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先日、今まで使っていたマクロレンズが故障して、接写システムを変更した話をした。新しいシステムでもテレプラス×2を挟んで充分使い物になる(撮影倍率2倍弱)ことを、ワタアブラムシを撮影して示した訳だが、そうなると人間は卑しい。更に欲が湧いて、これにクローズアップ・レンズを付けてもっと高倍率にしてみよう等と考えてしまう。100mmマクロレンズで等倍接写したヤノイスフシアブラムシの幼虫背景の葉裏に生えている毛で、虫の毛は良く見えない(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/26) クローズアップ・レンズの5番と3番の2枚をレンズの先端にねじ込んで撮影すれば、撮影倍率は約2倍になる。だから、テレプラス×2とクローズアップ・レンズ2枚を併用すれば、倍率は凡そ4倍になる筈である。 実は、先日の写真を撮った時に、一寸これをやってみたのである。しかし、焦点深度が浅過ぎて焦点合わせは殆ど不可能、と云う感じで、余り真面目に考えずに「無理だ」と思ってしまった。テレプラス×2を挟み、F6.3で撮影.倍率は1.8倍解像度が高く毛が管状になっているのが分かる(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/26) だが、手持ちで焦点合わせが殆ど不可能でも、据え物撮りならば、テーブルに肘をついてカメラを安定させることが出来る(一眼レフは機動性が最大の特徴なので、三脚は使わない主義)。考えている内に段々とその気になって来て、遂にその実験をしてみることと相成った。 4倍もの撮影となると、被写体に何を選ぶかを考えなくてはならない。細微な構造を持つ被写体(当然生き物)である必要がある。手近にいる生き物で思いついたのは、写真家の糸崎公朗氏のWeblog「路上ネイチャー協会」に載っていたヤノイスフシアブラムシの幼虫(或いは無翅成虫)である。これならば、我が家の外庭のコナラにゴマン、どころか10万も20万も居る(今年は猛暑のせいか捕食者が非常に少ない。特に暑さに弱いテントウムシは殆ど居ない)。 拙Weblogでも、ヤノイスフシアブラムシ(Nipponaphis yanonis)の有翅虫と幼虫を3年前に掲載している。成虫も幼虫も普通のアブラムシとはかなり違う形をしているが、アブラムシ自体についての話は3年前の記事を参照して頂きたい。同じくテレプラスを使い、F8で撮影F6.3の写真より解像度が低い(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/26) さて、この幼虫の何処が面白いかと云うと、その刺毛(毛)である。これが、何と毛状ではなく管状をしているのである。このことは糸崎氏のWeblogで初めて知った(こんなアブラムシは他に知らないが、残念ながら全農教「日本原色アブラムシ図鑑」の解説には何も書かれていない)。今回の約4倍の接写装置を使って、この管状の毛を見てみよう、と云う訳である。 今回は、倍率の変化を実感して頂く為に、全て原画からの拡大率を同一にした。何れの写真も原画で横幅1000ピクセル、記事の写真は全て横幅500ピクセルに縮小してあるので、最大に拡大するとピクセル等倍、丁度記事の2倍(面積では4倍)となる。 尚、被写体の幼虫は少し小さめで、体長約0.97mmである。テレプラス×2とクローズアップ・レンズ5番+3番を併用撮影倍率は正確には4倍ではなく3.5倍.F8で撮影.毛がホースの様な管状をしているのが良く分かる虫体のかなりの部分に焦点が合っていて見易い(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/26) 各写真の解説に書いてあるが、最初の写真は100mmマクロレンズ単体の等倍接写写真。倍率は当然1.0倍である。周りがゴチャゴチャしているせいもあって、虫に生えている毛が良く見えない。変なアブラムシの幼虫なので分かり難いが、頭は左側である。 2番目はテレプラス×2をレンズとの間に挟み、最大倍率にして撮影したもので、倍率はスケールを撮影した別の写真から計算すると1.8倍、毛が管状になっているのが一応分かる。絞りをF6.3にしてあるせいか、解像度が高い。 3番目は、F8に絞って撮影した。解像度はF6.3に比してかなり落ちる。F11では、解像度の低下が著しく、高精度の写真としては使用に耐えないと判断した。同じ条件でF6.3で撮影.焦点深度が浅過ぎて虫体に焦点を合わせた写真は使えなかった.虫体より手前に焦点が合った毛が管状であることが良く分かる写真を選んだ(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/26) 最後の2枚が、クローズアップ・レンズの5番と3番を重ねて前に付け、テレプラス×2と併用した写真である。撮影倍率はスケールと比較すると4倍ではなく、3.5倍であった。4番目の写真はF8で撮影。毛が管状になっているのが良く分かる。頭部(左)は深度外になって良く見えないが、まァ、虫全体の雰囲気は分かる。 最後の写真はF6.3で撮影。虫体に焦点を合わせた写真は深度が浅過ぎて使い物にならなかった。其処で、少し手前の管状の毛の先端に焦点が合っている写真を載せることにした。断面が円形をしているのが良く分かるであろう。虫体は完全に焦点深度外で、ボヤボヤである。 F11でも撮影してみたが、明らかに解像度が低下しており、掲載する必要なしと判断して、省略した。 こうして実験してみると、このマクロレンズ+テレプラス×2+クローズアップ・レンズの組み合わせでは、F8辺りで撮るのが最適と言える(F8の1/3前のF7.1、1/3後のF9では実験していない)。 なお、クローズアップ・レンズを使用すると、絞り込みによる焦点移動が生じる。テレプラス×2と併用した場合は、F8に絞るとファインダーで焦点の合っていた面より約1mmほど後の面に実際(CCD上)の焦点が合う。撮影する際は、焦点が合ったと思った位置から1mm引くか、或いは、1mm手前に焦点を合わせてシャッターを切らなければならない。
2010.11.28
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実は、此処数年間使っていたマクロレンズが、先月の中程に故障してしまった。マクロレンズは、別に仕事に使っているのがある(カメラもレンズも別メーカー)ので、カメラ本体と一緒に其方に切り換えていたのだが、お気づきになった読者は居られるだろうか。 先日、その修理に出していたメーカーから電話があった。修理に、私にとっては予想外の費用が掛かるとのこと。暫くどうするか悩んだが、もうその故障したレンズを付けていたカメラ本体やそのカメラ用の他のレンズも一切合切全部処分して、仕事用のカメラ1系列のみにすることにした。 そうすると、問題が1つ生じる。この仕事用のカメラのマクロレンズは、以前の実験では、テレプラスを使って超接写をすると著しく解像度が落ちるのである。しかし、暫く経ってから、これはレンズの絞値表示の違いに拠るらしいことに気が付いた。 今までこのWeblog用に使っていたマクロレンズは開放時の焦点比(F値)が2.8であるが、等倍接写状態にすると5.6になってしまう(絞り開放で等倍接写をすることなど有り得ないので、暫く気が付かなかった)。もう一方のレンズでは、等倍にしてもF値は変わらない。これが誤解の基であった。 少しややこしい話になるが、普通に撮影する時の露出は、被写体が無限遠点(撮影倍率0倍)にあると仮定してあり、被写体が近づくと露出を増やさなければならない。露出倍数は(撮影倍率+1)の2乗に比例する。通常のレンズでは最接近しても撮影倍率は精々0.2程度だから(0.2+1)の2乗=1.44で、補正をしなくても大した問題にならない。しかし、等倍接写では(1+1)の2乗=4、即ち露出倍数は4倍となる。これはF値では2段分だから、無限遠点で開放時にF2.8であれば、等倍接写時にはF5.6になったのと同じである。 どうも、故障したマクロレンズは、この露出補正をした絞値を表示していたらしいのである。だから、少し絞り込んだ状態(例えばF22)で撮影した場合、実際の絞りの状態はF11だと考えられる。 其処で、最近使用している仕事用のマクロレンズの絞を大いに開け、テレプラス×2を挟んで撮影してみた。下の写真は絞値8(F8)で撮影したものである。最大に拡大表示すると、ピクセル等倍(横幅1000ピクセル)になる。ワタアブラムシの無翅雌.テレプラス×2を使って約2倍で撮影体長1.4mm.右上に見えるのは若齢幼虫であろう(写真クリックでピクセル等倍)(2010/11/20) 被写体は、コスモスの花にいたワタアブラムシ(Aphis gossypii)で、体長1.4mm、先日「サトクダマキモドキ(初齢幼虫:10月19日出現)」の脇に写っていたのと同じ種である。その記事の2枚目の写真を見ると、背中が縞模様に見えるからまだ幼虫らしい。今日の写真はその成虫である。 ワタアブラムシは以前掲載したことがあるので、虫自体については其方を参照されたいが、誤解を避ける為に、丁度今頃話題になる所謂「ワタムシ」とは全く無関係で、アオイ科のワタ(綿)に付くのでその名が付いた(実際は非常な広食性)ことだけは書いておこう(ワタアブラムシはアブラムシ科:Aphididae、アブラムシ亜科:Aphidinaeに属し、所謂ワタムシは主にタマワタムシ科:Pemphigidae)。 さて、上の写真の出来映えだが、ピクセル等倍でこの程度なら充分使える。図鑑に拠れば、尾片には5本程度の毛があるそうだが、残念ながら見えない。しかし、これは背景が真っ白なせいであろう。 これで超接写に関しても問題なしと相成り、安心してカメラを1系列にすることが出来た。万歳万歳(板垣征四郎大将は、最後に「まんざい」と言ったそうだ)。
2010.11.21
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紅葉と云うのは不思議なもので、我が家の庭木の多くは、年によって紅葉したりしなかったりする。以前、柿の葉の紅葉を掲載したことがあるが、その時ほど此の柿の木の葉が赤くなったことはその後一度もない。 今年は、珍しいことにイロハモミジが黄~赤に紅葉(黄葉)した。何時もは、何とも冴えない灰色を帯びたくすんだ橙色の葉になって散るのだが、こう言うこともあるらしい。植えてから20年、多分、初めてだと思う。紅葉(黄葉)したイロハモミジ(写真クリックで拡大表示)(2009/12/19) このイロハモミジ、以前新葉を紹介したことがあるが、新葉も紅葉も普段は冴えないので、我が家では至って評判の悪い木なのである。 紅葉を接写しても面白味はないと思うので、葉裏にアブラムシでも居ないかと探してみた。この木にはこれまでアブラムシが沢山付いた記憶はないのだが、度の強い老眼鏡を掛けて葉裏をよ~く調べてみると、極く僅かだが、アブラムシが付いていた。黄葉したイロハモミジの葉裏にいたアブラムシモミジニタイケアブラムシの胎生雌(拡大してピクセル等倍、以下同じ)(写真クリックで拡大表示)(2009/12/19) 無翅形で体長約2mm、アブラムシとしては中程度の大きさである。残念ながら有翅虫は見つからなかった。 全農教の「日本原色アブラムシ図鑑」に拠ると、カエデ属(Acer)に寄生するアブラムシとして、トウキョウカマガタアブラムシ、ニワトコフクレアブアムシ、モミジニタイケアブラムシの3種が挙げられている。図版を見てみると、写真のアブラムシはモミジニタイケアブラムシ(Periphyllus californiensis)に酷似しており、他2者とは形も色も著しく異なる。モミジニタイケアブラムシの胎生雌(別個体)(写真クリックで拡大表示)(2009/12/19) 九州大学の日本産昆虫目録を見ると、Periphyllus属には6種が載っており、その中にイタヤニタイケアブラムシ(P. viridis)と云うこのイロハモミジに寄生していてもおかしくない近縁種がある。しかし、先の図鑑によると、この種は体色が緑色とのことなので、写真のアブラムシはモミジニタイケアブラムシとして良いであろう。アブラムシ科ケアブラムシ亜科(Chaitophorinae or Callaphidinae)に属す。モミジニタイケアブラムシの胎生雌(別個体)(写真クリックで拡大表示)(2009/12/19) 図鑑に拠れば、このアブラムシは寄主転換は行わず、常にカエデ類(Acer)に寄生する。夏期になると、扁平で周縁に団扇状の突起を持つ変わった形の越夏型幼虫が出現するのが特徴で、初齢幼虫は何もせずにジッと夏を越し、秋になって発育を始めて無翅形成虫に生長するとのこと。「虫ナビ」と云うサイトを見ると、名前の「ニタイ(二体)」はこのことに由来すると書かれている。 今の時期、アブラムシの無翅形であれば、卵生雌の可能性もある。しかし、図鑑に拠れば、本種の卵生雌は後脛節が顕著に太いとあるので、これは普通の胎生雌であろう。アブラムシの生活環は非常に複雑だが、それに応じて虫の形態にも変化を生じる。全く、ややこしい連中である。正面から見たモミジニタイケアブラムシ最初のアブラムシの写真と同一個体(写真クリックで拡大表示)(2009/12/19) 今年も余すところ10日になってしまった。今月の更新はこれでまだ2回目、今年中にもう1回更新したいと思うが、果たして出来るであろうか。
2009.12.21
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どうもネタ切れ状態が続いている。後3日で12月となるが、11月の更新はこれで漸く3回目、昨年の11月は11回、12月は10回も更新しているのに較べて著しく少ない。何分にも庭が狭いので、虫も植物も殆ど紹介し尽くした感がある。 しかし、1種類だけまだ掲載していない虫が居る。外庭に植わっているヤマボウシに付いているアブラムシである。 余り撮る気の起こらない虫である。しかし、他に未掲載の虫は見つからないし、また、幸いにも有翅虫が居たので、このアブラムシを紹介することにしよう。ヤマボウシヒゲナガアブラムシの有翅雄体長約2mm、翅端まで約5mm(写真クリックで拡大表示)(2009/11/24) 全農教の「日本原色アブラムシ図鑑」で調べてみると、ヤマボウシに寄生するアブラムシとしてはヤマボウシヒゲナガアブラムシしか載って居ない。今日紹介するアブラムシの特徴は、この図鑑の写真や記述とほぼ一致するので、どうやらこのヤマボウシヒゲナガアブラムシ(Sitobion cornifoliae or Macrosiphum cornifoliae)で間違いなさそうである。ヤマボウシの他には、クマノミズキにも寄生するとのこと。ミズキ属(Cornus)の植物に広く寄生するのかも知れないが、隣に植わっているやはりミズキ属のハナミズキには付いていない。同一個体(以下同じ).アブラムシにしてはカッコイイ(写真クリックで拡大表示)(2009/11/24) 有翅虫の体長は約2mm、翅端までは約5mmである。先日紹介した「オオアブラムシ亜科の有翅虫(雄)」は、体長約3.5mm、翅端まで約1cmだから、その1/2程度の長さである。 やはり腹部が小さく、胸部と同じ程度の大きさしかない。・・・と言うことは、これも雄の有翅虫であろう。正面から見たヤマボウシヒゲナガアブラムシの有翅雄アブラムシにしては虫相?が良い.右は同種の幼虫(写真クリックで拡大表示)(2009/11/24) ヤマボウシヒゲナガアブラムシは、アブラムシ科アブラムシ亜科(Aphidinae)ヒゲナガアブラムシ族(Macrosiphini)に属す。オオアブラムシ類の有翅虫に似て翅斑(縁紋)が大きいが、オオアブラムシ亜科とは、Rs脈(下の写真右下の丸く曲がった翅脈)の形や、M脈(写真ではRs脈のすぐ上にある翅脈)の分かれる位置が異なる。 脚は基部を除いて色が濃く、小楯板、胸背、頭部背面も濃い焦げ茶色をしている。体の下面は色が薄く、腹部は全体が少し緑を帯びた黄色である。しかし、角状管(腹部第5節側面から出ている1対の管状構造)は脚の基部に近い色合いをしている。真横から見たヤマボウシヒゲナガアブラムシの有翅雄翅斑が大きくオオアブラムシの有翅虫に似るがRs脈の形やM脈の分岐位置が異なる(写真クリックで拡大表示)(2009/11/24) ヤマボウシ葉裏の翅脈に近いところに群がっているが、その数は多くなく、ビッシリと付くことは無いらしい。しかし、木の下部にある葉は、排泄する甘露でベトベトであった。翅を拡げたヤマボウシヒゲナガアブラムシの有翅雄(写真クリックで拡大表示)(2009/11/24) 前述の図鑑には、このヤマボウシヒゲナガアブラムシの生活環に付いて何も書かれていない。寄主としてはクマノミズキとヤマボウシしか載っていないので、寄主転換する種ではないらしい。 「アブラムシの生物学」に拠ると、アブラムシ亜科に属す種の生活環には、完全生活環(秋に産雌有翅虫と有翅雄が出現し、産雌有翅虫が胎生で産んだ無翅雌が有翅雄と交尾して越冬卵を産む)の他に、年間を通して有性生殖を全く行わない不完全生活環や、この両者の混合型、中間型など様々な様式がある。中には秋に有翅雄と越冬型胎生雌が出現する生活環もあり、この場合、雄は生殖には関与しない。生まれても、何もしないで死ぬだけである。写真の雄がその様な運命にあるのか否かは、残念ながら分からない。ヤマボウシヒゲナガアブラムシの無翅胎生雌.体長約3mm体は半透明で眼が黒く、触角に紋がある(写真クリックで拡大表示)(2009/11/27) 無翅虫は無翅雄よりも少し大きく体長約3mm、触角を除いて非常に淡い色合いをしている。写真は既に紅葉した葉に付いている個体を撮ったものなので背景とは色が異なるし、また、コントラストを強めにして見易くしてあるが、葉が緑色の場合には背景に紛れて輪郭が非常に分かり難い。 写真を撮るときも、何処に焦点が合っているのかが良く分からない。幸い眼は黒いし、触角が縞模様なので、これらを目当てに焦点を合わせた。同一個体.横に居る若齢幼虫はこの個体が産んだ仔虫かもしれない(写真クリックで拡大表示)(2009/11/27) この無翅虫の特徴としては、以上のような半透明に近い体で眼が黒く、非常に長い触角に縞模様があり、腿節端(と思う)に黒斑を持つことの他に、角状管の形も重要な指標となる。その基部は太く先端部の2倍以上あり、長さは中央部の幅の約10倍で、先端1/3は少し黒ずみ(網目状の模様があるとのこと)、また、先端は縁がある(縁輪が僅かに発達する)。尾片(お尻の先)は短く、角状管の長さの約1/3である。真横から見た同一個体.葉が紅葉して吸汁が出来ないのかヘタッた感じしかし、まだ生きており少し動いていた(写真クリックで拡大表示)(2009/11/27) この無翅虫は成虫(胎生雌)と思われ、その横には、写真にも写っている様に、1~2頭の若齢幼虫が見られることが多かった。これらの幼虫は、この無翅虫が産んだ仔虫ではないだろうか。もう気温も低く運動能力が低下しており、また、既に葉が紅葉しているので、吸汁が出来ずに飢餓状態にあるのではないかと思われる。 まだ紅葉の多くは木に残っている。しかし、数日の内に落葉して、何れ朽ち果てるであろう。このヤマボウシヒゲナガアブラムシの胎生雌やその仔虫も、やがてその葉と運命を共にすることになる。
2009.11.28
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とうとう11月も半ばに入ってしまった。まだキク科の花は咲いているが、虫の新顔はまるで現れない。仕方がないので、1週間程前に撮った正体のよく分からないアブラムシの有翅虫を出すことにした。アブラムシの有翅虫.オオアブラムシ亜科の雄と思われる翅端まで約10mmと大きいが、胴体は小さい(写真クリックで拡大表示)(2009/11/05) 翅端まで約10mm、かなり大型の有翅虫である。しかし、体の長さはどうかと言うと、これが非常に短く約3.5mmで体長の僅か1/3程度、特に腹部が短く体全体の2/5位しかない。 どうも雄の有翅虫の様である。雌ならば腹部がもっと大きいと思う。同一個体.翅脈の基部が太く、翅斑(縁紋)が異常に大きい(写真クリックで拡大表示)(2009/11/05) 横から見ると、翅脈の基部が矢鱈に太く、また、翅斑(縁紋)が異常なほど大きい。写真を撮っている時は、この太い翅脈と縁紋が胴体の続きの様に見えて、随分細長い変な腹部だと思った位である。暗青色、飴色、黒色で中々渋い配色(写真クリックで拡大表示)(2009/11/05) 調べてみると、こう言う翅脈上の特徴を持つのはオオアブラムシ亜科(Lachninae)の様である。余り自信がないが、大型でもあるし、一応オオアブラムシ亜科の有翅雄と言うことにしておく。全体に比し腹部は如何にも小さい(写真クリックで拡大表示)(2009/11/05) 拡大してみると、体は青味を帯びており、腿節の一部と翅脈基部が飴色(赤褐色)、脚のその他の部分は黒色で、中々良い色合いをしている。 全農教の「日本原色アブラムシ図鑑」を見ると、ハネナガオオアブラムシ(Cinara longipennis)がこの様な特徴を持っている。しかし、図鑑に載っているオオアブラムシ亜科は僅かに8種、九州大学の目録を見るとオオアブラムシ亜科は51種もあり、オオアブラムシ属(Cinara)だけでも26種もあるので、そう簡単に決めつける訳には行かないであろう。正面からみた顔.アブラムシは一般に虫相?が悪い(写真クリックで拡大表示)(2009/11/05) 雄は晩秋にしか現れない。最近の理科の教科書は読んだことはないが、昔の教科書に書かれていたアブラムシの生活環は次の様である。春に卵から孵った雌(これを幹母と言う)は単為生殖で仔虫(無翅胎生雌)を産み、仔虫は成長してまた単為生殖で増殖し、世代を重ねる(無性世代)。これが晩秋になると雄と有性雌を生じ、有性雌は雄と交尾の後、越冬卵を産む(有性世代)(しかし、実際には多くのパターンがあり、こんなに簡単では無い。個体群により異なる複数のパターンを持つ種もある。如何に簡単でないかは、到底此処で書き切れるものでは無いし、また、私の理解にも限りがあるので、それなりの専門的な書籍(例えば、東京大学出版会の「アブラムシの生物学」等)を参照していただきたい)。翅を拡げたアブラムシの有翅虫(写真クリックで拡大表示)(2009/11/05) この雄には、種によって有翅形、無翅形、或いは、その両方と色々あるが、有性雌の方は私の知る限り全て無翅形である。雌の方は、有性雌を胎生で産む産雌虫が有翅形になることが多い(無翅の場合もある)。 今はワタムシ(雪虫)の飛ぶ季節である。このワタムシ(タマワタムシ亜科)の場合はどうかと言うと、この有翅虫は産性雌と呼ばれる胎生雌で、これが無翅雄と無翅有性雌の双方を胎生で産み、生まれた無翅有性雌が無翅雄と交尾して産卵する(ただ1個のみ!!)。雪虫には雄は居ないのである。飛び出す直前.この後少し引いて撮った写真はピンボケであった(写真クリックで拡大表示)(2009/11/05) この写真の有翅虫、翅ばかり大きくて余り旨く飛べそうにも見えない。しかし、ストロボの光を何回も浴びて身の危険を感じたらしく、時々翅を拡げる動作をした。雲の多い日の早朝であり、しかも場所はかなりの日陰だったので、まだ気温が低くて飛べないだろうと思って油断していたら、何とチャンと飛んで逃げた。しかし、普通のアブラムシの有翅虫とは異なり、ウスバカゲロウの様な何とも頼りない飛び方。翅が体に比して大き過ぎる?のでこう言う飛び方になってしまうのであろう。
2009.11.12
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今日は「庭を漂う微小な羽虫」の第2回目である。第1回目に紹介した「ウスイロチャタテ科の1種(Ectopsocus sp.)?」は、飛んでいるときは、直径は2.5mm位のオボロな輪郭を持つ茶色の玉の様であったが、今回のはもう少し大きく、全体的に黒っぽい。単位時間当たりの羽ばたき数もチャタテムシよりは少ない様で、かなり動作がトロイと言う感じ。何となく、アブラムシの有翅虫ではないかと思ったのだが、やはり「当たり」であった。ヒラタアブラムシ亜科の1種.翅脈が良く見える(2009/07/04) このアブラムシの有翅虫も初めは手で捕まえた。しかし、前回のチャタテムシ同様、指の関節の間に挟まれてしまい、掌を開いてみた時は既に御臨終。そこで、普段は纏わり付くヒトスジシマカを退治するのに使用しているネット(志賀昆の36cm:本来はハエを採るつもりで買ったもの)で採集した(蚊は網の中で圧殺してしまうので、網がかなり汚れている)。 しかし、コムピュータにデータを移しよく眺めてみると、どうも普段見るアブラムシの有翅虫とは少し違う様である。縁紋(下の写真を参照)が矢鱈に目立ち、体長も1.5mm強とかなり小さい。アブラムシ上科には、1860年代に欧州のブドウを殆ど全滅させたネアブラムシ科(フィロキセラ科)や専ら針葉樹に付くカサアブラムシ科と言う、今まで見たことのない連中も居る。しかし、検索表で調べてみると、R1脈からRs脈が分離して存在しているのはアブラムシ科とのことなので、この有翅虫はアブラムシ科として問題ない様である。 科から亜科への検索表は手元にない。しかし、このアブラムシの有翅虫では、Cu1脈とCu2脈がR脈の1個所から分かれて出ている(下の写真参照)。これはヒラタアブラムシ亜科の特徴らしい。以前紹介したヤノイスフシアブラムシもヒラタアブラムシ亜科に属すが、今日のアブラムシとこのヤノイスフシアブラムシの翅脈相は非常によく似ている。翅脈の名前を示す.縁紋が顕著(2009/07/04) 其処で、「日本原色アブラムシ図鑑」でヒラタアブラムシ科の有翅虫を1種ずつ見てみる(この図鑑では何故か科に付いて何も書かれていないので、自分で科の目次を作ってある)。・・・すると、何とエゴノネコフシアブラムシの有翅虫とソックリであった。 このエゴノネコフシアブラムシは一般にエゴノネコアシアブラムシと呼ばれ、エゴノキにシキミの果実(或いは香辛料の八角)の様な形の虫えいを作り、兵隊アブラムシと言う階級分化の見られる種として有名である。エゴノキなら、隣のオジサンの家に植わっている。ストロボの反射で構造色が出ている(2009/07/04) しかし、その木を見に行くと虫えいは古いものが僅か1個しか見当たらなかった。また、エゴノネコフシアブラムシの夏寄生植物はアシボソやチヂミザサなどの単子葉草本である。我が家には何方も生えていない。それに、写真のアブラムシの有翅虫はズミ(ヒメリンゴ)の木の周りをフワフワ飛び回っていることが多かった。 東京都本土部昆虫目録を調べてみると、ヒラタアブラムシ亜科は28種も記録がある。まァ、エゴノネコアシアブラムシと決めつけないで、「ヒラタアブラムシ亜科の1種」としておくのが無難であろう。ヒラタアブラムシ亜科の有翅虫は翅を平らに畳む(2009/07/04) 庭を漂う微小な羽虫、今回は捕まえる前に予想した通りアブラムシの有翅虫であった。最近はチャタテムシもこのアブラムシの有翅虫も見かけず、別の虫が飛んでいる。この次の「庭を漂う微小な羽虫」には、一体何者が登場するであろうか。
2009.07.22
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火曜日の夕刻に帰朝した。その後に一部の読者諸氏のサイトを拝見したので、「足跡」から小生の帰国に気が付かれた方も居られるかも知れない。 今回の出張は2ヶ月に満たなかったので大して疲れては居ない。しかし、帰国便が早朝発であったのとその次の日にまた早起きをしなければならい事情があって、それで睡眠不足に陥り未だに頭痛が取れない。そんな訳で帰国後の第一報は少し遅れてしまった。 庭は草も木も伸び放題だから虫は結構居る。掲載済みの虫が殆どだが、探せば未掲載の虫も居ない訳ではない。当然小さい虫が多い。今日紹介するセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ(Uroleucon nigrotuberculatum)の有翅形も体長は3.5mm、余り大きい虫とは言えない。和名は矢鱈に長いが・・・。セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシの有翅形(胎生雌)横から見ると脚や触角が長く、翅も綺麗で中々カッコイイ(2009/06/12) 虫集め用に植えてあるセイタカアワダチソウの茎上部に数頭居た。有翅形だが今頃居る有翅形は有性ではなく単性の胎生雌で、やがて無翅胎生雌を産み、その後巧く行けば爆発的に増える筈である。 我が家にアブラムシは多い。しかし、このアブラムシをこれまでに見かけた記憶はない。胴体は真っ赤で脚の大部分と触角は真っ黒、かなり特徴的なアブラムシである。だが「日本原色アブラムシ図鑑」には載っていない。そこで、「セイタカアワダチソウ アブラムシ」で検索すると一発でセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシが出て来た。 セイタカアワダチソウ以外の植物には殆ど寄生しないらしい。と言うことは、セイタカアワダチソウの原産地である北米からの外来種に違いない。セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシの有翅形(2009/06/12) 調べてみると、このアブラムシは1980年代後半に北米から侵入したと推定されているとのこと。セイタカアワダチソウが帰化したのは1890年代の終わり頃らしいので、宿主が帰化してから約1世紀遅れて寄生者であるアブラムシがやって来たことになる。 掲載の写真を撮ったのは昨日である。今日見てみると1頭しかしない。何処か別の場所に移動したのかも知れないが、このセイタカアワダチソウにはササグモが1頭居て盛んにかけずり回っているから、その餌食になってしまった可能性が高い。どうやら、我が家でこの長い名前のアブラムシが爆発的に増殖することは無さそうである。
2009.06.13
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特に新しいネタも無いのだから、そう無理をすることもあるまい、と思って更新をサボっていたら、もう6日も空けてしまった。何か書かざるを得まい。 ・・・と言う訳で、またアブラムシと相成る。今回は有翅虫も居らず面白みが更に少ないが、他に新しいネタがないのだから何とも致し方ない。 ハギオナガヒゲナガアブラムシ、アブラムシ科アブラムシ亜科ヒゲナガアブラムシ族の、如何にもアブラムシらしいアブラムシである。ハギオナガヒゲナガアブラムシ.ハギに付くアブラムシは普通この種類(2008/12/09) 実を言うと、このアブラムシ、もう既に何回か登場している。ヒメカメノコテントウとダンダラテントウに食べられているところである。些かブザマな姿しか紹介していないので、今日は威勢の良いところを、と言いたいが、今回もまた、余り景気は芳しくない。体は緑色で、脚や角状管は黒い.時に橙色のもいる角状管は先端近くで少し括れる(2008/12/09) と言うのは、あと数日で寄主であるニシキハギの葉が落ち尽くし、枝も枯れてしまうのは明らかだからである。アブラムシの運命もこれに伴うことは言うまでもない。アブラバチの寄生によるマミー(mummy:ミイラの意)普通のマミーとは異なり葉との間に台状のものがある左はアブラバチに寄生された個体.マミーになる直前(2008/12/09) 読者諸氏は、晩秋に木から落ちた紅葉(黄葉)の葉裏に、屡々アブラムシがしがみ付いているのを御存知だろうか。寒さと栄養不足で、まだ少しはマシな葉に移動する力もなかったのであろう。 アブラムシの捕食者やその卵もまたこれと運命を共にする。晩秋~初冬は越冬態勢に入れなかった虫達の「残酷物語」の季節なのである。1週間後、左の個体はマミーにならずに死んでいたアブラバチの幼虫が寒さで死んでしまったのだろうか?(2008/12/16) 先日、日本海に低気圧が発達して時ならぬ「春一番」が初冬に吹いてしまった。ニシキハギの幹や枝は細い。薄の穂の如く風に揉まれ、アブラムシ達は屹度風でみな吹き飛ばされてしまっただろう、と思った。しかし、次の日見に行くと、健気にも枝の付け根に移動して風を避けていた。もう枝が枯れるのも間近に迫っているのだが、それでもまだ精一杯生きようとしている・・・。風を避けて枝の付け根に集まるハギオナガヒゲナガアブラムシ(2008/12/22) ハギの枝には、まだ他にも妙な虫がくっ付いていた。次回はこの虫でも紹介することにしよう。
2008.12.23
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今日はまた人気のないアブラムシを紹介する。ワタアブラムシ、極めて広食性で、しかも世界中に分布する、農業・園芸の害虫として最も悪名の高いアブラムシの一つである。我が家では毎年、春~初夏と秋の2回、フヨウの葉裏に発生する。昔、ムクゲの木があった頃は、その新梢が真っ黒になる位に集っていて、これが原因でムクゲという植物が嫌いになった程である。フヨウの葉裏に集るワタアブラムシの幼虫一昨日撮った写真(2008/11/13) 今、丁度ワタムシ(雪虫)の季節である。しかし、このワタアブラムシの名前は、寄生植物である植物のワタ(アオイ科ワタ属)から付けられたのであって、体に綿状の衣を纏うワタムシ(主にタマワタムシ亜科の有翅形)とは全く無関係である。 なお、以前紹介したエノキワタアブラムシは、ワタムシ同様、有翅形が綿状の衣を纏うので「ワタ」の名が付いているが、これはタマワタムシ亜科ではなく、マダラアブラムシ亜科に属し、寄主転換も行わない。アブラムシの名前も結構紛らわしい。無翅胎生雌の終齢幼虫(右)と成虫(左).角状管から、前者は黄色後者は黒っぽい液体を出している.体長は何れも1.5mm前後7月にテレプラスを使って撮った超接写写真(以下2枚も同じ)(2008/07/01) ワタアブラムシは、アブラムシ科アブラムシ亜科に属し、図鑑に拠れば、温帯では完全生活環(春~秋は単為生殖で増殖し、晩秋に有性世代が出て交尾、産卵する)を持つアブラムシとして代表的な存在だそうである。ワタやムクゲなどに冬寄生(晩秋~初夏)し、夏(真夏~秋)は多岐に亘る植物(主に草本)に寄生する。図鑑に拠れば、暖かい地方では、有性世代を生じないで、単性世代のまま越冬する(これを不完全生活環と言う)個体群もあるとのこと。終齢幼虫の拡大(2008/07/01) このアブラムシ、体色の変化が著しい。我が家に居る無翅成虫は黒と緑の斑だが、図鑑を見ると、黄、橙黄、緑、濃緑、殆ど黒などの個体もある。また、幼虫は別の色をしており、我が家に居る終齢幼虫は暗青灰色に白い粉を吹いた様な色をしている。無翅胎生雌成虫.角状管から出ているのは警戒フェロモンか?(2008/07/01) 多くのアブラムシでは寄生する植物が決まっている。しかし、このワタアブラムシは実に多くの植物(作物ならば、ワタ、タバコ、キウリ、カボチャ、サトイモ、ジャガイモ、ナス、ミツバ・・・、図鑑に小さい字で約2/3ページ分載っている)に寄生する。しかも、その色が様々なので、かつては別々の種類と見なされ、個々に固有の名前が付けられていた。シノニム(synonym:同じ種に付いていた別の学名)が41もあると言うからかなりのものである。 我国では、ムクゲアブラムシ、イモアブラムシ、イヌゴマアブラムシ、ビンボウカズラアブラムシその他の和名があり、それぞれに異なった学名が付いていた。このアブラムシの被害が、どれだけ広い範囲に及んでいるか御分かり頂けるであろう。因みに、北アメリカではメロンアブラムシ(melon aphid)と呼ばれているそうである。葉脈を歩く終齢幼虫(産卵雌の幼虫?)(2008/11/13) 大きさを書かなかったが、このワタアブラムシ、アブラムシとしては小さめである。無翅成虫の体長は1.5~1.7mm、有翅虫はこれより更に小さい。先日紹介したイバラヒゲナガアブラムシの1/2位である。図鑑に拠れば、春に出現するものは、これらよりもかなり大きいとのこと。それでも、アブラムシとしては小さい方に属す。 今日掲載した写真の内、2~4番目の3枚は、テレプラスを使って約2倍の倍率で撮影してある。その他は、普通の等倍接写なので、この3枚以外がやや見劣りするのはやむを得ない。 緑と黒の斑模様をしているのが無翅成虫である。角状管から何か液体が出ているのが見える。角状管はワックスやフェロモンを出す器官とされているので、警戒フェロモンを放出中なのかも知れない。くっ付いている葉っぱを散々に動かされたり、ストロボの光を浴びたりして、屹度アブラムシもビックリしているのであろう。背中にダニを付けた終齢幼虫.ダニの体長約0.13mm!!(2008/11/13) その小さいアブラムシの背中にずっと小さな黄色いものが乗っている(上の写真)。良く見てみるとダニの形をしている。此処には掲載していない隣接するコマを調べてみると、この黄色い「物体」はアブラムシの背中の上を少しずつ移動している。明らかに生き物であり、ダニであることは間違いないと思われる。 ダニの体長は約0.13mm。こんなに小さなダニは見たことがない。寄生性のダニには随分小さいのも居るものである。認識を新たにした。ワタアブラムシの有翅形.腹部に多少の模様があるが良く見えない(2008/11/13) このアブラムシ、普通はかなり密度の高い集団を形成するが、今はもう晩秋のせいか、最初の写真の通りかなり疎らである。しかも、幼虫ばかり。有翅虫を見る機会は余り多くないが、先日漸く見付けたので掲載することにしたのである。無翅虫だけだと、何となく物足りないと言うか、絵にならない。横から見た有翅形.虫が小さいのと通常の等倍接写なので画像の質が低い(2008/11/13) ワタアブラムシでは産性雌(有性生殖をする雌を産む雌)と雄の双方にそれぞれ無翅形と有翅形があることが知られている。この写真の有翅形が雄なのか、或いは、産性雌なのか、私には区別が付かない。 フヨウは冬寄生の植物である。だから、ここで産性雌が産んだ産卵雌(有性雌)と雄との間で有性生殖が行われ、産卵雌は越冬卵をこの辺りの何処かに産むはずである。と言うことは、今居る幼虫は産性雌の産んだ産卵雌(有性雌)の幼虫なのであろうか?それにしては、随分前から此処にアブラムシが付いている様な気がする。もどうも良く分からない。 そこで、もう一度フヨウを見に行った。・・・すると、何やらややこしいことになっていた。さて、何があったのかは、次回のお楽しみ。
2008.11.15
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今日は久しぶりにアブラムシを紹介しよう。余り人気のある虫ではないが・・・。 イバラヒゲナガアブラムシ、バラの新梢に集る緑色のアブラムシである。バラに寄生するアブラムシには色々種類があるだろうと思っていたのだが、「日本原色アブラムシ図鑑」の一覧表を見てみると、このアブラムシとハマナスオナガアブラムシの2種しか載っていない。そんな筈はないだろうと思って、Internetで調べてみると、他にバラミドリアブラムシ、モモアカアブラムシ、ワタアブラムシ等の名前が出て来た。この内、モモアカアブラムシとワタアブラムシは、極めて広食性でしかも全世界的に分布する、農業害虫として最も悪名の高いアブラムシである。 しかし、バラに寄生するアブラムシの大半は、このイバラヒゲナガアブラムシだそうである。イバラヒゲナガアブラムシの集団.逆立ちに近い格好で吸汁する(2008/10/26) このイバラヒゲナガアブラムシ、バラ専門のアブラムシである。名前の通り、園芸種のバラだけでなく、ノイバラにも寄生する。寄主転換はしないので、1年中バラの何処かにくっ付いている筈である。イバラヒゲナガアブラムシの無翅形成虫頭部付近と脚の大部分は赤い(2008/10/12) イバラヒゲナガアブラムシは、肉眼では殆ど全身緑色に見える。しかし、拡大してみると、胸部の前の方と頭部は赤く、脚も腿節の半分より先は赤味を帯びている。角状管は黒く長く、先端が膨らんでいる。 有翅形は無翅形よりもやや小型で、全体にやや赤黒く、脚も腿節の後半以降は黒に近い色をしている。しかし、図鑑の写真を見ると、無翅形にもこの様な色をしたものがある。上と同一個体.角状管は黒く長い(2008/10/12) このアブラムシ、最初の写真に見られる様に、吸汁するときに殆ど倒立に近い態勢を取ることが多い。これは肉眼で見ても良く分かる。始めは、逃げようとして口吻が抜けなくてこんな変な格好をしているのかと思っていたが、別にそう言う訳でもないらしい。かなり密な集団を作ることが多いので、面積当たりの頭数が増えると自然にこうなると思うが、それを繰り返している内にそれが習性になってしまったのかも知れない。イバラヒゲナガアブラムシの有翅形.無翅形よりやや小さい全体に赤黒い.角状管の先端が膨らんでいるのが見える(2008/10/21) このイバラヒゲナガアブラムシ、我が家では、春と秋、家の南側の生垣となっているツルバラの新梢に必ず発生する。特に春は手の付けられないくらい沢山付くことがある。夏にはバラの生長が止まるので、このアブラムシも何処かに姿を潜める。 数年前、このアブラムシに関連して面白い経験をした。我が家は南に面しており、南側は隣家の駐車場になっているので、強い南風が吹くと我が家の庭は一種のビル風を生じて一寸スザマジイことになる。数年前の春、日本海に大きな低気圧が入り、東京では南風が吹き荒れた。台風クラスの風であった。この年、ツルバラにはこのアブラムシが例年よりずっと多く発生し、正にゴマンと付いていたのだが、この暴風で実に一匹残らず吹き飛んでしまった。余りに完璧に吹き飛んだのでビックリしたが、さぁ、その後、これまた沢山いた捕食者、特にテントウムシの幼虫が餌を失い、アブラムシを探して庭中をウロウロしているのにはもっとビックリした。後にも先にも、テントウムシの幼虫をこれ程沢山見たことはない。上と同一個体(2008/10/21) 2番目以降の写真の集団は、写真を撮り終わった数日後にヒラタアブ類の幼虫がやって来て、2~3日後には全滅した。最初の写真に写っているのは、その後で別の新梢に付いた集団だが、これも撮影した数日後には一匹も居なくなっていた。捕食者の威力と言うのは大したものである。 今年は、昨年と較べてアブラムシやコナジラミの発生がかなり少ない様である。昨年、コナラの葉裏にビッシリ付いていたコナジラミの蛹殻と思われる微小な斑点も今年は殆ど着いていない。今年はこのコナジラミの正体を見極めるつもりだったのだが、空振りに終わってしまった。この種の小さな寄生性昆虫の発生は、年により思ったよりもずっと大きく変動する様である。
2008.11.04
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今日は、ロリーポップに引き続き、少し変わったユリをまた1種紹介する筈であった。しかし、昨日の夕方、注文していたクローズアップレンズとストロボのディフューザーが届いたので今日その実験をしてみたところ、マズマズの成績を収めたので、その結果を先に掲載することにした。 クローズアップレンズを買ったのは、勿論、等倍以上の接写をしたいが為である。等倍以上の超接写をするには次の様な種々の手段がある。 1)現在、最も高性能で撮影倍率も高いのはキャノンの「MP-E 65mm 1-5x マクロフォト」と言うレンズを使う方法である。等倍から5倍まで撮影出来る、超接写専門のレンズである。しかし、私はキャノンのボディーを持っていない。このレンズは実物を見ると非常にゴツく大きなレンズで、Kissシリーズの様な小さなカメラでは操作がし難く、EOS 40D辺りを買わなければならないことになる。また、被写体がレンズから非常に近くなるので、専用のストロボ(マクロツインライトMT-24EX)も必要である。何れも実売価格10万円程度だから、合計30万円近い出費となる。 2)最近、マイクロ広角レンズと言う、鏡筒前部のレンズが結ぶ焦点像を別のレンズで拡大して撮る(らしい)レンズがある。レンズを部分的に取り換えることにより非常に多様な使い方が出来るらしく、所謂「虫の目レンズ」もこれに属す。超接写用には何が必要なのかよく知らないが、やはり全部で30万円近い価格になるらしい。 3)接写リングやベローズに少し短め(ワイド)のレンズを逆付け(リヴァース、レンズを反対向きに付ける)する方法もある。接写リングやベローズは昔使ったものをアダプターを使って付けることが出来るが、レンズは手元に適当なものがないから、新しく買わなければならない。古典的なシステムで、かなりの高倍率が得られる。しかし、致命的な欠陥がある。レンズを逆向きに、フィルター側をカメラの方に向けて取り付けるのだから、オート絞りが利かないのである。しっかりした資料台と三脚を使用するなら兎も角、これをフィールドで使用するのは些か無理がある。 4)かなり乱暴な方法もある。標準ズームレンズの前玉だか前部だかを外して、残りの部分を使うとかなりの接写が出来るそうである。しかし、その方法で撮影した写真を見ると、マクロレンズで細心の注意を払って撮ったのと余り変わりがない様に見える。 5)一番簡単なのが、クローズアップレンズを使うことである。フィルターを付けるのと同じだから、フィルター径さえ合えば何処のメーカーのものを使っても構わない。ただ、被写体との距離が小さくなりストロボの光が廻らなくなるので、光を分散させるディフューザーが必須で、また、ディフューザーで光量が相当減少するはずだから、外付けストロボも必要となる。私の場合、外付けストロボは持っているから、クローズアップレンズとディフューザーだけを買えばよい。 ・・・と、色々ある訳だが、遊びに30万円出す気はしないし、標準ズームを壊して良い結果が得られる保証もない。クローズアップレンズとディフューザーならば合計1万円もしないし、ものは試しで、うまく行かなければ捨て置いても大して心が痛むこともあるまい。 100mmのマクロレンズに、No.5とNo.3のクローズアップレンズを2枚重ねて付け、撮影倍率を最大にして撮ってみた。CCDの横幅が23.5mmの場合、画面の横幅は約12.6mmとなり、倍率はマクロレンズ単体の約2倍になった。レンズ面と被写体までの距離は約55mmで、超接写にしてはかなり開いている。 これを使って先日紹介したクヌギミツアブラムシ(一度絶滅したが、また別のコナラの木に現れた)の幼虫を撮ったのが下の写真である。クヌギミツアブラムシの若齢幼虫.体長約1.25mmピクセル等倍.触角は5節、角状管や尾片の毛も見える(2008/06/21) まだかなり小さい若齢幼虫で、先日紹介した同種のアブラムシよりはずっと小さく、体長約1.25mm。前のシステムでは、これの2倍程の大きな個体でもどうしても見えなかった触角の節が、ハッキリ5節見える。また、その触角や角状管(腹部の後部側方にあるアブラムシ独特の管状をした構造、ミツアブラムシ亜科では小さな丘状の突起になっている)、尾片(お尻の先っぽ)に生えている毛もチャンと見える。・・・う~~ん、これは、我ながら、かなりの進歩と言えるのではないか!! この新システム(と言うほど大袈裟なものではないが)を使ってみて、タメゴロウの如くアッと驚いたのは、ピクセル当たりのレンズの解像力が上がってしまったことである。上の写真、ピクセル等倍である。これに使用したレンズとカメラは、ここ暫くこのWeblogで使用しているセットではなく、以前使っていたセットである。ピクセル等倍では使い物にならないので、今のセットに換えたのである。それが、この写真の様にピクセル等倍でもかなりカチッとした像を結んでいる。 クローズアップレンズ、しかも一番倍率の高いNo.5と真ん中のNo.3を重ねて使えば、ピクセル当たりの解像力は相当落ちるのが普通である。それ故、今まで試してみなかったのだが、偶然の組み合わせとはいえ、世の中、不思議なこともあるものである。
2008.06.21
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些か旧聞に属するが、一月ほど前に撮ったアブラムシを紹介することにした。例によって、コナラの葉裏に居たもので、クヌギミツアブラムシと思われる。図鑑やInternetで捜しても、このアブラムシの有翅虫を撮った写真が見当たらないので、此処に掲載することにしたのである。 この有翅虫、昨年紹介したヤノイスフシアブラムシの有翅虫とよく似ている。写真を撮ったときはヤノイスフシだと思っていたのだが、コムピュータで画像を見てみると、無翅虫や幼虫の形が全く異なる。「日本原色アブラムシ図鑑」と相談した結果、クヌギミツアブラムシとすることにした。クヌギミツアブラムシの有翅虫.コナラの葉裏に居た(2008/05/17) クヌギミツアブラムシはミツアブラムシ亜科に属し、九大の「日本産昆虫目録データベース」に拠れば、この亜科に属す日本産アブラムシは僅か3種しか居ない。ヤノイスフシアブラムシの属すヒラタアブラムシ亜科とは近縁で、ミツアブラムシ類をこの亜科に入れてしまう研究者もあるらしい。 ミツアブラムシ亜科やヒラタアブラムシ亜科の有翅虫は、写真の様に、翅を閉じたときに左右の翅が交差してほぼ水平になる。普通のアブラムシでは、先日のナシミドリオオアブラムシの様に、翅を閉じたとき左右の翅が交差せず、垂直に近い山形になる。クヌギミツアブラムシの無翅虫と幼虫(2008/05/17) 「日本原色アブラムシ図鑑」に載っている無翅虫の紋は、此処で掲載した写真とはやや異なるものもある。図鑑の解説部分には、左右の紋が連続して明確な横帯になっているサワグルミミツアブラムシと、恐らく同一種であろう、と書かれているので、この紋はかなり変化するらしい。余り気にしないことにした。 ヒラタアブラムシ亜科(例えばヤノイスフシアブラムシ)とミツアブラムシ亜科の有翅虫は互いによく似ているが、翅脈の走り方が少し違う。主脈(写真では外側を走る)から2本の肘脈が分かれる(翅の長さの1/2よりやや基部に近い部分から翅の内側に走る)が、ヒラタアブラムシ亜科ではこの2本の肘脈が基部(主脈から分かれる部分)で合一しているのに対し、ミツアブラムシでは主脈から2本別々に出る。本種がミツアブラムシ亜科に属すとする根拠の1つである。有翅虫、無翅虫と幼虫.テネラル(脱皮後間もない成虫)も見られた(2008/05/17) 本日掲載の写真は帰国後間もない内に撮ったもので、些か鮮明さを欠く。暫くしてから撮り直そうと思ってコナラの葉っぱをひっくり返してみたが、このクヌギミツアブラムシ、何処を捜しても見当たらなかった。この木に沢山居るナミテントウやダンダラテントウに食べ尽くされらしい。アブラムシも、人が思っているほど簡単に子孫を残せる訳ではない様である。 今日もまた少しややこしい話になってしまった。翅脈の走り方の違いを御理解いただけたであろうか。些か気になるところである。
2008.06.18
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今年の1月にシャリンバイに寄生している「ナシミドリオオアブラムシの卵生雌」を掲載した。其処で、「このアブラムシの有翅虫(胎生雌)は全く違う色をしており白色のろう物質を帯びる。無翅虫と有翅虫の対比が面白いので、春になって有翅虫を見付けたら、また紹介しよう」と書いた。 少し前のことになってしまったが、帰国後暫くしてシャリンバイの葉をひっくり返して見ると、その有翅虫が以前と同じ葉の裏に居た。シャリンバイの葉裏にナシミドリオオアブラムシの無翅形と有翅形がいた(2008/05/18) 無翅胎生雌は淡緑色で、背側に少し濃い緑色の斑紋が縦に3列並び、全体的に地味な目立たない色合いをしている。保護色と言っても良い。ノソリノソリと歩くだけだから、天敵の目を誤魔化す必要が有るのかも知れない。 しかし、飛ぶことの出来る有翅胎生雌は、白と黒を基調にした派手な装いである。ナシミドリオオアブラムシの有翅胎生雌.これが普通の色(2008/05/18) 拡大してみると、白と黒だけではなく、胸部は青みがかっており、前脚と中脚には飴色の部分がある。4色刷とは、アブラムシにしては、随分「色好み」の洒落者?である。 しかし、他に緑がかった色の薄いのもいる。これはテネラル(teneral:羽化直後のまだ外骨格が固まらず、色も定まっていない状態)だと思うのだが、下の写真の様に、既にチャンと吸汁している。口器だけは先に硬化するのだろうか。或いは、こう言う中間的な色合いをした有翅胎生雌が居るのだろうか? テネラルならば、次の日にでも見てみれば色が白黒に変わっている筈である。 ・・・しかし、こちとらも物忘れに関してはそろそろ一流と言える年齢、すっかり、忘れてしまった。ナシミドリオオアブラムシの有翅胎生雌.テネラル?(2008/05/18) ナシミドリオオアブラムシは、オオアブラムシ亜科としては珍しく寄主転換をする。晩春になれば、名前にある通り、ナシ(梨)その他の夏宿主に移住するのである。先日、この有翅虫のことを想い出し、シャリンバイの葉裏を見に行ったのだが、残念ながら、其処にはもう何も居なかった。
2008.06.16
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先日、マガリケムシヒキを紹介したが、今日はそのムシヒキ君が食べていたのとよく似た、綿毛を纏ったアブラムシを紹介する。 エノキワタアブラムシの有翅形、今頃になると雪虫ソックリの感じで我が家の庭を飛び交う。御隣に宿主になるエノキの大木があるからである。エノキワタアブラムシの胎生有翅虫.雪虫と違って脚や触角にも「ワタ」が付いている(2008/05/15) 雪虫、或いは、ワタムシが晩秋に飛び交うのは、それまで棲んでいた2次宿主から1次宿主に寄生転換をする為である。寄主転換とは、例えば雪虫として有名なトドノネオオワタムシが晩秋になるとトドマツの根からハシドイやヤチダモなどに移動する様に、季節により寄生する植物を換えることで、昨年紹介したヤノイスフシアブラムシもイスノキとコナラの間を往復する。アブラムシにしてはかなり敏感な虫だが、時には誤って地面に落ちることもある.飛び出す直前の翅を拡げたところ(2008/05/15) エノキワタアブラムシはマダラアブラムシ亜科に属し、この亜科のアブラムシは寄主転換を行わない。簡単に言えば、エノキワタアブラムシは常にエノキ(時にムクノキ)に寄生する。 秋には雄性の有翅虫が現れるが、この春に飛び交うワタムシ様の有翅虫は胎生雌(無性)である。有性生殖の為に飛ぶのではなく、単に分布を拡げる為に飛んでいるのである。翅脈に沿ってやや幅の広い紋がある.眼が赤い(2008/05/15) こう言う綿毛を被った虫は撮り難い。全体がボワーとしているので、焦点が合っているのか合っていないのか、よく分からないのである。往々にして、虫の止まっている葉に焦点が行ってしまう。しかも、この「ワタムシ」、外見に似合わず?かなり敏感で、近づくと直ぐに飛んで逃げる。 実は、昨年も撮ったのだが、気に入らないので没にしてしまった。今年も、かなり沢山撮ったが、残ったのはこの3枚のみ。或いは、2ヶ月の海外出張の間に接写の腕が落ちたのかも知れない。
2008.05.28
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新年3回目位までは旧年中の写真は何となく使いたくない。しかし、新しいネタは待っていてもやって来ない。そこで、オモトの根際や植木鉢の下を探すのだが、どういう訳か一匹の虫も居ない。トビムシ位居てもよいと思うが、それも見つからない。 次は葉裏である。西洋クチナシやトベラの葉はシッカリ繁っているので何か居そうだが、やはりダメ。しかし、日陰にあるシャリンバイの葉をひっくり返したら、大きなアブラムシが一匹葉裏にくっ付いていた。シャリンバイの葉裏に居たナシミドリオオアブラムシの卵生雌死んでいる(2008/01/13) 写真を撮ってみると、変な格好をしている。頭を真上に上げてジッとしている。いや、ジッとしているのではない、死んでいるらしい。 そこで他の葉を調べてみると、もう一匹見つかった。こっちは生きていて、暖かいせいか、少し動いている。こちらの方はまだ生きている.下側は卵(2008/01/13) 調べてみると、ナシミドリオオアブラムシと言うアブラムシの様である。このアブラムシはオオアブラムシ亜科としては珍しく寄主転換をする。夏はナシやリンゴに寄生し、晩秋から春にかけてはビワ、シャリンバイ等の葉裏で生活するとのこと。 写真の個体は一年に一度しか現れない有性の卵生雌(卵を産む雌)である。周囲には、この個体が産んだと思われる卵が散乱している。普通は、卵を産んだら死んでしまうのだが、暖地では越冬することもあるとのこと。我が家は東京都世田谷区だから「暖地」ではないが、これも例によって温暖化のせいであろう。卵生雌とその卵(2008/01/13) 調べてみると、このアブラムシの有翅虫(胎生雌)は全く違う色をしており白色のろう物質を帯びる。無翅虫と有翅虫の対比が面白いので、春になって有翅虫を見付けたら、また紹介しよう。
2008.01.14
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1週間ほど前、栗の枝を切り落としたついでに、その葉裏を調べてみた。ナラ類は非常に多種のアブラムの付く樹種だが、クリも負けず劣らずアブラムシに一方的に好かれている樹である。 コナラの葉裏には外部寄生者や捕食者がゴマンと居て、何も付いていない葉など1枚も無かった。しかし、このクリの方は不思議なほど綺麗で、このクリヒゲマダラアブラムシをやっと2頭見付けただけであった。 アブラムシの種の判別は難しい。しかし、クリの葉裏に居たこと、この独特の翅の模様、体に付いたワックス等から、クリヒゲマダラアブラムシとして間違いないだろう。クリヒゲマダラアブラムシ.翅脈に沿って暗色紋がある(2007/12/04) このクリヒゲマダラアブラムシの属すマダラアブラムシ亜科では、普通のアブラムシとは異なり、単為生殖で増殖するときに無翅虫ではなく有翅胎生雌を産むものが多い。アブラムシの祖先は総て有翅虫であったと考えられており、この様な有翅胎生雌を産むマダラアブラムシ類は、系統的に古いグループであるとされている。 ところが、このクリヒゲマダラアブラムシは、ときに短翅の有翅虫を産むのだそうである。この短翅虫は、翅はあってもそれを動かす筋肉が発達して居らず、飛ぶことは出来ないとのこと。有翅虫だけの原始的なアブラムシから、無翅虫で繁殖する進化したアブラムシへ至る途中で分岐したグループ、と言うことになる。上から見たクリヒゲマダラアブラムシ.腹部が妙に横に拡がっている(2007/12/04) これまでにアブラムシの有翅虫を何回か掲載したが、アブラムシでも有翅虫は結構見映えがする様である。 この1年半で、我が家に来る虫の大半は紹介してしまった。何分にも庭が狭すぎるのである。しかし、アブラムシならまだ色々居る。来年はアブラムシがネタ切れを救ってくれるかも知れない。
2007.12.12
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今日もまたアブラムシの話になってしまった。ワタムシ、最近全国的に有名になった「雪虫」である。昔は雪虫などという言葉は、東京では聞かなかった。 しかし、この雪虫、結構ややこしい。北海道ではトドノネオオワタムシが有名な様だが、「綿毛」を被っているアブラムシの有翅虫には多くの種類がある。 基本的に、トドノネオオワタムシやリンゴワタムシの属すタマワタムシ亜科の産性有翅雌は雪虫の潜在的候補である。しかし、その総てが雪虫と言えるほどの「綿毛」を被っているのだろうか。ヒメリンゴの枝上を歩くワタムシ(2007/11/26) ワタ(綿)に寄生するアブラムシ亜科のワタアブラムシは別として、和名に「ワタ」の付くアブラムシはタマワタムシ亜科以外にもいる。実際、マダラアブラムシ亜科に属すエノキワタアブラムシの有翅虫は多量の綿毛を被って、飛んでいるところはまるで雪虫だが、このワタムシが沢山飛ぶのは春から夏にかけての様だから、ワタムシではあっても、雪虫の候補には成り得ない。同様に、その他のマダラアブラムシ亜科のアブラムシも、寄生転換を行わないからその有翅虫が晩秋に大挙して飛ぶとは考えられず、雪虫の候補にはならないであろう。 また、トドワタムシやカンショワタムシは、無翅虫は著しい綿状物質が体を覆っているが、有翅虫はそうでもないらしい。背側から見たところ(2007/11/26) 更に、「ワタ」が名前に付かないアブラムシでも、無翅虫が多量の綿状物質にまみれている種類がかなりある。この様な種類の有翅虫が「綿毛」を被るのかは、これまた良く分からない。 色々調べてみたが、結局、晩秋に飛ぶ「綿毛」を帯びる有翅虫が総てタマワタムシ亜科に属すか否かは分からなかった。枝を下るワタムシ.そのまま下の方に行って見えなくなってしまった(2007/11/26) 一般論では完全に行き詰まった。しかし、此処に掲載したワタムシがタマワタムシ亜科に属すことは、ほぼ確実である。多くの他の亜科とタマワタムシ亜科では、翅脈の分岐や走り方が異なるのである。ヒラタアブラムシ亜科とは少し似ているが、やはり違う。翅脈に関する文献は持っていないが、図鑑と自分の写真を良く見比べてみれば、これは明らかである。 此処に掲載した写真を見てみると、どうも2種類の様に見える。大きさが違うし、飛んでいるときの印象も違った。しかし、翅脈に関しては何れもタマワタムシ亜科の構造をしている。ボケに留まったワタムシ.上の個体よりも大きいし触角も長い(2007/12/05) 写真のワタムシがタマワタムシ亜科に属すとすると、一体その内のどの種類であろうか。このワタムシは、どうも我が家のヒメリンゴやカイドウがお目当ての様に見える。何れもリンゴ属(Malus)の植物である。・・・とすると、リンゴワタムシ、サンザシハマキワタムシ、リンゴネアブラムシ等が候補に挙がる。 リンゴワタムシは300以上ものサイトで雪虫の候補として挙げられている。しかし、調べてみると、この外来のアブラムシの日本に於ける生態は良く分かっていない様である。タマワタムシ亜科のアブラムシは例外なく宿主転換を行い、晩秋に1次寄主に戻る産性有翅虫が雪虫の候補となる。しかし、このアブラムシの2次寄生について書いてあるサイトは一つも見つからなかった。どのサイトでも、リンゴの根や樹皮などで越冬し、その後は葉茎部に移ると書かれている。しかも、有翅虫は6月、或いは、9月に移住すると言う。これは有翅胎生雌であり、リンゴからリンゴへの移住である。これでは晩秋に飛ぶ雪虫にはならないではないか!! 良く分からないが、リンゴワタムシは雪虫とは関係がない様な気もする。広辞苑に雪虫の正体としてリンゴワタムシが挙げられているのが「リンゴワタムシ説」の起源らしい。しかし、この項目を書いたのはたして昆虫学者なのだろうか。国語学者が有名なリンゴワタムシ(名前の響きがよいし・・・)を根拠なく雪虫の候補として挙げたのがそのまま無批判に転載され続け、こうゆう事態になった可能性もなくはない。上の写真と同一個体(2007/12/05) リンゴネアブラムシは、「日本原色虫えい図鑑」に拠ると、1次寄生がアキニレで、リンゴは2次寄生だと書いてある。だから我が家の雪虫とは関係無さそうである。 この虫えい図鑑には、カイドウハマキフシと言うカイドウの葉を不定型に巻く虫えいが載っている。我が家のカイドウは毎年春先にアブラムシに寄生され、葉がしわくちゃになっている。どうも、これの可能性が高い。寄生するのはリンゴハマキワタムシ(Prociphilus crataegicola)と書かれている。このリンゴハマキワタムシは、アブラムシ図鑑にも載っていないし、Internetで検索しても出てこないが、学名で検索すると、何と、サンザシハマキワタムシのことであった。すると、我が家の雪虫は、このサンザシハマキワタムシの産性有翅虫である可能性が高い。 しかし、此処に掲載した雪虫は2種類の様である。この内の何れがサンザシハマキワタムシであろうか? 或いは、何れもサンザシハマキワタムシではないのだろうか? 九州大学の日本産昆虫目録データベースを参照すると、タマワタムシ科には58種もの種類が登録されている。一方、「日本原色アブラムシ図鑑」に載っているのは、僅か12種。しかも、雪虫として有名なトドノネオオワタムシも我が家の雪虫の候補であるサンザシハマキワタムシも載っていない。 結局のところ、雪虫の種を判別するのは、素人には無理と言うことであろう。随分時間がかかったが、まァ、順当な結論と言う他ない。
2007.12.10
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前回もコナラの葉裏の話だったので、次は葉裏でない話にしたかったのだが、この季節では新しいネタはやはり無理の様である。仕方なく、また葉裏の話と相成る。しかも、人気の無さそうなアブラムシの話。 しかし、今日紹介するヤノイスフシアブラムシは、一寸変わったアブラムシである。普通見かけるアブラムシは、以前紹介したカシワトゲマダラアブラムシの近縁種(Tuberculatus sp.)の様に触角が長く、有翅形は左右の翅の面が互いにかなりの角度を成しているので、畳んだ所を後ろから見ると翅は重ならずに山形になる。一方、このアブラムシの仲間(Nipponaphis属)は触角が短く、左右の翅がなす角度が小さいので、畳むと互いに重なってほぼ一つの面に収まる。ヤノイスフシアブラムシの有翅形.触角が短く、翅は葉っぱにほぼ並行以下倍率は幼虫を含めて総て同じ(2007/11/29) 有翅形を初めて見たときは、アブラムシとは思えなかった。アブラバチの様な捕食寄生性の昆虫と一緒にいたので、これもアブラムシを捕食するか、或いは、寄生の為に産卵に来ているのかと考えた位である。 しかし、どう見ても捕食性の昆虫の様な精悍さがない。ナヨナヨしている。第一、ハチではないし、ハエでもない。一体何目(分類単位の目)に属す昆虫か?横から見たヤノイスフシアブラムシの有翅形.腹部は黄色い(2007/11/29) 虫全体の体付きを見ると、以前紹介した「謎の虫」=オオワラジカイガラムシの雄成虫に似ている。・・・と言うことは、アブラムシの有翅形かもしれない、と思って「日本原色アブラムシ図鑑」を調べてみたら、ソックリなのがあった。 ヤノイスフシアブラムシ、確証はないがこれであろう。斜めから見たもの(2007/11/29) このヤノイスフシアブラムシは、冬~春期はイスノキに寄生して虫えい(虫こぶ、「えい」の漢字は機種依存で使用できない。全く困ったものである。IT関連の人間は国語力に欠ける人物が多いのでこう言うことになるのか?)を作り、夏になるとコナラの葉裏に移住するとのこと。この仲間でコナラに二次寄生するのはヤノイスフシアブラムシだけらしい。イスノキは暖地性の大型木本で、この辺りで見た記憶はないが、何処かの家の庭にでも植わっているのだろう。 コナラの葉裏では無翅形が繁殖を繰り返し、晩秋に有翅形が出てイスノキに戻る、と書いてある。ヤノイスフシアブラムシの幼虫.普通のアブラムシの幼虫とは随分形を異にする.頭は下側(2007/11/28) 幼虫は、これもアブラムシとしては変な形である。上から見ると楕円形、乃至、コバン型で、触角は短く、何処にあるかよく分からない。背中に4列の赤色斑があり、そこに数本のやや長い毛が生えている(今日の写真は成虫も幼虫も総て同一倍率)。 かなり毛深い様だが、葉裏に居るとコナラの毛と一緒になってよく見えない。そこで、灰色のボール紙の上に落として写真を撮ってみた。赤い斑点から毛が出ているのが分かるであろう。なお、頭は、上の写真では下側、下の写真では左側である。 無翅形の成虫はどんな形をしているのか分からない。図鑑には出ていないし、コナラの葉裏に居たのは、有翅形とこの幼虫だけである。もう少し早い時期に葉裏を見れば、恐らく居たのであろう。幼虫と殆ど変わらない形をしていると思われる。ボール紙の上に移したヤノイスフシアブラムシの幼虫赤い斑紋から透明な毛が数本出ている.頭は左側(2007/11/28) あと何回か掲載すれば、葉裏の話も終わる。その後、ネタ切れに陥るのは必定、この春や、それ以前に撮った写真を出すことになりそうである。
2007.12.04
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また、コナラの葉裏の話に戻る。我ながら葉裏の話は少し厭きて来たが、これはまだ続く。 今日はその中でも、特に人気の無さそうなアブラムシの話である。しかし、このアブラムシを紹介しないと、以前予告したアブラバチの繭(マミー)の話がし難いのである。Tuberculatus sp.の有翅型.触角はまだらで、腹部後部から上方に突き出した角状管の黒い先端が見える(以下、倍率は同じ)(2007/11/12) 以前アブラバチの所で、その宿主をヤノイスフシアブラムシとした。しかし、これは誤りであった。アブラバチが産卵していたのは、「日本原色アブラムシ図鑑」に拠れば、カシワトゲマダラアブラムシ(Tuberculatus yokoyamai)の近縁種で和名のないTuberculatus sp.(「Tuberculatusに属すが、種名は未定、或いは、不明」の意)の様である。何分にも産卵していたのは若齢幼虫なので、その他のアブラムシの可能性もあるが、コナラの葉裏に見られアブラバチの繭(マミー)はこのアブラムシの特徴を示している。Tuberculatus sp.の有翅型.角状管の黒い先端部が腹部の手前側に見える(2007/11/12) 成虫はカシワトゲマダラアブラムシと同様、体には斑紋が無く薄緑色、しかし、角状管(通常腹部第5節の側方後縁にあるアブラムシに特有の管状の構造、ワックスや警戒フェロモンなどを放出する)の先端に顕著な黒斑があり、また触角には横紋がある点が異なる。特に、角状管先端の黒斑は他のコナラに付く近縁種に見られない特徴である。 このアブラムシは、名前の通り、胸部と腹部1~3節の背中側に指状突起を持つのだが、上の写真では真横から撮っていないので有るのか無いのか良く分からない。ほぼ真横から撮っても、葉っぱの上に居るのでは、背景の色に紛れてしまう。そこで、黒いシートの上にはたき落として撮ってみた。真横から見たTuberculatus sp.の有翅型.胸部と腹部の前方に背後に突き出した指状突起が見える腹部後部の黒い輪は角状管先端の黒斑(2007/11/14) チャンと背側の突起が見える。Tuberculatus sp.として良いであろう。Tuberculatus sp.の無翅成虫と思われる(2007/11/12) このアブラムシはアブラムシ科、マダラアブラムシ亜科に属す。生活環は良く分からないが、「アブラムシの生物学」に拠ると、この亜科のアブラムシは寄生転換を行わない、とあるので、1年中コナラの葉裏にいるらしい。 無翅の成虫(上の写真)と若齢幼虫(下)と思われるものの写真も示しておく。倍率は何れも同じである。Tuberculatus sp.の若齢幼虫と思われる(2007/11/12) アブラムシと言うのは、多型性で厄介な相手である。しかも小さいから、この程度のマクロ撮影では不充分、種の正確な判別には顕微鏡が必須である。余り相手にしたくない連中だが、新顔の虫が居なくなったら、アブラムシでも掲載するほか手がなくなるかも知れない。
2007.11.29
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