灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

その5


そろそろと近付くと、のそのそと小屋から出て来ました。
「みつ。」
名を呼ぶとなでてと言わんばかりに横向きに身体をすりよせて来ます。
まだおっかなびっくりの手付きですが、由記ちゃんは頭から首筋、背中へと一通りなでて、正面に向き直りました。
ここからが本番です。
「みつ、お手」
「・・・。」
「みつ、お座り。」
「・・・。」
何を言ってもみつは無反応です。
犬ってもっと賢いんじゃないの?
お手はおろか、お座りもおあずけもなんにもしない。
これがペットショップで育った犬なの?
由記ちゃんは思いました。
しばらくお手やお座りを繰り返した結果、みつは飽きたのか首輪につながれた鎖をじゃらじゃらいわせて犬小屋へ戻って行きます。
「みつぅ。」
再チャレンジとばかりに由記ちゃんは玄関に放ったランドセルからテニスボールを出しました。
仲良しの大介くんがくれた物です。
大介くんの犬は投げたボールを取って来るのです。
ころころと転がすと、みつは前足で上手にボールを受け、口にくわえたまま、そうして2度と返してはくれませんでした。
「・・・。」
おしりを向けて犬小屋にすっぽりと収まったみつにあ然としながら、
「…大介くんのうそつき。」
由記ちゃんはぼそりと言いました。

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