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2009.09.09
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庭を漂う微小な羽虫 」である。

 一ヶ月程前のことになるが、 ヒトスジシマカ に膝小僧の辺りを刺されたので、ズボンをたくし上げてキンカンを塗っていたら、小さな羽虫が1匹その周りをフワフワと飛び回っていた。今まで見た羽虫とは何となく雰囲気が違うので、早速左手で掬い取った。

 掌を少しだけ開いて見てみると、何かブユの様な虫、しかし、ブユ(ブヨ、ブト)よりも小さい。まだ、元気そうなので、逃げられない様にコールド・スプレーを吹きかけて、大人しくさせた。

 気絶した(瀕死の)虫を紙の上に移して写真を撮る。コールド・スプレーのショックで産卵してしまった様である。死に際に産卵する現象は、ハエや蛾でも良く見られる。


ヌカカの1種(Forcipomyia sp.?)1
ヌカカ科の1種.恐らく Forcipomyia (和名なし)属の1種

コールド・スプレーのショックで産卵してしまった

ピクセル等倍(以下同じ)

(2009/08/04)

 さて、この虫、何者か。一見、ブユの様だが体長は約1.7mm。ブユは普通2~4mm位で、もっと大きい。決定的な違いは触角の長さである。ブユの触角は短く頭幅以下。ブユに似てもっと小さく(多くは体長2mm以下)、触角が数珠状で長いのはヌカカである。

 しかし、ヌカカと言うのは川筋や湿地に発生する虫だと思っていたので、こんな都会の住宅地でお目に掛かるとは一寸した驚きであった。

ヌカカの1種(Forcipomyia sp.?)2
翅脈が一番良く見える写真.翅は毛に覆われている様に見える

触角は数珠状で、先端近くの節は基部寄りの節よりも長い

(2009/08/04)

 ヌカカ科は九州大学日本産昆虫目録に拠ると224種、北隆館の圖鑑には20種が載っているが亜科や属への検索表はない。検索に拠らない単なる絵合わせは、特に双翅目の場合非常に危険なので、例によって双翅目のBBS「一寸のハエにも五分の大和魂」に御伺いを立ててみた。

 やがてこのBBSの主催者であるハエ男氏から御回答を得た。「ヌカカの画像による同定は極めて厳しいです(たぶんヌカカ屋さんはここのBBSに出入りしてないと思います)」。やはり予想通りであった。

 ヌカカやカ等の人吸血性昆虫を多く含むグループやその他の衛生昆虫の研究は、一般に昆虫学教室(農学部)ではなく感染症に関する研究組織(医学系)で行われている。例えば、2年ほど前に他界された感染症の大御所、東大医学部名誉教授(富山医科薬科大学名誉教授、富山国際大学名誉教授、その他色々)の故佐々学先生(私はこれまでにその謦咳に接したこともなければお教えを受けたこともないが、佐々先生の感染症に関する本を相当数読んで感銘を受けているし、また、極く親しい友人が東大で佐々先生の講義を受けたりしているので、常々僭越ながら先生とお呼びしている)は、カ科やユスリカ科の分類に関しても第一人者(先駆けと言うべきか)であった。

 「一寸のハエにも五分の大和魂」に参加されている方々は昆虫学系や虫屋さんが殆どの様である。やはりヌカカは駄目かと思っていたところ、九大名誉教授の三枝豊平先生が助け船を出して下さった。


ヌカカの1種(Forcipomyia sp.?)3
腹側から見るとこんな感じ

(2009/08/04)

 先生の御話では、「写真のヌカカは恐らく Forcipomyia [和名なし]属の1種でしょう」とのこと。吸血性でよく知られている Culicoides (和名なし)属などは、どちらかと言えば自然が豊かなところに生息するのが普通であるのに対し、 Forcipomyia 属は先生の仕事場のベランダに置いてある藻類や有機物の入った水槽などでもしばしば発生するそうである。また、「ヌカカの幼虫は淡水(止水,流水を問わず)や湿地のほかに,草や木の葉などが堆積して腐敗したような所でもチョウバエなどともに発生します」との御話。我が家の庭で発生しても別に不思議ではないと言える。

 更に、写真のヌカカは北隆館の圖鑑に載っているモンヌカカ( Forcipomyia metatarsis )に 一見似ているとの御指摘も受けた。モンヌカカは、体毛が密生し、翅全体がやや黒ずみ前縁中央に黄白色斑があることや、触角の大凡の形状、平均棍の大きさや色等では良く似ているのだが、圖鑑の記述では体長2.5~2.7mmとあるのに対し、写真のヌカカは1.7mmでその2/3しかない。双翅目昆虫の成虫の体長は、幼虫時の栄養摂取の違いでかなりの差が出るのが普通だが、やや差が大き過ぎる気もする。

 また、九大目録で224種のに対し圖鑑では僅か20種、検索表で辿り着いたのではないので近縁の酷似種が居る可能性もある。其処で、此処では「一見モンヌカカ( Forcipomyia metatarsis )に似るが小さい」としておくことにする。

ヌカカの1種(Forcipomyia sp.?)4
全体的に毛深い.口器が良く見える

(2009/08/04)

 ヌカカは漢字で糠蚊と書く。糠粒の様に小さい蚊と言う意味であろう。小さいので網戸を容易にくぐり抜け、これに刺されると、その時は何ともないが、かなり時間が経ってから酷い痒みと腫れを生じ、完治に1週間以上かかることも屡々ある。北海道開拓初期の記録を読むと、知床半島などでは、肌を出すと忽ちの内にビッシリとヌカカに被われ、まるで糠味噌を掻き回した後の手の様になったそうである。しかし、北方の吸血昆虫と言う訳ではなく、熱帯に産するものも多い。九大目録の224種の内、北海道に産するのは僅か20種である。

 また、人や恒温動物に対して吸血性の種類ばかりでなく、カエルや昆虫の体液を吸ったりする種類も多く、更に、小昆虫を補食するもの、花蜜を摂るものなど、成虫の食物スペクトルは広い。ただし、これは蚊と同じで雌だけの習性だそうである。

 ところで、 Forcipomyia 属は、九大目録に拠れば日本に61種も記録があり、また、その多くは非吸血性である。この写真のヌカカが人吸血性か否かは分からないが、この辺り(東京都世田谷区西部)でヌカカ的な痒みを感じたことはない(北海道に居た頃は野山で屡々刺された)ので、恐らく非吸血性であろう。写真のヌカカに一見似ているモンヌカカに関しては、北隆館の圖鑑ではその食性について何も触れていない。







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最終更新日  2009.09.09 20:12:30
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