雪月花

言わないで







懐かしいなんて言わないで
あなたにそんな言葉は似合わない

あなたに懐かしむという器官があったなんて
そんなこと知らなかったよ私は

あなたは今しか見ていない
そこが私と違うと思ってた

だから私はあなたを忘れられると思った
だから私はあなたが傷付かないと信じた
だから私は去ることにしたのに

懐かしいなんて言わないで
一番似合わないと思い込んでいたのに
一番私の心を抉るなんて恐ろしい

私が求めていたのは正にそれだったのに
今更ここで共鳴に耳を傾けたら
私は前には進めない

だからお願い言わないで
懐かしいなんて言わないで

懐かしがるのは私の仕事
いつもいつでもそうだったじゃない

何でも懐かしむ私の姿を
不思議そうに見ていたのはあなたでしょう

今を大切にしようと言ったのがあなたで
今に過去や未来を重ねてしまったのがあたしでしょう

何故か罪の意識に苛まれるんだよ
何故か後悔の渦に引き込まれるんだよ

私が懐かしがるだけで済んだはずなのに
あなたまでそんなことをし始めたら
私の決断の意味は何処へ?

懐かしいなんて言わないで

その言葉が使われるべき時間は
もっと昔しかあり得なかった


懐かしいなんて言わないで


静かに沈澱を終えた思い出を掻き回さないで










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