よろず屋の猫

扉は冒険の入り口


私は絵が描けないので、プレゼントとなるとお話を書くしか・・・。
それでも良いと言ってくれた彼に、私は業突く張り商人のような提案。
「じゃあ、イラストちょうだい。」
これのどこがプレゼントになるのでしょう・・・。
でも影さんのイラストのイメージで一生懸命に考えました。

おめでとう、影さん。
君の人生、まだまだこれから。[emoji:e-257]
楽しいことがいっぱいいっぱいありますように。





毎年、おじいちゃんの誕生日には親戚一同、おじいちゃんの館に会してパーティーをする。
これはもう一族の決まりごと。
新しい年を迎えた日に、新しいカレンダーに一番最初に書き込まれるスケジュール。

おじいちゃんは面白い人だ。
赤ワインに酔って上機嫌になると、必ず僕たち孫を集めて話をする。
「私がまだまだ若い頃に・・・。」で始まる魅力的な冒険譚。
そして決まって話の最後に、
「これはその時のみやげ物なんだが、お前たちにあげよう。」と風変わりな品物を一人一人にくれるんだ。
一昨年は海賊が頭にしばるというボーダー柄のバンダナ。
昨年は今まで見たこともない透明な花弁を持つ、大輪の押し花。
柄のところに見事な彫り物がしてある、本当に本当に小さな短剣・・・なんて年もあったなぁ。
そして今年は突拍子もない洋服。
「盗賊団の衣装なんだ。」とおじいちゃんは片目をつぶって見せる。

僕はずっと確信していることがある。
秘密の謎解きはあの部屋、館の二階の端にある、通称『あかずの間』にあると。
何にでも寛容なおじいちゃんが僕達に課すたった一つの禁止事項。
「あの部屋に入ってはいけないよ。」

僕は今夜、おじいちゃんがうたた寝をしている間に、おじいちゃんの部屋にこっそり入りこんで、探しに探して鍵を見つけた。
一緒に誘ったのは同い年のジュディーだけ。
その気満々だったのに、今になって
「ねぇ、やっぱりまずいわよ。何か私、すっごくイヤな予感がする。」なんて言い出す。
「戻ろう、ケヴィン、ねっ。」
そのばっちり決めたコスチュームは何のためなのさ。
「しっ、見つかっちゃうよ。大きな声を出さないで。」
僕は人差し指を口に当てる。
「大丈夫だって、ちょっと覗いてみるだけなんだから。」
「あぁ・・・ちょっとじゃすまなそう。」
なんてジュディーは両手を胸に当てて、目をグルリとさせる。
「ジュディーはイヤなら入らなくても良いよ。でも僕は行く。」
「ケヴィン一人でほっとくわけにはいかないでしょう。」
そしてジュディーは小さい頃からの僕の失敗を一つ一つ挙げていく。
「私がいなきゃ、あんたは昔からダメなんだから。」
はいはい、お世話になりましたとも。
「だからさ、一緒に行ってよ。ジュディが一緒なら僕も安心。」
お姉さんぶりっ子のジュディーはいつだって頼まれたら断れない、「あぁ。」と大きくため息をもらす。
今夜の一番の宝物はきっと君にあげるよ、と僕は心の中で誓う。
僕はジュディーの手を取り、反対の手で鍵を扉の鍵穴に差し込む。
カチャリと鍵が外れる音。
僕の手の中の、ジュディ-の手が緊張で少し湿っている。
僕は握る手にほんのちょっとの力をたす。
「さぁ行こう。」
扉はいつだって新しい冒険への入り口。


影さん2.png


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