雪月花

寝顔













 不公平だ、不条理だ、そんな風に思ってため息をつく。筋が通らない話が大きい顔をして横行して、あたしは今、いっぱしの被害者気分になっている。頑張っても、仁義を尽くしても、潔くいても、だからといって勝てはしないのが現実というものだ。ただの浅はかな幼さが波を立て、旨く立ち回れる人間が、油揚げをかっさらっていく。もがき足掻くまでの気力も既に無く、かといって観念しきったわけでもない。やれやれ、と他人事のように見つめている。されど、傷付いている。
 何もかもに期待をしてしまう。それは、もう拭えないほど深く刷り込まれた癖のようなものだ。楽天家でいられればそれに越したことはない。だけれど、あたしの場合はそうじゃない。あらゆる人や物事に期待をかけてしまわずにはいられない傍らで、そんな自分にうんざりしたあたしが、無防備なあたしを見つめている。
 自分の愛情深さや人の良さが、あたし自身を傷つけている。それは、とうに分かっている。それでも、変われない。最後に笑うのは自分だと、どこかで考えているわけでは無い。あたしは、欲張りで、臆病で、そして、無防備で、いつもいつでも泣きそうだ。泣きそうな気分で毎日を、過ごしている。
 ある種の事柄には、髪の毛一本が風に揺れただけで振り返る程に過敏だ。そして、ある別の種類の事柄には、犬に噛まれても気付かないほどに鈍感だ。思う。あたしは、人を信じ過ぎる。見えるものが、真実の全てだと、学ぶことも無いままいつもそっくり信じて飲み込んでしまう。そしてしばらく後で思い知るのだ。ああ、また、嘘だった。あたしが見ていたものは何だった。飲み込んだ、無害な薬であるはずのものが、胃をきりきりと痛ませる。また間違えた。真実は、別のところにあったのね。
 楽になる方法は、知っている。

 いや、この言葉は正しくない。

 楽に生きている人たちと自分との違いは薄々見えてきている。そして、分かるのは、自分がそうなれないということ。そうなりたくはないと、どこかで思って安堵していること。どれほど厄介で、苦しくても。大きな穴を抱えて生きているようなものだけれど。
 たぶん、あたしは真剣すぎるのだ。きっと、時間というものに対して。毎日を、一秒ずつ生きている、そんな気さえしている。
 決して、いい気にさせてほしいわけではない。
 ただ欲しいのは。
 わかったから、もういいから、そう言って全てを一気に解決してくれる、温かなものだ。あたしの体から、考えるという厄介なもつれを、すっかり取り出してくれる何かだ。毛糸の玉の、内側のもつれ。それをごっそり抜き取ってしまえば、後は最後までするするとほどけるのに。
 泣き疲れた子供のように、ぐっすりと眠りたい。だって、ほら。泣き疲れた子供の寝顔と、遊び疲れた子供の寝顔、そこに何かの違いはある?眠ってしまえば皆同じ。そこにしか、平等なものは無いのだとさえ思うくらいに。


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: