路傍に咲く華

路傍に咲く華

一粒の涙。〈3〉



 一粒の涙。-3

甘い誘惑
甘い言葉

「話してみて?相談乗るよ?」

あたしの目の前に、ほんの僅かなヒカリが差した様な・・・気がして。
あたしはそのヒカリを信じて、進むことに決めた。

だけどそのヒカリさえ、あたしを裏切る事になるなんて――・・

      知る由も無かった。

「・・・・・ッ」

その途端、イキナリ涙が溢れ出した。
溜まっていたものを全部出すかのように、
あたしは虐められていた事をすべて話した。

「・・そっかぁ・・辛かったね」

母はただ黙ってあたしの話を聞いてくれた。

―話したことで、楽にはなれたけど、心に何か引っ掛かるものがあった。

一つ残された不安

 ”あいつ等にバレてしまうんじゃないか”って・・――――

あたしは、話してしまったコトを、凄く後悔した。
その予感は、後に的中する事になる――――・・・・


それは、母の一言からだった。

「理恵。明日は学校に行きなさい?」
「・・・え?」

その後、母はあたしの傍に駆け寄って、頭を軽く撫でるような仕草をした。

「ちゃんと担任の先生に話しておいたから。
 虐めていた子達は、ちゃんと先生が注意するって仰って下さったのよ」

・・・・本当に?
そんな事で、解決する事なの?

前を見れば母は、「良かったわ」なんて呟いて笑っている。

不安もあったけれど、その言葉を信じ、学校へ行くことにした。

―ねぇ あたしの選択は・・間違っていましたか―――・・・?


ドアの前に立てば、心臓の鼓動が早くなる。

―突然、湧き上がる恐怖。

目を閉じれば、浮かんでくるのはあいつ等の顔。
暴言は度々エコーする。

・・・あたしってそんなに周りに害な存在なの?

・・そんなんじゃないんだ。
自分にとってどうでもいい存在なんだけど、
ただ自分の弱さを隠す為に。
なんとなくその相手を、傷付けて 傷付けて 傷付けて――― 

          壊したい
可笑しいよね?
あんたはそこまで偉い人だった?
・・フツウの人間(ヒト)って立場には・・変わりないコトでしょう?

あんたにあたしを虐める権利ってモノがあるの?
誰かが誰かを傷付ける権利ってモノがあるの?
「なんとなく」で済む様な罪じゃないんだよ?

・・・あぁ、あたしも「ごめん」の一言で・・済む訳じゃないんだね・・

空を見上げた。

あたしの気持ちとは裏腹に、空は眩しいほどの青空。
羨ましい 悩みなんて無さそうに見えて――

キミは・・自由だね。

だけどあたしは・・・・永遠に逃げることなんて出来ない。
今此処に襲い掛かる『虐め』と言う名の恐怖の目の前に・・・・

   居るんです――――・・

―夢を見た。

とても懐かしいようで、とても・・恐ろしくて。

悲しくて
悔しくて
苦しくて

それでも

楽しくて
笑顔になれた。

・・変だね。

もう忘れたいのに。
忘れられないんだ・・――――

『ねぇ理恵―!!ほらっ早く行こうよ―♪』

ぐいぐいとあたしの手を引っ張る。

『・・も―・・分かったから引っ張るなって~』

キミと居るだけで

あたしの顔は自然と、笑ってた。

キミは、可愛くて素直で真っ直ぐで。
いつもあたしの憧れでした。

『あたしね、ずっとあんたの事憧れてたんだ―』
『・・・何それ!あたしも理恵が憧れだよ!

 明るいし、何より正直だもん♪』

――そんなのじゃないよ。

あたしはね?
全部 嘘で固めて 弱さを隠してる酷い人間。

『なんかね?悪さしてる時とか!
 自分が悪いことしてるって顔してるし!』

・・・・・あぁ。

あたしって顔に出やすいタイプなんだ。
確かに、玲を虐めてた時も・・・・

『やめて・・・・・』

―ほら また思い出す

『五月蝿い』

もう やめてよ

『・・いやだよ・・・ッ』

何度も何度も繰り返される

『先生にチクッたら・許さないからね?』

―どうして?

なんであたしにそんな事言う権利があるの?
あたしは・・平穏に暮らしたいよ

でも、口が勝手に動く
思ってもいない罪を、この手で犯して―――

『もう 消えて?』


―人は、地球上のどんな生き物よりも・・残酷。

簡単に、人を傷つける。
人を憎しむ。

どうして人間は、そんな過ちを繰り返していくのでしょう?

ねぇ・・もう終わりにしようよ。

沙希――――

もう あたしを苦しめないで


何時も何時も思い出すのは

キミの笑顔
キミの言葉

・・・キミの裏切り?

全部偽ってた?
全部嘘だったの?

キミの笑顔
キミの言葉

全部・・嘘だったの―・・・?

偽りの笑顔
偽りの言葉

「・・ははっ・・」

声に出して笑ってみる。
でも、自然と涙が頬を伝った。

「・・・ッどうして・・」

笑えない
もう人と笑い合うことは出来ない

心から笑うことなんて・・出来ないの。

そっか。
キミが居たから笑えたの
キミが居るから世界は充実してたの。

だけど・・・・・

『本当っ転校してくれて良かったし!!』

―ずっと、そう思ってたんだ。

親友と思ってたのは、あたしだけだったんだ。

「・・沙希・・・・・」

思い出したくない
だけど頭に浮かぶのはキミの事だけ

あたしの生活からは、笑顔なんて消え去っていった。

『ねぇ 沙希!!ずっと親友だよっ』
『当たり前じゃん♪理恵の事忘れないからね!』

当たり前って 言ったでしょ?

もう人なんて・・・信じられないよ。
その中でも―

「自分が一番信じらんない―――」

やる事が?
居る事が?

ワカラナイ

ただ、信じることさえ出来ないの―――


ねぇ、どれだけ苦しかった?
ねぇ、どれだけ傷付いた?

君の痛み
   今なら分かる気がするよ―――

―ザバッ・・・・

ドアを開けたと同時に、頭上から水が降り注いできた。

「あらおはよっ桐生さん」

ニコニコと妙に不気味な笑みを浮かべる、草野。
と、その周りにバケツを持った女子2名。

「どうしたのぉ??1週間・・2週間ぶりかな??」

女子は草野に続けるかのように、その場で呟く。

―そして草野は、腕を組みながら、あたしの方へ向かって来る。

「ところで桐生さん?貴方何かしなかったっけ?」

『何か』。きっとそれは、母親のチクったとでも言いたいのだろう。

「黙ってんじゃねぇよ!!」

怒鳴り声と共に、草野の右拳があたしの頬に直撃した。
・・・・痛い。
頬に痛みが走る。

「・・アンタさ、アタシらが虐めてるの、先生にチクッたんでしょ?」

・・ほら。予感的中?

もの凄い形相で、草野はあたしを睨む。
後ろの女子も、草野に続ける。

「てか、なんでまた学校来てる訳?」
「・・あんたさぁ、
       いい加減消えてくれない?」

――キエテクレナイ――

そんな言葉が、頭の中を廻る。

「・・・・・・ッ」

あたしは、その場の空気に耐えられなくなって―、逃げた。

―・・どうして?
なんであんたにそんな事言われなきゃ・・いけないのよ。

どうしてあたしがこんな目に遭わなきゃいけないの?

「・・・どうしてッ・・・」

人って残酷。

残酷なコトバをすぐ口に出して
残酷なコトバをすぐ人に向けて

どうして人は・・同じ過ちを繰り返すんですか―・・・?


―『いい加減消えてくれない?』―

あいつ等に言われた言葉が、頭の中を廻る。

どうして?
あんた達なんかに言われる筋合い無いよ
どうして?
あんた達にそんな事を言える権利があるの?


―気付いたら  屋上に居た

空を見上げれば、雲一つ無い青空。
あたしの心の中は、雨でずぶ濡れになった気分。

「はぁ・・・」

だけどここが一番落ち着く。
さっきまでの事が、全部、夢のように・・思えて。

・・・・でも、目を閉じれば 思い出すのはあの光景。

もう嫌だ

全部全部 忘れたいよ

―『あんたなんて 消えちゃえばいいのに』―

前に、沙希が玲に向かって放った言葉。
まるで、全部あたしに向けられてるような気がして。

誰も居ない真っ暗な世界へ、一人放り込まれた・・感じで―・・

「・・・もう、消えちゃいたいよ・・」

そうだ もういっその事、消えちゃえば良い
あいつ等だって それを望んでるんだ

あたしは、フェンスの手摺りに手を掛けた。
・・ここから飛び降りれば、きっと楽になれるでしょ?

あたしを虐めた事。後悔させてやる。

許さない

地獄にでも行こうがどうだろうが。
あいつ等を・・呪ってやる。

・・だけど、こんな時 思い出すのは

玲の顔
玲の言葉
玲の事すべて。

どうしてもっとあたしは、彼女に優しくしてあげられなかったんだろう。
悔しくて、仕方ない

自分の無力さ
彼女の儚さ

それに・・悲しくなった。

あたしはゆっくりと、フェンスから手を離した。

「・・桐生さん!!」

・・その瞬間かな?

待ち望んでいた君の声が聞こえたような、気がした。

「・・・・・ッ理恵―――!!」

君があたしの名前を呼び終わるまでに、
あたしの頭に、強い衝撃を感じた・・―――

―痛い

意識は微か。
だけどちゃんと残っている。

苦しい痛い。助けて欲しい。

あたしの目の前には、大量の赤い液体。

・・・・あぁ、まだ生きてるのか――

苦しいよ

「・・・ッ・・死なせ・・てよ・・」

痛いよ

「あ・・たしを・・殺し・・て・・」

早く早く早く・・・!!

強く目を閉じた。
もうどうにでもなれば良い。

だけど一つ心残りなのは

―『・・ッ理恵―――!!』―

やっと名前を呼んでくれたね
やっと話してくれたね

その途端、急に意識が遠くなっていった。

・・・・ごめんね・・・・『芽衣』・・・・



・・・・・・ゆっくりと目を開けば、
真っ白な天井 真っ白なベット 真っ白な空間・・・。

「・・・・こ・・こは・・・?」

どこ――― ・・・・?

「・・・痛ぁっ・・!」

起き上がろうとすると、全身にものすごい痛みが走る。
少し寝返りをうつだけでも、辛い。

「・・あっまだ動かないで!!」

動こうとするあたしを止めたのは、部屋に入ろうとした看護士だった。

「・・良かったわ!助かって・・・
 まだ数箇所に酷い怪我が見られるから、そんなに動かないでね?」

看護士はあたしに駆け寄り、心配と安心を2で割った様な表情を見せ、
「じゃあご両親に連絡して来ます」と言って部屋を出て行った。

・・『両親』、かぁ・・・・

ただ笑っていてあたしを見てる、母と・・父の顔が目に浮かぶ。
父と母は離婚して、離れちゃったよね。

「・・っ・・理恵!!」

息切れをしながら、慌ただしく部屋に入ってきたのは、・・母だった。

「・・もうっ・・どうして・・・・・」

母はあたしに近づいたと思えば、そっとあたしの体を抱き締めた。

「・・・・ごめんね・・」

今更、だけど―・・

飛び降りて、命を絶とうとしたあたし。
母への申し訳無い気持ちが、くつくつと込み上げてくる。
それと同時に、一つの罪悪感が生まれた。

「・・ほんとに・・ごめん・・」

言葉と共に、一粒の涙が零れ落ちる。

だけどね 怖いんだ

また虐められることの恐怖

ソレを考えるだけで、身震いがした。


・・もう、すべてが怖い。

あたしの中の何かが、壊れていくような気がして――――


自然と思い出す、あいつ等の顔。

本当に・・この虐めが終わるなら、
命なんて捨ててもいいって思ってた。

・・だけど、逃げることなんて出来ない。

あたしは・・・・永遠に逃げられない
虐めを言う恐怖の波に、飲み込まれそうで・・・・

 自分で何か動かない限り

 自分で何かしない限り

平穏な日常なんて・・・来ない―――・・・・・・

4へ続く

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