よろず屋の猫

『エミリーの不在』 ピーター・ロビンソン

アラン・バンクスは英国北部の田舎町の主席警部。
そのバンクスを嫌い、窓際族に追いやっている州警察本部長であるリドルから、個人的な仕事を頼まれる。
「家出した娘がポルノサイトに出ていた。彼女・エミリーを見つけ出して欲しい」
バンクスはロンドンでエミリーを見つけ、無事に連れ帰るが、数ヵ月後にエミリーがらみの事件が起こる。。
バンクスは捜査本部の責任者となり、ロンドンでエミリーと付き合っていたクラフを調べるのだが・・・。


上巻の背表紙に“英国叙情派ミステリーの実力派が放つ、胸振るわせる物語”とあるので、これは私の好きなタイプ[emoji:v-354]と楽しみに読み始めたんですが・・・。

事件があって、被害者や被害者の関係者の悲しさ、また加害者が事件を起こさざる得なかった哀しさ、などが書かれているのが、個人的に好きなんですが、この作品の場合、もっぱら主人公のバンクスの気持ちを書いているんですね。
もちろん事件に係ることで主人公が感じる想いもまた、叙情派ミステリーと呼ばれる小説の魅力的な箇所なんですが、バンクスの場合は、「自分が何とかしていれば、殺されずにすんだかも、救えたかも。」の思いに拘っている。
それも描かれている現在の事件に対してだけならともかく、事件とは全く関係ない、過去の、例えば20年以上前の学生時代の友達の事にも拘っていて、それが度々出てくる。
全編通してその状態なので、なんと言うか、読んでいて主人公の湿っぽさと言うか、後ろ向き加減とかにイヤになってしまった。

事件に対してはと言うと、エミリーが付き合っていた男と言うのが、“ギャング”で、バンクスはこのクラフと会っていて、またエミリーがクラフにひどい事をされたのを知っていたので、視線がクラフにだけ行ってしまっている状態。
そのこだわりが次の悲劇を生む。
自己嫌悪に陥るとしたら、この点ではないのかと思うのだけど、それはないんだなぁ。

エミリーは頭も良く、美人で魅力的。
しかし保守的な家を嫌い、奔放な生活を望む。
麻薬にも手を出し、男関係も派手。
この16歳の少女をバンクスは魅力的に感じ、それが事件への執着となっているのだか、肝心のエミリーの魅力の描写も甘いと思う。
セクシーでハチャメチャだが根は悪ではない、振り回されちゃうけど嫌いになれないと言うのは、男性にはそれだけで魅力的なのかもね、でも女性の私からするともうちょっと描写してくれないと、って感じですね。

既に16作になるシリーズだそうですが、私が読むのはこれが始めて。
後ろ向きなバンクスではなくて、若い頃のもうちょっと活きの良いバンクスを読んでみたいかな。


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