よろず屋の猫

『夜のピクニック』 恩田陸

一日をかけて歩く北高鍛錬歩行祭。
三年生の西脇融と甲田貴子は実は同じ父親を持つ兄妹だった。
貴子は歩行祭で小さなかけをする。
普段全く口をきかない融と会話をすることが出来たなら、二人の関係について話をしようと。


この小説、好きです。
恩田陸さんはSF設定のものより、こう言った少年・少女のものの方が断然良いと個人的には思います。

融と貴子の一人称で交代に語られる、二人の関係や、また友人達との会話。
学生時代が遠いものになってしまった私には、ただただ懐かしさを感じます。
よそよそしい関係でありながら、しかし気になる存在であるお互い同士が、友人達には“付き合ってる、またはお互いに両思い”と思われていて、バタバタと騒動があるのも面白い。

どちらかと言うと、融がより主人公であると感じる。
それは自分の家庭環境に、貴子の方が母親の性格もあり自由であるから。
融の方が正妻の子供な訳だが、重たいものを背負っている。
それがラストで、それぞれの一人称と言う形から、夜を歩んできて朝を迎えて二人の会話と言う形を取り、人生の先を急ぎすぎていた融が開放されるシーンは、読んでてジーンとする。

融の友達の忍がとても良い。
飄々としているようでいて、語られる言葉は心に残る。
また貴子の友人の美和子もいかにも少女小説にいそうな“パーフェクトな少女”だが、私はこういうキャラが一人くらい居てくれると、物語が楽しく読めて好きです。

実は私、学生時代に夕方から翌昼間で歩き続ける“ナイトウォーク”と言う行事に参加したことがあるのです。
で、いかな若いと言えども眠らずに歩き続けてると、妙にハイテンションだったり、不機嫌だったりする人も居て、一触即発なんて場面もありました。
この小説、肉体的疲れに対する描写はあるんですけど、そう言う精神的な部分がなくて、欲を言えばそれが物足らない。
皆さん、疲れてはいるけれど精神的には普通な状態なのでね。
意外とゴールが見えてくると気持ち的にも持ち直すのでラストのシーンは良いのですが、すごく歩いたのにゴールはまだまだなーんて頃にその辺りの描写、必要以上に怒ったり、悲しくなったり、とかを入れて欲しかったなぁ、なんて思ったりする。

今現在学生の人にも、学生時代に別れを告げてしまった人にも読んで欲しい一作。


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