The delusion world

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第4話「人の造りし業」



石が誰かの手によって作られました。

誰が作ったのかはとても昔のことなのでわかりません。

ただ、その石は誰の手にも触れず闇の中で眠っていたのです。

作った人自身が、石に危険を感じたのでしょう。

だって、石はある“力”を持っていたのですから。

その力とは、石を手にした者が最初に持っていた“感情”を吸い込み続ける力です。

手にした者から吸い込むだけならいいのですが、石は世界中からその感情を吸い込みます。

もし、手にした人が嬉しさや楽しさといった感情だったのならどうなるでしょう。

世界中から嬉しさや楽しさが消え、世界は1日にして闇に包まれてしまうでしょう。

ゆえに石を作り出した人は、石を誰にも触れさせないようにしていたのです。

しかし、ある日世界に災いが降り注ぎます。

その災いにより、石は作り出した人の手を離れます。

それから約1年後、ある男がついに石を手にしてしまいます。

憎い。

世界なんて消え去ればいいのに。

それが、男の抱いていた感情でした。

たちまち、男から、世界から“憎い”という感情が石に吸い込まれていきます。

しかし、それの何がいけないのでしょう。

“憎い”

その感情が世界からなくなれば、世界は少なからず平和になるではありませんか。

ええ確かに、その時から半世紀ほどは戦争も起きず、世界は平和そのものでした。

平和だったのです。

世界に異変が起きたのは、それから少ししてのことです。

石が今まで溜め込んできた感情を吐き出し始めたのです。

そうして、世界は闇に包まれました。

世界中で戦争が起き、人々は憎みあい、この世の終わりとも言える時でした。

このままではいけないと、石を作り出した人は石を抑える方法を探し始めました。

ですが、どれだけ探しても石を抑える方法は見つかりません。

石を作り出した人は困り果て、最後にある方法へと行き着きます。

“この世界とはまた別の世界を創り、そこに石を封印する”

世界を創るなど、人の生業ではありません。

ましてや神々が信じられていた時代です。

石を作り出した人が行おうとしたことは神への冒涜とも言える行動でした。

それでも、石を封印できる方法は他に無かったのです。

当時禁忌の1つだったそれが、最後の方法でした。

石を作り出した人はその方法を実行し、見事石を封印することに成功しました。

これで世界は、元のさまざまな感情が渦巻く世界へと戻ったのです。

世界は、平穏を取り戻したのです。

そう、石を作り出した人のいた世界は―――。





「その石を、封印するために創られたのが・・・この世界・・・?」

僕は恐る恐る長老のおじいさんに聞きます。

おじいさんは静かに頷きました。

「この話は、わしと村の数人しか知らぬことじゃ。できれば誰にもいわんでくれ」

おじいさんのその言葉に、僕も頷きます。

それを確認すると、おじいさんは再び話し始めました。

「・・・災いが、再び訪れようとしとるのじゃ・・・此度は石によっての」

おじいさんは話を続けます。

「異変が起き始めておるのじゃ。お主は獣の化け物を見たかの?」

獣の化け物、とはあの森の中で出会った怪物のことでしょうか。

おじいさんに詳しく話を聞くと、どうやらあの怪物に間違いないようでした。

「・・あれは、石の力によって獣が作り変えられたのじゃ」

今まで森の中で平穏に暮らしていた獣たちが、ある日突然姿を変えたのだそうです。

それは紛れもなく石の力によるものでした。

人の手によって封印されたこの世界には、神などいないのですから。

「そこでじゃ、先程も言ったようにお主に頼みたいことがある」

おじいさんは僕の目を見て、強く言いました。

「た、頼みたいことって、何?」

僕がそう聞くとおじいさんはゆっくりと話し始めました。

「今、森の異変の詳しい原因と、石の調査を2手に分けて行っておる」

先程言っていた、石の話を知っている数人とはこれに関わっている人達のようです。

「え?あの、どういうこと、ですか?」

僕はおじいさんの言いたいことがよくわかりません。

おじいさんは少しため息を吐いて、きっぱりと僕に言いました。

「そのどちらかに参加してもらいたいのじゃが、無理かのう?」

「参加って・・・!ど、どうして僕が!?」

確かに僕は石の話を知っていますが、それは聞かされただけです。

石の話を知っていると言うこと以外に僕には何もありません。

それなのにどうして僕が参加する必要があるのでしょうか。

僕は、もうあんな思いをするのは嫌です。

だから―――。

断ろう、と思ったときに、おじいさんの口から意外な言葉が出てきました。

「村の者は、お主のことを救世主だと思っておる。無論、わしも例外ではないがの」

救世、主?

「そんな・・・僕が救世主なんて、あるわけないよ」

驚くでもなく、疑うでもなく、僕はなぜかその言葉を受け入れていました。

でも、僕が救世主なんてありえません。

「そうだよ。こんな僕が救世主なんて・・・」

ありえない、ともう一度同じ言葉を繰り返します。

僕はおじいさんの言葉を否定し続けます。

ですが、おじいさんの目に揺らぎはありませんでした。

「森の異変が始まってすぐにお主が現れたのじゃ。そう思うのが自然じゃよ」

おじいさんは当然のように、そう言い切ったのです。

僕は救世主なのだ、と。

それでも僕はおじいさんの言葉を否定しようとしましたが、言おうとしてやめました。

どちらにしろ、ここで選ばなくてはならないのですから。

救世主として手伝うのか、手伝わないのかを。

僕は奥歯を噛み締めます。

そうして、睨み付けるようにおじいさんの目を見ます。

僕は、僕は―――。

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