくしょお!」
弾薬が尽きた以上、アカムトルムの気をひきつける方法はない。ならば、
(こいつを誘導してるバカを見つけ出して角笛を奪ってやる)
ダクシュは音のする方向を確かめるためにアカムトルムの行く先へ全力で走りだした。密林といってもすべて平地なわけではない。ダクシュが目指したのはやや小高くなった丘陵地のてっぺん。そこに生えている木の一本に駆け登ると目を閉じてじっと耳を澄ませた。しかし、
(くっそぉ…全然聞き分けられない)
そういえば聞き分け能力検定の結果はギリギリ合格ラインだったことをダクシュは思い出してこの緊急事態の中、ブルーに落ち込んでしまった。がっくりと肩を落としたがそうそう落ち込んでもいられない。
「聞いて場所が分からないなら駆けずりまわって見つけるだけだッ!」
そう叫ぶと彼女は登っていた木から跳び降りてアカムの進む先の密林へ消えていった。
――その頃ジャンボ村から東へ30km地点――
「はぁ~、こんな大荷物もっていかんとうちらの武器だけでなんとかなるちゃうのん?」
「こら!モン!貴様はまたそんなことを言いおってハンターというものはだな…」
「アレックス、あなたも私に何か言いたいことがあるのではなくて?」
「いいえ…お嬢様…そんなことはないです…」
「ならそんな重そうに荷物を持たないでシャキっとしなさいな」
「あ~腹減った…肉焼きしてもええか?」
「だ…だめですよ~デイビーさん!まだ途中なんですから!あたしの演奏で元気出してください!」
「き…きみたち…ぼ…僕がこんな頑張ってる姿なんてそうそう見られないよ」
「ロッキー殿、男は苦労していてもそれをひけらかさずに黙々とこなすものですぞ」
「…お前らはほんとに変わってないな…」
「なんでこんな人たちが…はぁ…不安だ…」
フィア一行が急ぎながらもほのぼのした雰囲気でアカムトルムのもとへ向かっていた。
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