こしゃくな読書

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陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1) [文庫] 長岡 弘樹 (著)


長岡 弘樹 (著)
http://www.amazon.co.jp/dp/4575512192/ref=nosim/?tag=donzoko-22







 熱を出した。

「だまって寝てろ」と言われてもついつい口が動く。




「ねえ、ねえ、足の裏にホッカイロって、熱出した時、

おススメだよ。張り裂ける〜って感じだったのに、

ウソみたいに楽になった。

どうして熱出すと足がつるのかなあ」



 「あのさあ、ヒエピタって本当に気持ちがいいねえ。

首の後ろがグキグキしていたのに、全然大人しい。よかった」


「しゃべりたいんだねえ、やっこは」

と笑いながら、リビングから覗き込んで私の話を聞いてくれる三女。


この娘は本当に優しい。



 「麦茶とってくれる?」

「ペットボトルでいい?」

「うん、ペットボトルがいい」

「はい。一度開けておいたからキャップ、すぐ回ると思うよ。

気を付けてね」




この娘、本当に優しい・・・・・・。



 布団の上で飲むにはペットボトルが便利だ。

ここまでなら、私にでもわかる。


しかしその後である。


いくらおしゃべりでも熱を出している病人には

新しいペットボトルのキャップを回せるだけの握力が無い。


そこまで考えて、一度開けてから渡してくれて、しかも

知らずに力を入れてこぼしてしまわぬよう、すぐ開くことを伝えてくれる。


これだよな、思いやりって。




 親バカな感動にうちふるえ、思わず無言になった。

すると、やっと寝たかと思ったのだろう、

リビングと和室の間のふすまをそっと閉め、

三女が自室に戻って行く足音が聞こえた。



 その後、私はずっと幸せな思考を巡らしていたのだ。

私はあの子を育てる時にあんなにやさしかったかなあ。

いや。





でもさあ、意外なことに確か子殺しより親殺しの方が、

罪が重いんじゃなかったっけ?

なんでだよ。絶対子殺しの方が罪は深いだろ。

子どもは将来も一緒に無くしちまうんだぞ。



 熱があるせいか、その思考回路は取り留めないのだが、

思い至っていたのは、このミステリー名作短編集の

親を思う子の心を現す名場面であった。



 なるほどなあ、無償の愛って親じゃなく子どもなんだな。



自己満足な結論にたどりつくと

まさに陽だまりのような心地よさの中で回復への眠りに就いた。

早くこの本をもう一度読みたいな、と思いつつ。

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