君と夏の終わり
将来の夢 大きな希望
忘れない
10年後の8月
また出会えるの 信じて
最高の 想い出を
『シークレット ベース』 by ZONE
『約 束』
ねえ、ユージ
あの夏の日
僕たちはいつも一緒だったね
君の事はなんでも知ってたよ
体育と算数が好きで
国語は嫌いだったろ?
人参が嫌いで 給食の時 いつも泣きそうな顔で食べてた
かけっこが速くて
野球がうまくて
運動が苦手だった僕は
いつも、君がうらやましかった
どうして 忘れてしまっていたんだろう?
今はこんなに鮮明に思い出せるのに・・・
『だからね、タク?
おまえ 1周忌にも帰ってこなかったでしょ。
お盆にも帰れないっていうし
就職したら ますます帰って来れなくなるんだから
今回は 絶対帰ってきなさいよ』
母からそんな電話があったのは
8月のはじめだった
8月の末に亡くなった祖父の3回忌の法事があるので
俺にも帰ってきて出席しろという
正直 気がのらない
祖父にはずいぶんかわいがってもらったが、
なにぶん もういないのだ
1周忌だの3回忌だの言われてもピンとこない
しかも、夏休みの最後の方だし
なんとか 断れないかとあれこれ理由を並べてみたが
母はなんとしても ゆずらなかった
仕方ない
俺は あきらめて4年ぶりに
故郷に帰る事にした
小さな駅に降り立つと
たった4年で 田舎町の駅前は様変わりしていた
家までの道をブラブラと歩く
ここは 東京に比べると涼しい
久しぶりの田舎の空気に 俺は軽く伸びをする
「あれ~?タク!タクでしょ?」
不意に名前を呼ばれて そちらを見ると
同じ年頃の女が こちらに駆け寄ってきた
なんとなく見覚えがある
誰だったろう?
「憶えてない?
リカ!4年の時同じクラスだったでしょ」
言われて俺は「ああ!」と思い出した
小学校の時のクラスメートだ
クラスのリーダー格で
女子には人気があったが
男子からはなんとなく 煙たがられるタイプだ
「いや~、タク 背、伸びたね~
小学校のときは小さくて細くてさ
いっつもユージにくっついてたのに
ちょっと わからなかったよ」
リカは屈託なく笑う
彼女は小学生の頃と変わってないような気がした
俺がナント答えていいか 考えているうちに
彼女は 次の言葉を話し出す
「あのさ、
私、タクに話したいことあったんだ。
タク ユージと仲良かったけど、
ユージ 死んじゃったの・・・知ってる?」
「え?」っと俺は耳を疑った
死んだ?
誰が?
「やっぱり、知らなかったのか・・・」
リカがフウとため息をついた
「今、時間ある?
お茶でも飲もうか」
彼女について少し歩いた
俺は何も話せない
彼女も 黙って俺の少し前を歩いていた
高校生の時 よく行った喫茶店が まだ同じ場所にあった
ここに来るのは何年ぶりだろう
席につき 俺はアイスコーヒー
彼女は オレンジジュースを注文する
バイトらしき女の子が 去ったあと
リカが俺に 顔を近づけて ささやく
「ねえ、タク ここ来たことなかった?
ここのコーヒー すっごくおいしくないんだよ。」
俺ははっとする
そうだった
ここのコーヒーはホットもアイスも
ただ苦いだけで飲めたものではない
ここでは いつもコーラ
それが俺のお決まりだったのに・・・
少しずつ 少しずつ 記憶が遡っていく
高校まで地元に通っていた
美術部に入っていて 絵を描く事が好きだった
もっと描きたくて
東京の美大を目指したけど 失敗して
とりあえず 潜りこめた大学に進学した
段々 絵を描く事から遠ざかった
何かハッキリした理由があったわけではないが
ただ どうでも良くなったのだ
大人しくて引っ込み思案な子供だったが
誰も知る人のいない新しい環境で
それなりに 人付き合いができるようになり
それなりに 楽しいダラダラした日々を過ごしていたのだ
ユージ
小学生の頃の 俺はいつも彼と一緒だった
明るくて 運動ができて
いつもみんなの中心にいた
それなのに 妙に気があって
放課後は毎日 一緒に遊んだ
ユージが他の子供とサッカーや野球をすることがあっても
夕方には 彼は必ずいつもの場所にやってきた
俺は そこら辺の物をスケッチしながら彼を待つ
やってきた彼にそれを見せると
いつも 本当に感心しながら見入ってくれていた
「タクが帰ってきてるなんて、珍しいね
クラス会の連絡しても1回も出た事なかったでしょ」
そういえば、何回かクラス会のハガキが来ていた気がするが
小学校のクラス会にはまったく興味がなかった
「なんか、いろいろ忙しくてさ
今回はじいさんの法事なんだ」
手元に目をやりながら 答えると
リカがクスクス笑った
「見た目は変わったけど
中身は変わってないね~
タクっていつも話しかけられたら 下向いて喋ってたよね?
あたし それが嫌いでさ
けっこう 意地悪言ってたよね」
俺が顔をあげて リカを見ると
「あっ、ごめんごめん」っと肩をすくめた
「いいよ、ホントの事だし
俺って暗いガキだったしさ」
わざとふざけて明るく言うと
リカが感心したように目を丸くした
「へえ~、タクも大人になったんだね」
「なんか、それってひどくね?
俺だって 年相応に成長してますから」
俺が言うと 彼女はちょっと感慨深そうに頷いた
「そっか、そうだよね
あたし達 もう大人なんだもんね・・・」
飲み物が運ばれてきた
俺はそれには 手をつけず
リカがストローで氷をカラカラとかき回す
「ユージが転校してから
タク全然 連絡取り合ってなかったの?」
「何回かは手紙をやり取りしたり
電話をしたりしてたんだけど・・・」
俺はそこで 言葉を濁す
そうなんだ
4年生の終わりにユージは家庭の事情で突然 引っ越してしまった
離れてもずっと友達だと約束して別れたのに
僕は ずっとユージの事を忘れた事はなかったのに
彼からの連絡は 段々遠のいていって
まったく 返事が来なくなってしまったのだ
何度か会いに行ってみようかと思ったが
彼に 何しに来たんだ?と言われるのが怖くて出来なかった
僕と違って 人気者だった彼は
きっと 新しい学校で 新しい友達と楽しくやってるんだ
僕の事なんか すっかり忘れてしまって・・・
そう思うと つらくて
僕の中でも 彼のことは忘れてしまうことにした
そして、
忘れてしまっていた
「タク?」
俺はずいぶん 黙りこくっていたようで
リカが心配そうに 顔を覗き込んでくる
「あっ、ごめん・・・
あのさ、ユージって何で・・・」
死んだんだ?
その言葉が口に出せずに言いよどんで
また うつむく俺を 彼女は察してくれたようだった
「あのね、病気だったみたい
転校してからまもなく発病したらしいよ
嘘みたいだよね?
ユージってさ、殺しても死なないような
エネルギーの固まりみたいなヤツだったのに」
リカも昔を思い出すように
窓の外に目をやった
「2年位前かな?
あたしのおばさんがちょっと病気して入院した時
お母さんとお見舞いに行ったんだけど
そこに ユージがいたんだよね
何気なく病室の入り口のプレート見ながら歩いてたら
聞いたことある名前があって
あれ?って思って立ち止まったら
ちょうど 中から人が出てきてさ
ベッドの上のユージと目が合っちゃったの。
はじめ 私、わからなくて
すいませ~んって言って行こうとしたら
リカ?って呼ばれて・・・
ユージさ すごくやつれたカンジで
あの頃の元気な面影はなくなってたよ
何の病気なのかは詳しく聞けなかったけど
ずいぶん 長く入院してるカンジだった。
懐かしいねって、少し昔話して
私も おばさんのお見舞いがあったから あんまり時間なくて
他の人も誘って又来るよって言ったんだけど
いいよって・・・
こんな かっこ悪いトコ見られたくないから
誰にも言わないでくれって。
だから私、誰にも言わないでまた来るよって約束して
退院したらクラス会やろうねって言ったんだ。
そしたら、ユージ
うんって・・・
夏には1度 ここに帰って来たいんだって
約束があるからって
何の約束かは教えてくれなかったんだよね
誰と約束したのかも 教えてくれなかった」
リカはそこまで 話して
ストローで氷をつつく
解け始めた氷がカラリと崩れる音がした
「もう1回 病院に行ってみたんだけど
ユージ もういなかった
看護婦さんに 連絡先教えて欲しいって言ったんだけど断られて
代わりに私の連絡先をおいてきて
家族の人に連絡が欲しいって伝えてもらうように頼んだんだけど
結局 なんの連絡も来なかったんだ
ユージってさ
ちょっと 家庭が複雑だったみたいで
昔の友達に来られたりするのって
家族には迷惑だったのかも・・・」
やっと リカは俺の方を見た
俺はそれまでの話をどこか 遠くで聞いていた
病気になっていたなんて
彼の家庭が複雑なのは知っていた
昔 彼は一人で泣いていたことがあった
僕は なにもできずに
ただ そばに座っていただけなのに
一人で泣き止んで 彼は僕に「ありがとう」と言って笑った
僕は 黙って首を振り続けたんだ
人気者で いつもたくさんの人に囲まれてたユージ
本当は すごく寂しがり屋だってことを
僕は知っていたはずなのに
どうして 彼を訪ねてやらなかったのか
あのユージが 何も言わずに
僕のことを ただ 忘れてしまうはずなんてないのに・・・
あの頃のちっぽけな僕は
自分を守ることに精一杯で
彼の苦しみや寂しさに気づいてやれなかった
ユージ
君は僕の事をうらんでいるだろうか?
「タク?大丈夫?」
リカがまた 俺の顔を覗き込む
「うん」
かろうじて返事をしたものの
現実感はまるでなかった
「ねえ、タク憶えてない?
ユージと何か約束してない?」
遠慮がちにリカが俺に尋ねる
約束
ユージと
そうだ・・・思い出した
約束したんだ、ユージと
アレはどこだったろう?
今もあるだろうか
俺は顔をあげると
かみつくようにリカにきいた
「学校の裏に空き地があったろ?
あそこ まだあるのか?」
リカは驚いたように俺を見て
静かに首をふった
「もうないよ。
あそこには今、コンビニが・・・
あっ、タク!」
俺は急いで立ち上がるとそのまま店を出てしまった
リカが慌てて立ち上がるのがわかったけど
もう 振り返ることも出来なかった
記憶を頼りに懐かしい道を走る
すっかり 変わってしまっていても
ところどころに昔の面影が残っていた
ここのはず
学校の裏に空き地があって
子供達がよく遊んでいた
隅っこの土管が僕の場所で
絵を描きながら ユージが来るのを待っていた
空き地はもうなかった
コンビニと駐車場になったそこには
もう ユージはいない
彼はずっと忘れずにいたんだろうか?
病気と闘いながら・・・
僕との約束を守りたいと・・・
なのに 僕は・・・
「ちょっと、タク!
おいてくなんて ひどいじゃない」
追いかけてきたのか リカが俺の肩を叩いた
「約束したんだ
ユージと・・・
10年たって大人になったら
また ここで会おうって・・・
俺、すっかり忘れてたよ
もう、12年もたってる」
「そっか・・・」
リカがそっと俺の横に立った
「ここさ、コンビニになったのって5年位前なんだよね
2年前に タクが来ても、
もう空き地はなかったし、
ユージも・・・来れなかったと思うよ」
「でも、約束したのに
どうして・・・俺は・・・」
「なんだ、タク 変わってないね~
昔も泣き虫だったし・・・」
リカが俺にハンカチを差し出していた
僕は泣いているのか?
ハンカチを受け取らずに手の甲で頬をぬぐうと
それは 濡れていた
呆然とその手を見ていると
リカが困ったように ハンカチを俺の手に押し付ける
「ほら、拭きなよ
人が見てるよ」
その表情と口ぶりがあまりにも昔のままで
僕は思わず 自分も10歳のあの頃に戻った気がした
ユージ
どうして君はいないんだろう?
また 涙が流れてくる
手に押し付けられた ハンカチを握ったまま
ただ 黙ってうつむいていた
「学校 行ってみようか?
変わってないんだよ、あそこは。
ほら!早く!」
リカが無理やり俺の手を引いて 走り出した
夕暮れの 学校の校庭に潜り込んだ僕らは
しばらく 黙ってブランコをこいでいた
「ユージが会わせてくれたのかな?」
ポツリとリカが言った
「え?」っと彼女の方を見ると
彼女は まっすぐ前をみたまま 言葉を続けた
「ユージの事知ってから
私、タクに連絡取りたかったんだよね
タクの家はわかってるんだから
いつでも連絡先を聞けるはずなのに
なんだか怖くて聞けなかった
連絡して、タクが変わっちゃってたらどうしようって
ユージの事、全然憶えてないって言ったらどうしようって」
僕はただ 黙って彼女を見ていた
「ごめんね。2年も黙ってて。
今日、タクに会えてよかった
よかったよ」
リカがやっと僕の方を見て
手を差し出した
「ありがとう」
僕も 彼女の手を握る
「リカのおかげで ユージとの約束守れたよ
もう、絶対忘れない
また 来年来るよ
忘れてたお詫びに、毎年ユージに会いに来る」
「そうだね」
リカが笑った
「私も付き合おうかな?
クラスメートだからさ」
リカが再び前を見て 今度は勢いよくブランコを漕ぎ出した
僕の横を 彼女が行ったり来たりするのを目の端に捕らえながら
僕は あの空き地のあったほうに 視線をやる
今は コンビになったそこに空き地が見えるような気がした
ユージ
君は怒ってるかな?
君のコトを忘れてた僕のこと
2年も君を待たせてしまった
君がつらい時に何もしてやれなかった
「そうだ!タク、絵を描くのが好きだったよね」
リカが急にブランコを止めて 思い出したように言った
「高校までね・・・今は、描いてないけど」
彼女を見ないで ヒトリゴトのように 僕は答える
「ユージの病室に古い絵があったんだ
子供の描いたような絵
あの空き地の絵だった気がするけど・・・
あれ、タクが描いたやつじゃないかな?
私がその絵を見てたら
ユージが言ったんだよね
いいだろ?俺の宝物って・・・
ちょっと、タク!
もう! また、泣いてるの?」
リカがブランコから飛び降りて
僕の顔を覗き込んだ
ユージ
僕はどうしたらいいんだろう?
君への思いが溢れて 溢れて
止められなかった
君が行く前の日
あの空き地で 僕は君に1枚の絵を贈ったんだ
恥ずかしくて いつもはとても人になんかあげられなかったけど
君にあの場所を憶えていてほしくて
やっとの思いで 渡したんだ
君はとても喜んでくれたね
そして 僕達は約束を交わしたんだ
ありがとう
憶えていてくれて
宝物だって言ってくれて
僕はすっかり 忘れてしまっていたのに
あの絵だけが 少しは君の力になってくれたのだろうか?
そう思うのは勝手すぎるかな?
今の僕を君が見たら 何て言うだろう?
『勝手なヤツ!』
そう言って バシッて頭を叩いて
でも、きっと 笑ってくれる
そんな気がするよ
そう思ってもいいよね?
そんな事を考えながら 君を想って
僕は 涙を落とし続けていた
「やれやれ」と言いながら
リカが立ち上がり 僕の背中をさすってくれる
「あのさ、さっきのお店で
私、タクのコーヒー代も払ったんだからね。
今度はタクがおごってよ!」
突然の現実的な話に、僕の頭はちょっと混乱して
リカを見上げた
「ほら、タク!しっかりしろ!」
リカが 僕の手を引いて立たせると
背中をバシッと叩く
それは 昔 ユージが僕によくしてくれた事だった
彼の声がしたような気がした
『ほら、タク!いつまでも泣いてんじゃねーよ!』
ごめん ユージ・・・
もう少しだけ・・・
もう少しだけ 君を想っていたいんだ
「仕方ないな~」
リカは笑ってちょっと肩をすくめると
つっ立ったまま うつむいて泣き続ける僕の正面に立ち
僕の頭を 彼女の肩に乗せる
「泣き虫、タク・・・」
彼女がクスクス笑いながら、僕の頭をポンポンと叩いた
「うるさいよ・・・」
そんな言葉を言ってみるけど
僕の涙は止まらなかった
僕よりずっと背の高かった彼女の肩は
今では 僕よりずいぶん小さいのに
優しくて あたたかくて安心できた
「あと少しだけだよ」
僕の背中をさすりながら リカが言った
「うん」
僕は小さく頷く
「よし!じゃあ 待っててあげるよ!」
彼女のその言い方が おかしくて
僕はようやく 少しだけ笑った・・・
夕日が校舎を赤く染めている
遠いあの日と 変わらないように
歌詞は コチラ