エビとハゼの不思議な同棲

ハゼとテッポウエビの共生

生物の世界はいろいろ不思議で、違う種類のものがひとつの巣穴にすんでいたりします。
これを 「共生」 と呼ぶのですが、水中世界ではハゼとテッポウエビの共生が特に頻繁に見られます。
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テッポウエビの巣穴にハゼが見張り役として住んでいるのですが、この関係、ちょっと観察していると色々不思議な感じがしてくるのですね。

テッポウエビは砂地に巣を作りますが、ともかくひたすらまじめにこつこつと、砂かきを続けています。ハゼはその間手伝うわけでもなく入り口にデンと座って周囲を睥睨しているのですが、ダイバーなどの姿を見かけると、ヒレや体を細かく震わせ、エビに注意信号を出します。

でも、よく見ていると、意外とハゼはしょっちゅう巣穴の前から離れて、外で口をあけて飯を食っていたりするんですよね。つまり見張り役をサボっているわけです。
その間もエビは働きつづけていたりします。

で、ハゼの方が体が大きいので、ダイバーの影などにおびえて、慌てて引っ込むと、必ず巣穴の入り口部分が壊れます。
それでもエビは文句もいわず、そこでまたコツコツと砂かきを続けるわけです。

私はいつもテッポウエビのけなげな砂かき姿に、 安部公房の名作「砂の女」 をだぶらせてしまいます。
「なんでこんな砂だらけの土地にわざわざ穴なんか掘って暮らしているんだ」と諭したくなります。
本当にひたむきにコツコツと穴だけを掘りつづける人生なんですよ、
テッポウエビの人生は・・・
仮に輪廻転生したとしても、テッポウエビにだけはなりたくないとしみじみ思います。
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ハゼとテッポウエビの関係はどう見ても見張りだけのアルバイトで住居を分けてもらっているハゼのほうが有利に思えます。
もっともエビはハゼの体をクリーニングしながら、ハゼの体についた食べ残しや寄生虫などを食べているという説もありますから、見張り役だけではなく食料の調達係もハゼはかねているのかもしれません。
しかし、それだけがエビの餌だとは到底思えませんから、人間に例えれば、 女の家に転がり込んでいる、甲斐性なしのチンピラ遊び人が、気が向いたときだけパチンコで缶詰もって帰ってくるようなもん じゃないでしょうか?

さて、この両者の共生生活は1対1とは限りません。
ハゼが2匹にエビ1匹というケースは比較的よく見かけます。
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ハゼ1匹でエビ2匹をはべらせている場合もあります。
こういう時、ハゼの持つ容貌は、何だか 下町の町工場の経営者で、仕事もできるが精力もやたら強い、スケベなおっさん のように見えます。
まさか、エビに対して性的な関係を強要することなどはないでしょうが、なんとなく、ヌルっとしたハゼの顔立ちは、そういうことを想像させてしまうのです。

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ニチリンダテハゼという背鰭に日輪模様がある綺麗なハゼがいます。
これも、エビと同棲していることが多いのですが、
私のダイビングの師匠である、 アクエリアス の鈴木さんは、ある日、肉が少しついたフライドチキンの小骨を、この巣穴のそばにおいて観察してみたそうです。
すると、最初ハゼが出てきて、持っていこうとしましたが、うまくいかずにあきらめて引っ込んでしまいました。

でも、しばらくすると今度はテッポウエビが同じ巣穴の中から出てきて、ハサミで器用に小骨をはさんで、巣穴の中に引きずり込んだそうです。
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これって単なる偶然??

それとも巣穴の中でハゼからエビに何か情報が伝わったのでしょうか?
伝わったのだとしたら、どうやって伝えたのでしょうか?

危険を知らせる時みたいに、体を震わせたのか?
震わせ方によってサインが違うのか?

それとも両者の間だけに存在する何か種族を超えた別の共通言語でもあるのか?
もしくは同居しているうちに、いつしかツーカーの仲になっていった結果なんでしょうか?

・・・真相はわかりませんが、そんな話を聞くと水中生物に対する興味や思いがますます深くなってしまいます。

だから多分、私は潜ることがやめられないのでしょう。

次は 「愛しのニシキテグリ」


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