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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)
石の民「君は星星の船」■第4章 ミニヨン
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
■ 石の民「君は星星の船」1989年作品)■
■ 第4章 ミニヨン
光二、アルク。二人は石の壁の前にたっていた。突如現れたこの二人を目ざとく発見し
たものがいる。祭司仲間のガルナが重い体をゆすりながら、むこうから、走ってきた。
「アルク、アルクじゃないか、お前はこの土地に戻ってはならん」
「アルク、お前の顔は」ガントはぎょっとした。あの柔和がったアルクの表情が変わって
いた。アルクの顔は戦士の顔になっている。驚いたガントは、あとは、小さな声で続けた。
「アルク、わかっているだろう。だれもこないうちに、早くここからきえろ。悪い事はい
わん」ガントは心配している。
「ガント、安心しろ。君には迷惑はかけない。私は娘ミニヨンを助けるためにかえってき
たのだ」
「どんな方法でミニヨンを助けるつもりだ」「この男だ」ガントは光二を上から下までなめ
るように見る。
「こんなへんな着物をきた奴はみたことがない。おまけにガキじゃないか。こんな奴が石
の男に立ち向かうのか」光二は怒る
「なんだって、おっさん。俺たちの世界では俺ぐらいのキッズが、ロボットを支配してい
るのさ。あんたくらいの年ならもう生きていない」
「なんだと、なんというガキだ」ガントは怒って、光二にくってかかる。
「ガント、私はこの彼の力を借りねばならんのだ。彼は秘密の力をもっている」
「へへん、ざまあみろ」
「アルク、そんなこといったってな。祭司会議がなんというか」
「祭司会議がきずく前に我々は石の男の心底に潜り込んでいるさ」
「そんなこといったって、俺の責任になるんだ」ガントは汗をかいている。冷や汗だ。
「へへん、肝っ玉のちいせえおっさんだぜ」光二は新しい世界と、これからへの期待と不
安で舞い上がっている。
「何をいう。このガキめ」ガントは顔を赤らめていた。
「光二、黙っていてくれ。いいから、ガント、早く解決すればいいのだから」
二人が言い争いが続く間、光二は『石の男』を見上げていた。その後ろに『石の壁』が
続いているのだ。光二は身震いした。光二の世界のルールがここで通用するだろうか。光
二はやや逃げ出したい気分だった。といって、光二には、アルクがもっていたフォトに写
っているのが有沙だと思っていた。なぜ、この世界の人間が有沙の写真をもっているのだ。
どうせ後戻りはできない。そう光二は思った。「姉さん、会いたい」光二はまた左手で指輪
をなでていた。たった一人の肉親、有沙。会えるならば、どんな危険でも犯さなければな
るまい。話しがまとまりかけていた。
「ガント、知らなかったことにしろ」
「そりゃあ、こまるよ、アルク」
「あっという間に、はいったことにしろ」
「がたがたいってるうちに他の人間がくる」光二がいう。
「後生だ、ガント」ガントはうなずき、横をむいた。ガントとしては最後の譲歩だろう。
「早く。光二」
「えっ、どこへ」
「決まっているだろう。石の男の心底へだ」「ま、まだ心の準備が」光二のひざがわれそう
だった。
「いまさら、何をいう、ここまできて」
「お前は男じゃないのか」ガントが叫んでいた。今度はガントが光二をばかにする番だっ
た。
「このおっさんにいわれると。ようし、早くいこうぜ、アルク」
二人は沈んだ。
『わっ、ここはいったい』
『ここが、石の男の『心底』だ』
光二のイメージとはかなり違う。灰色の霧がもやっている感じだった。二人のところに一
陣の風が吹く。二人の前に男が立っていた。『アルクか、しょうこりもなく帰ってきたのか。
アルク、いくら私のところへ来ても、ミニヨンを返すわけにはいかんぞ』石の男はアルク
を認めると笑ったようだった。『今度こそ、ミニヨンを返してもらう』アルクがはりきって
いる。
石の男は、アルクのそばにいる光二に気がついた。『アルク、その男はだれだ』
『石の男、よく聞け、この若者は聖砲をもっている。私が世界のはてまでいって探してき
たのだ』
『なに、聖砲だと』
この若者が聖砲をもっている。ひょっとして。がなぜ、アルクが聖砲の事をしっているの
だ。ひょっとして死せるものの船になにかがあったのかもしれん。一度この若者にかまを
かけてみるか。石の男は、光二にいぶかしげに尋ねる。『君は石の民ではないのか』
『石の民、いったい、なんだ。それは。俺はVグループの光二だ、フッコウドームじゃち
ょっとは知られた名前だ。そんなことより、ミニヨンをわたしな』
こいつは飛び切りのバカかもしれん、石の男は思った。が念には念をいれて。
光二には答えず、急に石の男は光二の心にしずんでいた。光二は樹里の人々とは異なり
心理バリヤーなどはならってはいない。 なんだ、こいつの心の中は、ぐちゃぐちゃじゃ
ないか。光二の心の中は原色のかたまりだった。それに有沙の思いでがいっぱいだった。
これはミニヨンか、いや少し、違うようだが、何か別のものが、驚くことがあった。 光
二の心のなかに、別の男の意識が隠されていた。
『お待ちしておりました。ムリム。私を助けにきてくださったのですか』この心はアイン
という。石の男はよく知っていた。『ああ、やはり、君か、アイン』
『そうです、あいつに追放されてこのありさまです。この光二とかいう男の心に閉じ込め
られているのです』石の男ムリムの仲間、石の民アインの心が、光二の心底に閉じ込めら
れていた。
『この若者は石の民ではないのだな』ムリムがたずねる。
『そうです。あいつが私をとじこめる檻にしたのです』
『ところで、君は聖砲について知っているかね』
『はあ。どうもこの男がもっているようなのですが、なぜか、わからんのです』
『聖砲は我々があそこから追放された時に盗んだのですが』
『そうなのだ。なぜ、この男の手に』
『まあ、それはいい。さあ速く、この男の心からでるのだ。アイン、ひとりでも味方が欲
しいところだ。私を助けてくれ』
『が、ムリム、この男の体と私の心は結び付けられているのです』
『という事は』
『この男も連れていかざるをえないのです』『あの船へ、対決するために』
『そうです。聖砲を使って』
『よし、とりあえず、アルクを排除するか。そして、この光二とやらを、我々のために働
かそう』
石の男は自分の心底に戻る。
『光二とやら、聞きたまえ。私は石の民の一人なのだ。石の民は世界を創造できる。この
世界をつくったのは私だ。石の民一人一人がそれぞれ世界をつくれる。
私ムリムだけが、ある事情があり、この「石の壁」に残っていたのだ。我々ははたして
どこからきたのかわかりはせん。ただ石の民の過去の記憶をもつ伝説の人がこの壁の前に
現れた時、我々はいくべき所と過去をしることになる』光二にはチンプンカンプンだった。
『我々の記憶は告げている。この人の名前は北の詩人と』石の男は告げた。
光二は考える。今自分がここにいる、ここは石の男の心底だ。じゃ、今、考えている俺
自身は何者なのだ。不思議な体験だった。
『光二、君が望むのなら、君を石の民にしてやろう。君は、君の世界をつくれる。神とな
れるのだ。私に協力したまえ』
『石の男、光二にまで、干渉するな。ミニヨンをかえせ。そうしなければ、聖砲を使うぞ』
アルクは言った。
『が、アルク、光二、君達はその聖砲をつかえるのかね。また聖砲のもつ意味合いを』 確
かに聖砲の使い方はわからない、アルクは痛い所をつかれた。
『光二、かまわん、聖砲を使え』
『でも、アルクのおっさんよ、俺はしらんぜ』『この期に及んで、何をいう、光二』
『だから、俺はいったろう、しらないって』『ははは、ばかものめ。我々のみがその聖砲の
意味をしっている』
とうさん、とうさん、私はもとの世界へ戻りたい。とうさん、助けに来て。
ミニヨンは石の男の心底で毎日なきくれていた。なぜ、私が、この石の男の心底で、それ
に、石の男は私をアルナと呼ぶのだろう。アルナっていったいだれなの。
ミニヨンの前に光が現れた。ミニヨンは恐怖で一杯になる。また何か、悪いことが私の身
におこるのだ。なぜ、私だけが。
「ミニヨン、怖いか」女の声だった。
「あなたは」「ミニヨン、おいで」「どこへ」「この私の光のなかへ。そうすれば、お前はこ
の石の男の心底から逃げられるのよ」
ミニヨンは光の中に入っていた。光の中にはミニヨンと同じ顔をした女の子たちで一杯だ
った。この声は聞いたことがある。少女のころからの。ミニヨンは意識を失っていた。
アルクと光二の前に、突然、別の分心が現れる。ミニヨンだった。
『ミニヨン』アルクは叫ぶ。
『ミニヨン、なぜ、私の心の牢から脱出できたのだ』石の男ムリムが叫んでいた。
ミニヨンは光二の分身にかけよると、くすり指にある指輪を引き抜く。
『あっ、何を』光二の叫びにはかまわず、ミニヨンはその指輪を石の男に向ける。
『まさか、お前は 、いかん』
それが、石の男の最後の言葉だった。石の男の姿は指輪からはっする光りの中で消滅し
ていた。
『ミニヨン』
『姉さん』二人は思わず駆け寄る。
『ミニヨン、大丈夫だったか』アルクが叫ぶ。『姉さん、生きていたのか』続けて光二が叫
ぶ。アルクがむっとして、光二にどなる。
『光二、待ちたまえ、ここではっきりさせておこう、この子は私の娘ミニヨンだ。君の姉
さん有沙ではない』
『姉さん、姉さんなんだろう』光二はアルクの言葉を無視してミニヨンにはなしかけてい
た。
『私、私はだれでもない。新しい生命よ』彼女は言った。以外な答えだった。しばらく、
二人は声もでない。
『どうしたんだ。ミニヨン』アルクは戸惑っている。
『光二、アルク、私はミニヨンでも有沙でもない。進化した存在となった。ある人と石の
民に会うためにね』
『何をいっているのだ。ミニヨン』アルクはゆっくりと話す。
『アルク、私は幼いころから、変わった子といわれていたでしょう』ミニヨンの顔をした
彼女はアルクに尋ねた。
そういえば、アルクは思い出す。
『そのころから、私は進化していたの。まったく、ミニヨンから異なる別のものへとね。
そして、私は石の男の心底で私は変身を遂げた。まったく別の生き物としてね。だから 、
ミニヨンの外観はそうでもまったく別のものなの。さて、光二、私、有沙は変化した。あ
なたは私がホースから落ちるところを見ていたわね。不思議な落ち方をしたでしょう。有
沙として私はある時期から変化していたの。別世界のものが私を呼んでいたの。誰かが私
をホースから突き落としたのは事実だわ。でも、その一瞬先に私の心の中に叫ぶものがあ
ったの。《有沙、そのホースから、飛び下りなさい》とね。その声は有無をいわさなかった
わ。私はホースから落ちて、ドーム世界で死に、この石の男の世界で蘇ったの。だから、
私はミニヨンであり、有沙でもあるの』
『石の民はどこにいるのだ』
『死せる者の船にいるわ』
『死せる者の船だと』
『石の男もそこから、やってきたの。すべてはその船からはじまったのよ。私は石の男の
中で変身した時、それがわかったの』
石の壁から石の男が消えてしまった。
巡礼たちが騒ぎだす。巡礼の目の前で信仰の対象だった石の男が消え去った。
ガントはおおあわてだ。彼ら光二とアルクが石の男の心にはいってだいぶの時間がすぎ
ていた。間違いだった、彼らをいかすのではなかった。反省していた、これで、私もアル
クと同じように、ああ、いやだ、かんがえただけでも恐ろしい。あの儀式、それに妻のモ
リはどうなるのだ、家族は、私の店は、私の美しい着物は。
樹里の祭司たちは大騒ぎだ。その石の壁の前でガントが棒立ちしている姿が際立ってい
た。
「ガント、何がおこったんだ」祭司長マニだった。ガントは祭司長マニの驚きに答えて、
つい本当の事を告げてしまう。
「祭司長さまお許しください。実はアルクがもどってきていたのです」
「なんだと、アルクが」
「アルクが一人の若者ともどってきたのです」「それで」
「石の男の心に沈んだようです」
「おまえはそれをとめなかったのか」
「とめようがなかったのです。それにアルクは、この若者が聖砲をもっているといったの
です。これがすべてを解決すると」
「何、聖砲だと、本当にそういったのだな、ガント」
「そ、そうです」ガントは祭司長の顔が一瞬変わったのを見た。祭司長はひとりごちた。「時
が満ちたのかもしれん」
何の前触れもなく、男たちと女がかえってきた。巡礼たちが声をあげた。信仰の対象であ
る「石の男」が消えたことはこの世界の消滅を意味するのかもしれなかった。そして、続
いて男たちが出現したのだ。
時代が変化しつつあるという実感が巡礼たちの心に芽生えていた。その恐怖が人々の心
に伝染していく。
「よく、帰ってきた、アルク」マニは両手をアルクの両肩においた。
「それでは、通信機の声はあなただったのですか」
「そうだ、だれかが、この世界からでていって、聖砲をもって帰ってくることは石の壁に
書かれていた。石の壁の文字を読めるのは私だけだったのだ」やがて祭司長マニは決心し
たようだった。
「アルク、もう我々は後戻りできん。君はこの若者の導師となり、すべての出来事を掌れ。
我々は手助けをしょう。石の男が消滅した以上、石の壁を復興させなければならん。その
ためには北の詩人が必要だ」
「北の詩人はどうやら、私達のいた世界にいるようよ」ミニヨンが光二に告げる。
「俺のいた世界だって」
「そう、おまけにVグループが秘密をにぎっているようね」ミニヨンは皆が驚いているの
にもかかわらず、次々と事実を述べていく。「アルク、ミニヨンはどうしたのだ」マニが不
思議なものを見るように訪ねた。「彼女は変身したといっているのです」
「この中では、私が一番、石の民に近いところにいるわ」ミニヨンが皆を無視してしゃべ
り続ける。
「マニさま、お許しください。どうも、もとのミニヨンにはなかなか戻りそうもありませ
ん」アルクは冷や汗をかいている。
「いや、北の詩人の事を彼女は知っていた。北の詩人も石の壁に書かれていた」マニはし
ばらく考えている。
「若者よ」マニは言う。
「俺は光二という」
「光二、君はフッコウドームにもどって貰おう。むろん、ミニヨンと一緒に」マニは言っ
た。
「マニ、すでに彼女はミニヨンではありません。別の存在です」アルクは言った。
「それに、俺の姉さん有沙の記憶ももっているんだ」光二はいった。
「どう呼べば良いのかね、君」マニが言った。「ミニヨンAとでも呼んでください」ミニヨ
ンの顔をした女がいった。
「さあ、わかった。君たちは早くフッコウドームとやらへ行け。『北の詩人』を必ず手に入
れろ。世界はせれにかかっている」そのあとアルクの方を向く。
「予定が変わった。アルク、君はここに残るのだ」
「なぜです、マニ」
「君には石の男の心の中で何がおこったのか説明してもらおう」
「なぜ、私が」
「ほら、この巡礼たちに説明してやろう、そうしなければ、皆が不安だろうて」
「それに私もです」真っ青な顔のガントだった。
「でも、Vグループと戦うのだろう」光二はかたわらにいるミニヨンAを見た。
「君がミニヨンAの事を心配するのはわかる。が一緒にいきたまえ」マニが命令した。
「そう、私には力がある」ミニヨンAは、光二に向かっていった。確かに石の男を消滅さ
せたのも、聖砲の使い方を知っていたにも、このミニヨンAだった。くそ、今度はいいと
ころをみせねば、光二はあせっていた。
「いい、光二、北の詩人は大吾の石棺のなかよ」
「なぜ、それが、あんたにわかるんだ」
「いったでしょ、私は一番石の民に近いのだって」ミニヨンは当然の事のようにいう。
「大吾って」
「ワンダリングキッズよ。石棺をかついでいるから、見ればすぐわかるでしょう」
「よし、まかせておきな」光二は空元気を出していた。
光二とミニヨンAは消えた。
二人が消えたあと、マニはアルクに言った。「アルク、死んでくれるかね。世界のために」
「何ですって」
「我々は皆滅ぶ。我々は滅ぶが、新世界で再生できる」
アルクは言葉もなかった。
「総てはあの石の壁に書かれているのだ。だから、アルクよ、君はこの石の壁に書かれて
いる様に、動いてくれ」
Vグループのアジトはフッコウドームの中央より東側にあった。このあたりは廃品工場
跡だ。
ミニヨンAと光二の意識はそれを見ている。 ミニヨンAが光二をこの世界に連れてき
た。先に光二を実体化させた。Vグループの集会室だ。光二が実体化した一瞬は、キッズ
の誰も声がでない。誰かが恐ろしげに言う。姿なきものにいうように
「光二、おまえ、死んだんじゃなかったのか」「残念ながら、ピンピンしてるぜ」
「それで、おれになにか用か、Vグループに所属したいとでもいうのかい」
「こきやがれ、登」
「光二、おまえのあねきの死に様ってなかったな」登はあざけるように言う。
「くそ、登、おまえが」
「そう、俺が後ろで糸をひいていたのよ」
「後ろで」ということはだれかが。
「光二。おまえは本当にカンのにぶい奴だな。このごろ、Bグループがきまってヤバイ橋
を渡っていたのはなぜだと思うんだ」
「 」
まさかという気持ちが光二の心にめばえていた。
「おい、隠れていないで。でてこいよ」登は暗がりにむかって言った。陰から一人の男が
でてくる。「やはり、おまえか」
アキヨシだった。光二の指がぎゆっとにぎりしめられている。
「なぜ、おまえが」
「あんたはよ、俺を優遇してくれなかったろう。登さんはちがうぜ」すねたようにアキヨ
シは言う。
「そうだ。俺はアキヨシにおまえのしょばを約束してやった。おまえをやっつけてくれれ
ばとな」
「アキヨシ、なぜ姉きをころしたんだ」光二の顔は紅潮している。
「本当はおまえさんをやるつもりだったんだ。それをあの有沙がじゃまをしたんだ」
「ということは姉きは俺の身代わりになったってことか」
「それに俺は有沙にほれていた。があいつはひじてつを俺にくらわしたんだよ」アキヨシ
が言った。
「アキヨシ、貴様」光二はアキヨシに詰め寄る。
「まて、それで光二、このVグループになに用があったきたんだ」光二は目的を思い出す。
アキヨシの言葉で興奮して忘れるところだった。
「大吾のかついでいる石棺を渡してほしい」「石棺だと、なにをいいだすかと思ったら。お
い、みんな聞いたか石棺だとよ」笑いが空洞にこだましていた。
「おまえの死体でも、いれるのか」
「登、それにVグループのみんな、聞いてくれ。俺はこのフッコウドームの事などどうで
もいいんだ」光二は言う。
「ほほう、このドームで番をはっていたおまえがこのドームの支配がどうでもいいだと」
登が返した。
「泣かせてくれるぜ」
「お涙ちょうだいします」Vグループがやじを飛ばす。
「俺をおこらすな、俺は今、世界を背負っているんだ」光二は真剣な表情だった。
「おい、きいたかよ、世界を背負ってるだと」「巨大な力が俺を動かしているんだ」
「その巨大な力とやらを見せてもらおうじゃないか」
「俺たちの相手をしてもらおうか」
「待って」今度は、突然ミニヨンAが現れた。「こ、こいつはどうだ」登は言葉がでない。
「し、信じられん」アキヨシの目は飛び出しそうだ。
「幽霊じゃないだろうな」
「私は生きているわ。でも私はあなたたちが考えている有沙ではないの。私達にとって、
今ほしいものは大吾の石棺。そのなかに眠れるものが世界を左右するのだから」
「世界を左右する」Vグループの一人が笑った。
「おまえたち、ふたりとも、頭がどうか、したのじゃないか」
「まあ、そんなに大事なものならおまえたちに渡すわけにはいかん。我々が利用させても
らおう」登がいった。
「やめろ、登、おまえたちの手にはおえん」「何だって、笑わすなよ。おい、大吾はどこに
いるんだ」登は大吾を探す。
「さっきまでここにいたんですが」
「さっき、でていったようです。でも、石棺は背負っていませんでした」
「まあ、いいや、石棺さえあれば」
「おっと、ふたりとも動くなよ。こっちをみな」3人のVグループの男たちが武器を構え
ている。光二と有沙は身動きできない。Vグループの連中が石棺をさがす。
「大吾の野郎、どこに石棺をおいたんだ」
「あっ、ありました、こんなところに」
アジトの裏にある洞窟の中にそれは安置されていた。
「まて、それを開けるのは」登は光二の方を見て、にやりと笑う。「有沙にやってもらおう
じゃないか、何がはいっているかわからんからな」
「やめろ、登、彼女に危険をおかさすな」光二の顔は怒りで一杯だった。なんと汚い奴な
んだ。
「おまえは命令できる立場には今いないぞ、光二、それにおふたかたは世界を背負ってい
るんだろう。こんなことくらい」登はミニヨンAの方を向く。
「有沙、このトンネルにはいってもらおうか」ミニヨンAは武器を持った男に命令されて、
そのトンネルへはいっていく。なにか危険な臭いを光二は感じた。
洞窟に安置されている石棺をミニヨンAが開けようとする。一瞬後、トンネルが大音響
と共にくずれる。
「有沙、ミニヨンA」光二は叫んでいた。
「今度こそ、おだぶつだな」登が冷たく言う。「登、貴様」
「光二、ここの主導権は俺がもっている」
突然、その場所に光が満ちた。
「うあっ」全員が倒れている。意識をうしなっていた。アルクが登場していた。
「アルク、来るのが遅すぎる。有沙、いやミニヨンAが下じきだ」
「光二、だいじようぶさ」アルクの顔色はわるかった。マニの話しを聞いていたからだ。「な
ぜ、それがわかる」
「彼女は死せるものの船にいるさ」
「何故、わかる」
「彼女は我々の敵かもしれん」
「なんだって」アルクの以外な言葉に光二はびっくりした、一体どうなっているんだ。
「マニと話したんだが、彼女は知り過ぎている」アルクの目には絶望の光すら見える。
「まあ、どうせ、はっきりする。我々もそこに行く」
「えっ、俺も行くのか」
「当然だ」
「すまないが、その前に、アルク、時間をくれないか」
「何をするつもりだ」
「いや、こいつら、とくにアキヨシと登にお礼をしたいんだ」
「バカモノ、いまは世界がどうかなろうとしている時だ、そんなやつら、勝手に消えるさ」
「でも、アルク」
「いくぞ、光二」未練がましくしい光二を連れてアルクはアジトから去った。
SF小説■石の民■(1989年作品)
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