7~SevenDoors~

我がプロレス人生に悔い無し




~1993年**月**日 - 20**年**月**日~

俺が「プロレス」という旅に出てからおよそ13年の月日が経った。
13歳の初夏、夜空のもと北海道のとある真夜中のTVの中継からその旅は始まった。

あの頃はプロレスを観ることに夢中になり
必死でダイビングヘッドバットを決めることだけを目指した。
そして、ひたすら試合を楽しんだ。
マットは常に傍らにあった。

この旅がこんなに長くなるとは俺自身思いも寄らなかった。
新日本プロレスからアメリカン、女子プロ、ルチャリブレ、キャッチ、そしてnWoの一員へ。
その後、自分のプロレス人生の大半を占めるWWEへ渡った。

メキシコ、ヨーロッパへも招聘され
世界中のあらゆる場所でいくつもの試合を闘った。

プロレスはどんなときも俺の心の中心にあった。
プロレスは本当に多くのものを授けてくれた。
喜び、悲しみ、友、そして試練を与えてくれた。

もちろん平穏で楽しいことだけだったわけではない。
それ故に、与えられたことすべてが俺にとって素晴らしい“経験”となり、
“糧”となり、自分を成長させてくれた。

半年ほど前からこのスーパーJカップを最後に
約13年間過ごしたプロフェッショナルレスリング界から引退しようと決めていた。

何か特別な出来事があったからではない。その理由もひとつではない。
今言えることは、プロレスという旅から卒業し“新たな自分”探しの旅に出たい。
そう思ったからだった。

プロレスは世界で最大のスポーツ。
それだけに、多くのファンがいて、また多くのジャーナリストがいる。
選手は多くの期待や注目を集め、そして勝利の為の責任を負う。
時には、自分には何でも出来ると錯覚するほどの賞賛を浴び
時には、自分の存在価値を全て否定させられるような批判に苛まれる。

プロになって以来、「プロレス、好きですか?」と問われても
「好きだよ」とは素直に言えない自分がいた。
責任を負って戦うことの尊さに、大きな感動を覚えながらも
子供のころに持っていたチャンピオンベルトに対する瑞々しい感情は失われていった。

けれど、プロとして最後の試合になった**月**日のクリス・ベノワ戦の後
プロレスを愛して止まない自分が確かにいることが分かった。
自分でも予想していなかったほどに、心の底からこみ上げてきた大きな感情。

それは、傷つけないようにと胸の奥に押し込めてきたプロレスへの思い。
厚い壁を築くようにして守ってきた気持ちだった。

これまでは、周りのいろんな状況からそれを守る為
ある時はまるで感情が無いかのように無機的に、またある時には敢えて無愛想に振舞った。
しかし最後の最後、俺の心に存在した壁は崩れすべてが一気に溢れ出した。

ベノワ戦の後、最後のマットの感触を心に刻みつつ
込み上げてきた気持ちを落ち着かせたのだが、最後に会場のファンへ
挨拶をした時、もう一度その感情が噴き上がってきた。

そして、思った。

どこの国のどんな会場にもやってきて
声を嗄らし全身全霊で応援してくれたファン――。
世界各国のどのリングにいても聞こえてきた「blacktiger」の声援――。
本当にみんながいたからこそ、13年もの長い旅を続けてこられたんだ、と…。

プロレスという旅のなかでも「ブラック・タイガー」は、俺にとって特別な場所だった。

最後となる両国国技館での闘いの中では、選手たち、スタッフ、そしてファンのみんなに
「俺は一体何を伝えられることが出来るのだろうか」、それだけを考えて闘ってきた。

俺は今大会、ブラック・タイガーの可能性はかなり大きいものと感じていた。
今のブラック・タイガーの技術レベルは本当に高く、その上スピードもある。
ただひとつ残念だったのは、自分の実力を100%出す術を知らなかったこと。
それにどうにか気づいてもらおうと俺なりに2年間やってきた。
時には励まし、時には怒鳴り、時には相手を怒らせてしまったこともあった。
だが、メンバーには最後まで上手に伝えることは出来なかった。

スーパーJカップがこのような結果に終わってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
俺がこれまでプロレスを通じてみんなに何を見せられたのか、
何を感じさせられたのか、この大会の後にいろいろと考えた。
正直、俺が少しでも何かを伝えることが出来たのか…
ちょっと自信がなかった。

けれどみんなからのmailをすべて読んで
俺が伝えたかった何か、ブラック・タイガーに必要だと思った何か、
それをたくさんの人が理解してくれたんだと知った。
それが分かった今、プロになってからの俺の“姿勢”は
間違っていなかったと自信を持って言える。

何も伝えられないままブラック・タイガーそしてプロレスから離れる、というのは
とても辛いことだと感じていた。しかし、俺の気持ちを分かってくれている“みんな”が
きっと次のブラック・タイガー、Jr、そして日本プロレスの将来を支えてくれると信じている。

だから今、俺は、安心して旅立つことができる。

最後にこれだけは伝えたい。

これまで抱き続けてきた“誇り”は、
これからも俺の人生の基盤になるだろうし、自信になると思う。
でもこれは、みんなからの“声”があったからこそ
守ることが出来たものだと思う。

みんなの声を胸に、誇りを失わずに生きていく。

そう思えればこそ、この先の新たな旅でどんな困難なことがあろうと
乗り越えていけると信じられる。

新しい旅はこれから始まる。

今後、プロの選手としてリングに立つことはないけれど
プロレスをやめることは絶対にないだろう。
旅先の路地で、草むらで、小さなグラウンドで、誰かと言葉を交わす代わりに
ロックアップするだろう。子供の頃の瑞々しい気持ちを持って――。

これまで一緒に闘ってきたすべての選手、関わってきてくれたすべての人々、
そして最後まで信じ応援し続けてきてくれたみんなに、心の底から一言を。

“ありがとう”

blacktiger2nd

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