yutukiの世界

yutukiの世界

題名『箱の空』 第1章




 全てのものが、なにかに囲まれた世界だったとしたら。
 自由という束縛のなかで、僕らは生きているのかもしれない。
 そう、なにもかもが大きな箱の中で綴られている物語なのかもしれない。
 まるで、海のそこにいるような重圧がのしかかってきた。
 なにもかもが地獄に見えてきたのは、多分これが最初で最後なのかもしれない。
 全てをなくしてしまったのだ。
 全てのものを賭けて守り抜こうとしたものが、手の内からなくなってしまった。
 終わりがきた。
 そう、世界という箱が壊れていく瞬間だった。
 出会わなければよかったともおもった。
 でも、出会わなければこんなにも自分が人を好きになるとはおもはなかっただろう。
 あの人は、全てを僕に教えてくれた。
 そう、こんなにも深い悲しみまでも教えてくれた。
 なにも見えない。
 なにも聞こえない。
 だって、この世に君が存在しないから。
 見る必要も。
 聞く必要もないのだから。
 価値がなくなってしまったのだ。
 でも、そんなことをいったら君は怒るだうろね。
生きて。
それが、君の最後の言葉だった。
またいつか、巡り合うためにと・・・。





1.出会い

 きっかけというものは、本当に簡単なものなのかもしれない。
 人はよく、そのことを運命とよぶ言葉で表現することがある。
 俺には、そんなロマンチストな部分はない。
 だけど、あえていうならば・・ないとはいえないのかもしれない。


その日は、なんのきなしに母校へとやってきていた。
 夕方。
 ほとんどの生徒が下校してしまい静まり返ってしまった校舎。
 昼間、生徒達で溢れかえっている校舎は怖いくらいに静かな空間へと姿を変えていた。
「川添先輩。なにやってるんですか?」
 知った声が背後からふってきた。
「あぁ、田辺か」
 声のした方を見てみると、後輩の田辺浩嗣こちらに手をふっていた。
「先輩。なにしてるんですか、珍しい」
 駆け寄ってくる後輩は、肩にかけてあるカメラ落とさないようにと手でしっかりとおさえている。
 いつだったか、自分もこうやってカメラを大事に抱えていた。
 今では、生活のため・・生きていくためだけにカメラをもっている。
「全く、あいかわらずきまぐれなんですね」
 全く困ったもんだ。という顔をしながら見上げてくるこの後輩はいつまでたっても変わらないままだ。
「お前ねぇ、三年になったんだろう。カメラばっかやってないで、受験勉強したらどうなんだ」
 後輩の頭を撫でてやると、川添は歩き出した。
「先輩、どこにいくんですか?」
 いってしまいそうになる、川添を追いかけるようにしてヒョコヒョコした足取りでついてくる。
「ちょっとな、早く寮に帰らないと夕飯くいっぱぐれるぞ」
 振り返りもせずに答えると、歩く速度を速めていった。
 そうすると、足音は消えていった。
 たしかに、田辺は子どもっぽいのだが、この川添霞という人がどんな人間かわかっているからこそ、深追いせずにいるのだ。
 敵には、絶対したくない相手だからである。
 変に機嫌を損ねるのは得策ではないからだ。


 ゆっくりと歩きながら、いつも自分が一人になりたいと思うときに行く場所へときていた。
 そこは図書館の窓下。
 図書館だけあってか、ここはどんなに煩い休み時間であっても静かな場所なのだ。
 卒業してからも、ここは川添の憩いの場所となっているのだ。
 川添はいつものように、定位置に腰をおろした。
 何も聞こえない。
 静かな場所。校舎とも離れているだけあって、不思議なくらいに静かだ。
 外の騒音すら聞こえてこない。
ドン。バサバサ。
 聞こえないはずの大きな音が図書館から聞こえてきた。
 あまりにも大きな音に、川添はらしくもなく驚いた。
 立ち上がって図書館の中を覗き込んでみると、もうもうと煙が立ち上がっていた。
火事かと驚いた川添は、よく出入りしていた窓から侵入した。
 図書館は建てられてから結構な年数がたっている。
 だからなのか、壊れているとこが多い。
 それは、川添が侵入した窓も例外ではない。
 幾度となく、直そうと試みてはいるらしいのだが、その計画が実行されたことはない。
 川添が卒業してから早二年になろうとしているのに、まだ直っていないらしくすんなりと侵入できてしまったのだ。
(まったく、泥棒に入られても文句はいえないよな)
 といいつつ、図書館に降り立つと川添は、それが火事の煙ではなくて、埃が舞い上がったものとわかった。
 いくら利用者が年に数人だからといっても、これはあまりにもひどすぎるのではと思うくらいの埃の舞いようである。
 この学校は図書館はあってないものだった。
 司書もいなければ、掃除する生徒もいない。
 おかげで、図書館は開かずの間になってしまっている。
 そのおかげなのか、蜘蛛の巣と埃が大繁殖(?)してしまっているのだ。
 あまりに凄まじい埃に、川添は一歩も進む事が出来ずに、埃がおさまるまでまつことにした。
 本棚が崩れてしまったということもありえるのだが、一応というやつである。
 5分程してやっとのことでおさまった埃の原因をつくったらしい本が足元に転がっている。
 別に、本を踏んでいって進んでもよかったのだが、理性かどこかがそれを踏むのをおもいとどまらせた。
「ゲホ・・ゴホゴホ」
 自分ではないもう一人、人がいるのか咳き込む声が聞こえた。
 苦しそうに咳き込んでいるらしく、ゴホゴホと大きく咳き込んでいるのが聞こえてきた。
「大丈夫か?」
 咳き込んでいる本人のところまでやってくると、川添は座り込んでいるやからを見下ろした。
 一応きづかってやりながら、声をかけたのだが、咳き込んでいるせいでなかなか答えが返ってこない。
「派手にやったもんじゃないか」
 答えが返ってこないことに、川添はいらつくふうでもなく、図書館を見渡した。
 そこは、すさまじい状況になっていたのだ。
 本が周りに散乱しているだけでなく、床が抜けてしまっていたのだ。
 推測ではあるが、本を取ろうとしたか・置こうとしたのか脚立が側に片足を床にめりこませている。
「おい、お前」
「はい、なんでしょうか?」
 まだゲホゲホと咳き込みながらも、最初の頃よりはおさまったのか、川添の横に並ぶように立った。
 横に立っていたのは、ちょこんとした少年だった。
 どうみても、天然という感じで(天然→天然ボケの略)目を瞬かせながら川添を見上げている。
「どうして、こんなことになったんだ」
「それが、本を片付けようと思ったんですけど、どうも床が古かったみたいで・・こうなっちゃいました」
 今にも泣き出しそうな瞳は、じっと川添を見上げている。
「まぁ、古いからなここも」
「はい、赴任してきたときは驚きました」
(赴任?????)
 生徒なのに変な事をいうやつである。
 川添の頭の中では、横に立っているのは生徒だと認識されているこの少年(?)。
「あんた、生徒じゃないのか?」
 まさかという思いが強いのか、そうであってほしいというものが滲み出ている。
 だが、そんな思いとは裏腹にその少年(川添が見た感じでは)は、
「生徒じゃありません。よく、生徒と間違われますけど、ちゃんとした先生です。それに、あなたは誰ですか?生徒ではないでしょ」
「えっ、俺はここの卒業生なんだ。仕事が暇になったから、学校でもみにいこうかともってきたんだ・・・」
 別に、考えてここまでやってきたわけではないのだが、今はそう答えておいたほうが無難であると判断したからだ。
「そうなんですか」
 納得したのか、その人はにっこりと笑いかけてきた。
 その笑顔があまりにも無防備すぎて、川添は一瞬言葉をなくしてしまった。
 大人になるということは全てを捨て去るのもだと、はや小学生から思っていた川添はこんなにも、子どもがそのまま体だけ大人になった感じの人に遭遇したことに驚いていた。
「図書館になにか御用でもあったんでしょうか?」
 先生らしくないそん人は、不思議そうに川添を見上げている。
 まるで、子どもに問い掛けられているように、優しく聞いて来る川添に好印象をもったのか、警戒心もなく答えた。
「ここには、今年からきたってさっきもいいましたけど・・。他の先生から図書室の話を聞いて、図書館を綺麗にすれば生徒も利用してくれるんじゃないかと、掃除と本の修復をしようかと」
 最後の声は消えそうなものだった。
 多分、図書館がここまで酷いものだとはおもっていなかったのだろう。
 それに、こんな状況にしてしまっては。
「まぁ、これにこりたらさ・・ここにはもうこないほうがいいよ」
 とにかく、いつまでもこんな埃っぽいところにはいられない。
 帰ろうと足を進めたそのときに、横に立っていた先生が座り込んだ。
 なにをするのかと、しばらくみていると、なんと本を片付け始めたのだ。
「もしかして、これを片付けるつもりなんですか?」
 ついつい、敬語になりながら川添は聞いた。
 意外な行動だった。
先生らしくないその人は、不思議そうに川添を見上げている。
 まるで、子どもに問い掛けられているように、優しく聞いて来る川添に好印象をもったのか、警戒心もなく答えた。
「ここには、今年からきたってさっきもいいましたけど・・。他の先生から図書室の話を聞いて、図書館を綺麗にすれば生徒も利用してくれるんじゃないかと、掃除と本の修復をしようかと」
 最後の声は消えそうなものだった。
 多分、図書館がここまで酷いものだとはおもっていなかったのだろう。
 それに、こんな状況にしてしまっては。
「まぁ、これにこりたらさ・・ここにはもうこないほうがいいよ」
 とにかく、いつまでもこんな埃っぽいところにはいられない。
 帰ろうと足を進めたそのときに、横に立っていた先生が座り込んだ。
 なにをするのかと、しばらくみていると、なんと本を片付け始めたのだ。
「もしかして、これを片付けるつもりなんですか?」
 ついつい、敬語になりながら川添は聞いた。
 意外な行動だった。
 いくら使われていない図書館とはいえ、学校の公共物である。
 床が抜けてしまったのだ。
 川添ならば、放って置くだろう。
 誰でも、こんな状況になってしまったものを一人で片付けようとはおもわない。
「どうして、そこまでするんですか?」
 いつもならば、他人がそんなことを始めたとしても足を止めることなくいつもの川添ならば行ってしまったに違いなかった。
 だが、何故か川添は足を止めてしまったのだ。
「・・・・。本が好きだから・・それだけじゃ、だめなの?」
 本を何冊か手に持って、その人は川添を見上げた。
 人がなにかをするときは、なにか利益があるときだけ。ボランティアとかいうが、あれは偽善。人のためといいながらも、それはほとんどが自分のためにおこなっている。
 本当に、無報酬で仕事をするにんげんなてものはいない。
 そのはずはないのに、この人はどうだろうか?
 知らない。
 こんな人は見たことがない。
 自分の周りにはいつも、人のことを考えているふりとぉしている偽善者ばかりがいたはずだ。
「手伝いましょうか?」
 自分でも、どうしてそんなことをいってしまったのかわからない。
 どうして、その人をおいていかなかったのか?
 どうして、こんなにも知りたいとおもったのか?
 わからないことがありすぎて・・・その時は、何も考えられなかった。
 考えられなかった。


 いつのまにか、陽が傾いていた。
 ここには、電気が通っていないせか暗い。
 こんなのだから、生徒もなにもよりつかないのだ。
「もうやめませんか?」
「そうですね。もう外も暗くなってきたみたいですし」
 そういいながら、生瀬銀河(名前を途中で聞いた)先生は、本の埃を払っている。
「お腹すきませんか?」
「そうだ。手伝ってくれたお礼に、夕ご飯ごちそうしますよ」
「・・・・いいんですか?」
 意外な申し出に、今日何度目かの驚きをしてしまった。
「・・・はい。お願いします」
 自分でも、どうしてこんなにも嬉しい気持ちになったのかわからなかった。
「僕の・・手作りなんですけど。それでも、いいならですけど・・」
「・・えっ」
 なんとなく、不安がよぎったのだがそこはなんとか、もちこたえて笑った。




《第1章 終》

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
2005.4.28


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: