第01話-5



これはロディが最も多用する言葉の一つだ

自分の短気が原因で多々騒ぎを引き起こす彼なら、やはり使わないわけにはいかないだろう


シュウを引きずり回しながら突っ走る今も、彼の頭にはその言葉がきっちり思い浮かんでいた


『マスター!!何やらかしたんですか!?』

「バカ、通信なんてしたら所在がバレるだろ!?」


左腕にした腕時計・・正しくは腕時計の形をしたナビゲーター

そこから小さくスクリーンのようなものが出てきて、ネスの顔がどアップで映る


『・・見つかったんですか』

「平たく言うとそうだな。」


ネスはそれこそ、冬が来たかのように寒い気分になる

がくん、と地べたに手をつき、どんよりとした空気が立ちこめ・・


「・・ダメだ~・・・今回も終わってますね~・・」


その言葉しか出ようもない


「ロディさん、中央制御室は右へ曲がって・・」

「こっちか?」


シュウの言葉をわざとらしく間違え、左へ曲がった瞬間・・


「いたぞ!」

「あいつらか!」

「げっ!?」


警備員の大群と遭遇してしまった


当然のように発砲してくる警備員達

ロディはシュウを振り回し、急いで元来た通路を引き返す


「右、右・・と」

「平静を装わないでください、ロディさん」

「・・・うっせーな・・初歩的な間違いくらい誰でもやるわ!」


・・限度があると思う。

シュウは聞こえないようにぼそぼそとつぶやいて、ロディに進路を示す

さすがに今度ばかりは間違えずに、ロディとシュウは無事に・・


「広いな・・なんだか無駄に・・」

「そりゃそうですよ、このコロニーのメインシャフトは慣性を生み出すための軸であって、ただそこに円筒形の物体が存在していればいいんです。つまり内部に何があろうが関係なし、手頃な収納スペースとでも考えれば問題ないでしょう」

「・・回りくどいな」

「要するにお手軽収納スペース、しかも隠蔽にも向いて経済的・・」

「なぁるほど、そりゃ悪どいヤツらにゃもってこいだわ・・」


ロディは手近にあった手すりに背をもたれ、メガネをクリーナーで拭き始めた

彼らの立っている場所はその「広い空間」の真ん中にかかった作業用の通路だった

広い空間は縦にも広く、狭い通路の真下には数百メートルはありそうな深い縦穴が口を開いている

壁という壁にはぎっしりとコンテナが配置されている

・・これが、その違法取引の品だろうか・・


「さて、警備員もいつの間にか撒いたようだし・・とっとと証拠とやらを探してくれ、シュウ」

「了解しました。」


シュウは頭にしている、目のついたバイザーの横・・小さなボタンを操作する

するとバイザーから緑色のゴーグルが下りて、彼の目の辺りをすっぽり覆った

続いて今度は、背中にしょっていた「コンピュータ」から配線を引っ張ってきてゴーグルにつなぐ

もう一本出ている配線を、今度は通路の端にあった通信用の端末につなぎ、彼は手元に取り出した小さなキーボードを操作し始める


「警備員、見張っててください。」

「あー、全員叩きのめしてやるから安心しとけ」


・・うん、ホントにやる気だ・・


黙々と操作をしながら、シュウは静かに微笑んだ


・・数分経っても警備員は誰一人姿を見せず、ロディが怪しいと感じ始めた頃

シュウがロディの上着の端を掴み、ぐい、と引っ張った


「見つけたか?」

「いえ・・見て下さい、ここの社員の給料明細・・いくらウチが貧乏だからって、ここまで格差があるんですよ?」

「・・・・」

「平社員で4倍も格差があるなんて・・ロディさん、僕らのお給料も考え直して・・」

「殴るぞ?」


にこにこしながら、シュウの頭にぽん、と手を置くロディ

シュウもにこっ・・と笑うと、何事もなかったかのように操作を続ける


「貴様らか?」

「あ・・?」


不意にしてきた声に、ロディは一瞬驚いたような顔をしたが・・

懐から素早く愛用の銃「レイノス」を取り出し、声の方向に構えた

その銃口の先には男が一人・・スーツ姿で、先ほどまでの警備員とは風格が違う


「俺はアルト警備部門主任、ゲイル=プライズマンだ・・・侵入者が「一般警備員も入れない区画」にいるとは、全く驚いたよ・・」

「あれだけ警備管理がなってなけりゃ、簡単にここまでこれるぞ。」

「何・・?」


確かに警備は万全、ロックも警報システムも完璧だったが・・

なぜか、中央区画までの一直線の装置は、全てダメダメな状態になっていた


「ふ、ふふふ・・じ、実は俺が意図してここへ誘い込ん・・」

「間抜け」

「・・・・・」

「だから、聞いてるか、「間抜け」?」

ぱんっ!!

ゲイルは無言で銃を抜くと、狙いもろくにつけず銃弾を撃ち放った


「おっとっと・・危ないな、いきなり・・」


ロディはやる気もない声でふらふらと避ける

顔はこっそり笑っているのだが、ゲイルには見えていないようだ


「貴様!今すぐ銃殺刑にしてやる!!」

「おーおー、間抜けがキレたか」

「だから誘い込んだと言っている!!!」


ぱんっ・・ぱんっ・・!!


続けて銃弾がまた数発

ひょいひょいと軽々かわすロディに、どんどんイラついてくるゲイル

そして・・


ばきんっ!!


「あ」

「え」


ゲイルもロディも思わず間抜けな声が出た

なんと・・ゲイルが撃った弾丸の一発が、作業に没頭していたシュウの額を直撃していたのだ


「シュウ!?」


・・返事がない・・そして、彼は倒れたまま動く気配もない


「て・・てんめぇぇぇぇぇ!!!」

「!?」


どぅ・・んっ!!


ゲイルの銃より大型の銃、レイノスが火を噴き、ゲイルの身体はその場に崩れる

ロディはレイノスに即効性の麻酔弾を込めて放っていた

効けば像でも一瞬でコロリ・・やはり、シュウの作ったものである


・・しかし・・それを作ったシュウは倒れてしまったまま・・


「シュウ、おい!!」


抱え起こしてみるが返事はない

額にはバイザーに入った、わずかな・・2ミリほどの「ひび」が見て取れる


・・ん?・・・ひび・・?


おそるおそるロディはそのバイザーを上にどけてみる

・・なんともない。

額には弾痕どころか、アザひとつできていない


「おい、起きろシュウ」

「・・う・・・あ、ロディさん・・」

「・・何で出来てるんだこのバイザーは・・」

「?・・「PS装甲」・・・みたいなものですよ。」


シュウはにこり・・と笑うと、何事もなかったかのように再び操作を始める

ロディはしばらくシュウの顔をまじまじと見つめていたが、すぐゲイルの方に目をやった


「しっかし・・・ホントに間抜けだよな、こいつ。」

「誰です、それ」


ロディはくるり、とシュウを見る

黙々と作業を続ける彼は、どうもゲイルの存在にすら気付いていなかったらしい


「・・ん・・」


呆れようとフヌケた顔になりかけたロディが、突然真面目な顔になる


どどど・・とでも言わんばかりの集団の足音


「げ、まさかさっきのヤツらここに・・!?」


ゲイルは一般警備員がどうのこうのと言っていたが・・


「非常時ならあり得るか」

「終わり。」

「丁度いい、撤収するぞ」

「楽しかった・・」

「は??」


ワケのわからないシュウの台詞に一瞬とまどうロディ

彼のバイザーをぐい、と引っ張り、覗いてみる


「・・・マインスイーパ(上級)・・・?」

「ええ」

「・・お前、証拠探しは?」

「給料明細の後くらいで終わってましたよ」

「・・・」


ぺしんっ


ロディは無言でシュウの頭をひっぱたく・・

それでも彼は終始にこやかに微笑んでいた


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