ゆうちゃんと付き合う前に付き合った人の数は2人。
重くとかではなくどちらもすぐに自分の両親に紹介した。
紹介というよりは私が黙っていられない性格だから。
誰々と何処何処行ったとか何々したとか言いたいから。
友達どころか両親にも何でも話をする私。
昔から好きな子が出来ても親に言っていた。
どんな過程を経て付き合ったかも全部親に言っていた。
聞いてもないのに何でも私は家族に全部言うタイプだった。
それは今でもそうだけれど。
コソコソしたりするのが嫌で何に対してもオープンにしてきた。
怒られると分かっている事までわざわざ言う性分。
私が大阪にまだ住んでいる時から2人共松山にまでも連れてきていた。
まだ健在だった祖父やスー兄に合わせる為に。
「し~ちゃん☆の彼氏今度連れてくるわ」と言う私に
「そうか~し~☆の彼氏か~そりゃ楽しみじゃなぁ~」と祖父もスー兄も言っていた。
何もそこで改まった挨拶をしろって言ってるわけじゃない。
今自分がどんな人とどんなお付き合いをしてるか言いたい。
私がただ単にオープン過ぎる性格だからかもしれないけれど。
コソコソする付き合いだけは嫌!!
だからもちろん相手の両親にも会っていたし公認だった。
私の中ではそれが当たり前だとずっと思っていた。
今回もゆうちゃんと付き合いだしてすぐに父に報告した。
ゆうちゃんも「大阪のお父さんに挨拶に行きたい」と言った。
父が大阪ではなく松山にいるのなら私はすぐにゆうちゃんを父に紹介しただろう。
結婚を前提に、とかそんな堅苦しい対面ではなく
“今し~ちゃん☆が付き合ってる人はこんな人で~す”みたいな感じで。
でも大阪だけに中々そう簡単に紹介出来るわけもなく・・・
っていうか私こそゆうちゃんの両親に挨拶しなくていいの?って思っていた。
学生の時みたいに「お邪魔しま~す。」みたいに家に遊びに行くわけにはいかない。
年も年、いい大人なんだから初対面では手土産持参できちんと挨拶しないと、と思っていた。
何度かはゆうちゃんに両親に挨拶させて?みたいな事を言ったけれど一向にその気配は無かった。
確かに私達の出だしの行動もいけなかったんだと思う。
付き合ってすぐにゆうちゃんは私の家に5連泊した。
5日目、「さすがに親父に言われたわ~」とゆうちゃんは言った。
その週は週末までお泊りは控えたものの、週の半分は私の家から出勤していた。
友達が私に言った。
「そらそんなんしてたらゆうちゃんの親かってあんたの事良くは思わんで。
ゆうちゃん実家暮らしやし、ましてあんたは親に会った事ないねんし
その辺はゆうちゃんも考えてくれなあんたが悪者なってまうわ。」と。
はい、その通りです。
ゆうちゃんは「息子に彼女出来たら母親って何かあるやん。今だけやと思うしその内紹介するよ」と言った。
私はゆうちゃんが親の様子を伺ってタイミングを見計らえばいいやと思っていた。
何だか初めての境遇に私は少し戸惑っていたが、ゆうちゃんに任せておこうと思った。
けれどその頃から私の不安は抱えきれないくらい大きなものになっていた。
7月の連休、中学時代の友達が遊びに来ていた時、その不安が一気に爆発した。
野球の試合、私の友達が来ている、ゆうちゃんは私の家に連泊した。
優勝したその日の夜、新居浜で打ち上げを終え、いったん自宅に戻ってから夜中私の家に来た。
子連れの友達は先に就寝し、私ともう一人の友達とゆうちゃんの3人で話しをしていた。
ゆうちゃんの携帯に一本の電話が入った。 「おかんや・・・」
一度目は何も聞こえず切れてしまった。 もう一度かかってきた。
ぼそぼそ話すゆうちゃんを見て、私はただならぬ電話だとすぐに分かっていた。
「ちょっと帰ってきてやって。」と言うゆうちゃん。
“帰って来なさい”と怒って言われたんだろうと私は思っていた。
“いい年した男が外泊して親に呼び戻されてる”と友達に思われてはゆうちゃんも恥ずかしいだろうと思い
「お母さんまた体調悪いんじゃないの?はよ帰ったり。」と私は一応気を遣って言った。
そして友達を自然な流れかのように二階に上がらせゆうちゃんと2人になった。
「お母さん何て?怒ってるんやろ?」と聞いた。
「お父さんが話しがあるけん帰ってきなさいって言いよるよやって。」
「一回帰ってまた来るわ。」と言うゆうちゃんに「今日はもう家におり。」と言った。
ゆうちゃんが帰ったあとメールをした。
【ゆうちゃんが大阪来る前に私がゆうちゃんの両親に挨拶しとかなアカンと思う】といった内容の。
友達と皆でご飯を食べている時、ゆうちゃんはこの月大阪に帰省する私と一緒に大阪へ行きたいといった感じだった。
友達も「おいで!おいで!来たらいいやんっ!」と言っていたが私は濁していた。
それには私なりの考え・理由があった。
私の実家が松山なら私の親に先に挨拶に来ればいい。
けれど私の実家は大阪。泊まりになる。
それならば先に私がゆうちゃんの両親に挨拶をしておかないと
「どこ行くの?誰の親に大阪まで挨拶に行くの?」って事になりかねない。
友達皆二階の私の部屋で寝る中、私は下の座敷でゆうちゃん用と2枚並べていた布団に一人で寝た。
不安とかもうそういうものではなく、何とも言えぬ気持ちになっていた。
翌朝、先に寝ていた友達が「ゆうちゃん帰ったんやって?」と聞いてきた。
軽く事情を説明した。
「あれちゃう?ちゃんとし~☆を紹介しろとかって感じなんちゃう?」と友達は言った。
「そうかなぁ~」と言いながら私は嫌な予感がしていた。
この日友達は大阪に帰る事になっていた。
お昼前から道後公園に出かけることにした。
ゆうちゃんにその旨メールしておいた。
しばらくして【ごめんね。今から親父と話してきます】と返信がきた。
私はもちろん友達皆で「え?親父??何の話??」とドキドキした。
一人の友達は「何なら今から皆で行ってし~☆紹介しよか!」とか言っていた。
私は道後公園で遊んでいる間もずっとゆうちゃんからの連絡が気になって仕方がなかった。
お昼ご飯を皆で食べていてもまだ連絡が無い。
結構な時間が経っていた。
チラチラ携帯を気にする私を見て友達も心配していた。
「遅いなぁ~まだなん?何の話やろ・・・」と。
家に戻っている最中に【今から行きます】とゆうちゃんからメールがきた。
私達が家に戻って少ししてゆうちゃんが来た。
私はあまりゆうちゃんの顔を見ることが出来なかった。
そして夕方、大阪の友達は帰って行った。
「ちゃんとゆうちゃんと話し~や!」「どんな話やったんかちゃんと聞きや!」
「どうなったかまた教えてな!」「頑張りや!」 と言って。
そして家には私とゆうちゃん二人になった。
お互いこの話を避けているかのような変な雰囲気だった。
ゆうちゃんが言ってくるまで私からは聞かないでおこうと思った。
例え今日話してこなくても、私からは聞かずにいようと思った。
連日の試合疲れと寝不足続きだったゆうちゃんは居間で寝ていた。
私も眠たかったけれど考えると寝れず掃除を始めた。
「寝てばっかりでごめんな。」と時折目を覚まして謝ってきた。
なんだかとてもぎこちない雰囲気でたまらなくなった。
しばらくして「親父の話何やったでしょう・・・」とゆうちゃんが切り出した。
「あ~それ私も聞きたかってん。」と、さも今聞きたくなったかのように私は答えた。
「どう考えてるんや?」
「結婚したいと思ってる」
「結婚とはどういうもんか分かってるんか?」
「・・・・」
「結婚は二人だけの問題じゃない。家族関係が大きく関わる。」
「・・・・」
「やくざや前科者がいてたらまず無理。それでもというなら家を出て行け。」
たぶんこんな感じの会話だったんだろう。
そして私の事は調べると・・・・
ゆうちゃんが話し始めてすぐに私は血の気が一気にひいた。
悲しくて泣くとかそんな安易なものではなく、涙を堪えるのに必死だった。
普通に聞いているフリをするので精一杯だった。
「ごめん。先に言われたから弟の事、言われへんかった・・・」と言うゆうちゃんに
「そらそうやわ。」と普通の会話をしているかのように返事をした。
その場にもういることさえ耐えれなくなって二階に上がった。
でもこのまま話を終了してはいけない。
そう思いながら一生懸命話を聞き、私も話をしようと思った。
お父さんの仕事は?弟の仕事は?何で親じゃなく私が祖母を介護してるの?
ゆうちゃんの両親にすれば知りたい事だらけだったんだろう。
泣きそうになるのを我慢しながら「ゆうちゃんはどうしたいの?」と聞いた。
「俺は別れたくないし、し~☆と結婚したい。」と言うゆうちゃんに
「分かった。じゃあいい。」と私は返事をした。
実際何がいいのかは自分でも分からなかったけれど、こんな返答しか出来なかった。
そして何より私が一番傷ついた言葉。
私にはもう母親はいない。
私が子供を生んでも実家に頼れる母親はいない。
ゆうちゃんの母親も癌を患ったことがある。今でも体調は万全ではない。
だから「お母さんいてる子の方がいいんじゃないの?」
これをゆうちゃんの口から聞いた瞬間「お母さんおったらよかった・・・」と我慢していた涙が出てきた。
私だって好き好んでお母さん亡くしたんじゃないのに・・・
お母さんおったらいいって一番私が思ってるのに・・・
とてもショックだった。とても傷ついた。
「ごめんっ。大丈夫やから。」と言いながらゆうちゃんは抱きしめてくれた。
そしてまた眠りについた。
私は悲しいのか辛いのか訳の分からない気持ちで一階に下り父に電話をした。
「ダイ・・・まだやくざしてんの?」と言う私に 「誰かに何か言われたんか?」と父は言った。
泣きながらボソボソ経緯を話す私に父は
「し~ちゃん☆は悪い事してないんやから。ちゃんとした子なんやから自信持ち。」と言った。
そして「それでアカン言うような男は止めとき!」と言う父に私は逆上した。
「何でいっつもダイのせいで私がこんなに悩まなあかんのよ!!!」と叫んだ。
「やっと彼氏が出来てし~ちゃん☆はゆうちゃんの事大好きで結婚したいのに!!ダイのせいで!!」
父に言っても仕方が無いのに当たる場所が無い私は電話で父に思いをぶつけた。
そして後で後悔した。
二階に上がってもゆうちゃんはまだ寝ていた。
ボーッと私は寝ているゆうちゃんの横で三角座りをしていた。
私の携帯に父から電話がかかってきた。
「彼氏まだいてるんか?」って。
「いてるよ。」と言うと「ちょっと代わって」と言った。
「何で?」と言う私に「ごめんやけどちょっと代わって。」とだけしか言わない。
寝ているゆうちゃんをポンポンと叩き「パパが代わってやって。」と携帯を差し出した。
「え??」とビックリしてゆうちゃんは飛び起きた。
父が何を言ったのかは知らないが「はい、はい。」と返事をする中
「僕の気持ちは変わりません。」と言うゆうちゃんの言葉がだけが私の耳に残った。
「お父さんに電話したんか?泣きながらしたんやろ?心配してたよ。」とゆうちゃんは言った。
「心配せんでも俺はし~☆んとこにおるから。」と言うゆうちゃんを信じるしかなかった。
少しして「今週おばあちゃんデイサービスいつ?」とミー姉からも電話があった。
ん?ミー姉にアケさんのデイサービスなんて関係ないのに変だなぁと思っていた。
翌日知った、この電話の理由を。
私が泣いて父に電話をかけ切ったあと、父がミー姉に電話していたようだ。
心配したミー姉が私の様子伺いで意味の無い理由をつけて電話をかけてきていたのだ。
私の話し口調でゆうちゃんがいるなと感じたミー姉はこの話に触れず電話を切ったらしい。
ちょうどその頃、夕方松山を出発した友達から大阪に到着したとメールがきた。
そしてそのーメールには皆「話どうやったん?」とあった。
私は返信する気持ちの余裕が無かった。
そんな私を見てゆうちゃんが「皆心配してるんやから返信しとき。」と言った。
おおまかな内容だけメールした。詳しくはまた大阪で、といった感じで。
その夜、玄関まで見送った時「俺はずっとし~☆とおるから!そんな顔せんでも大丈夫やから!」
と優しく力強くゆうちゃんは言ってくれた。
ゆうちゃんが帰った後、私は眠ろうにも眠れず夜中大将を呼び出した。
次の日は仕事だというのに朝4時過ぎまで街で飲んでいた。
呼び出したものの私はほとんど黙って飲んでいるだけだった。
大将の店の常連さんでもあるお寿司屋さんにいたのだが
いつもの元気が無い私を見て寿司屋のマスターが「元気出していこう!」と声をかけてきた。
次の日、出向先で仕事をしていた私は少しでも気を緩めると涙が出てきそうな状態だった。
昨日の事を考えると、これからの事を考えると目には涙が浮かんでくる。
ストレスが出来るとスグお腹にくる私。
さぼりか?と思われるぐらい仕事中トイレに通った。
この日から一ヶ月以上、私のお腹の調子が良くなる事は無かった。
昼休み、皆と会話をするのも嫌でご飯も喉を通らなくて、近所のスーパーの駐車場へ行った。
そこから友達に電話をした。
私の事を全て知っている友達と何でもいいから話をしていたかった。
ゆうちゃんも私を気遣ってなのか「今日もし~ちゃん☆に逢いに行くからね。」とメールをくれた。
タイミング悪く「今日バイトに来てくれ。」と大将から電話が入った。
今バイトなんか行きたくないと言ったが2時間程でいいからと言われしぶしぶ了承した。
仕事が終わってバイトへ行くまでの時間、一人で部屋にいるとまた泣きたくなった。
ミー姉に電話した。
泣きながら昨日あった出来事をミー姉に話し終えた後
「うん、ごめんね。その話実は知ってたんよ。昨日お義兄さんから電話があってね。」と言われた。
あ~だから昨日意味の分からない電話をしてきたのか・・・
その週末、高校時代の友達が来るまでの期間、私は毎日考えては泣いていた。
周りの友達は「ゆうちゃんは大丈夫やって!!」と口を揃えて言っていた。
そう思いたいけど・・・そう思ってるけど・・・でも・・・
頭がハゲそうだった。