最終話



俺はカウンターの片隅で頬杖をつきながら、忙しく行ったり来たりしているウェイトレス達を眺めていた

注文をとるのもいい加減に慣れたようで、開店当初よりは多少スピーディになっている

彼女らの制服はネスが特注で作ったお手製のもの、なんかヒラヒラしすぎてる気もしないでもない

かくいう俺もタキシードの出来損ないみたいな上着を着せられて、こうしてカウンター係を担当している


・・しかし・・・


「・・客来ねぇなぁ・・」


先ほど忙しいと言ったのは、あくまでも今が昼時で「軽くメシ食いに来た」客がいるためだ

確かに満席状態にはなるが、ただそれだけ・・普段はヒマでヒマでしょうがない(汗)


「・・なぁネスよ、さすがに昼の稼ぎだけじゃしんどいよなぁ?」

「そうですねぇ・・このまま行くと月末には火の車で借金地獄へドライブですよ(苦笑)」

「おもしれーこと言うじゃんか・・わかりやすくていいねェ(笑)」


別に金に苦労することなんて今に始まったわけじゃない

・・かつてのギリギリ生活にくらべれば、安定収入があるだけまだ幾分かはマシな状況だ

ウェイトレス・・そのヒラヒラした格好をしたメイとセラがこっちへ戻ってきた

注文をとって、急ごしらえのキッチンにいるガンマにオーダーする

・・意外だったよな・・あいつがそーいう事できるなんて・・・


確かに当初はメイがデザートを、セラがメインの料理を担当する事になっていたが・・


「どおしてぇ~~~~~(泣)」


メイが一級品の菓子を作るなら、セラも一級品のスパゲティを作った

・・・問題なのは・・セラが 「何を作ってもスパゲティにしかならない」 という事だった

例えコロッケの食材からでも、見事にパスタ関係ができあがっている・・

・・困っている時にシェフに立候補したのがガンマだ


「フ・・・これでも昔は板前ガンちゃんと呼ばれたものです」

「板前じゃ魚料理しか出来ねーだろうが?(汗)」


細かいツッコミはさておき・・

シュウとサクラが手っ取り早くガレージとその周囲を改造してくれたおかげで、開業はスムーズに出来た

・・そして・・客はあんまり来ない店ができあがったワケだ。

ガンマの料理はマズイワケじゃない、もちろん本人が自負する通り一級品・・

そんじょそこらのシェフじゃ敵わないからな


「・・もしかして・・前の悪評が響いているのでは?」

「案外お兄ちゃんが原因かもね?(笑)」


戻ってきたセラがいきなり、俺の顔をのぞき込んで言った


「・・・・そうだな、俺がある種の脅しになってるのかもしれん。」


仕事の時だけでなく、普段から大騒ぎを引き起こしている男ローディス=スタンフォード

歩く火薬庫、ひとり一個師団・・そんな呼ばれ方をした事もある


・・多分、メシ時になると人が来るのは、彼らが観光客とかである故なのだろう

毎度同じ人間が来る事はそうそうないからな(例外で必ず来るウェイトレスの追っかけみたいなのがいたが)

とりあえずセルムラントの人々からの印象は 「暴力団経営のスナック」 ・・みたいだ


「・・それじゃ俺、上で寝てるわ・・」

「お、お兄ちゃんが全ての原因じゃないよ??・・確かに悪い評判はつきまとってるけど・・」

「世論ってのはコワイな。」


へらへらと笑って、俺は前より奥へ移設された階段を上っていった

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「あら、もう休憩時間なの・・・ロディ?」

「・・いや、ちょっとね・・・」


2階・・元T.C事務所だった部屋には、フィアが広げたロストテクノロジィ遺跡の資料が散乱している

母は昔からこうだった、のほほんとしていても、にっこり笑っていても・・気がつくとこうして遺跡の資料をあさっている


・・もっとも、今ではサクラと共同研究になったおかげでずいぶんと成果が上がっているようだが


「母さん、サクラは?」

「サクラちゃんはシュウくん連れてお買い物らしいわよ?」

「・・そっか・・」


ロディはそれだけ聞くと、事務所を出て狭い廊下を進んだ

・・自分の部屋へ・・・・ホントに寝るつもりらしい(汗)

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「ありがとうございました~♪」


元気よく最後の客を見送って・・今日の営業も終了。

メイとセラはため息をひとつして、ぽんぽんと肩を叩く


「お疲れ・・お姉ちゃん・・」

「う~ん・・楽しいけど疲れるねぇ~・・・・」

「ご主人、晩の支度ができてますよ」

「ありがと、ガンマ♪」


入り口の鍵を閉めて、「CLOSED」の看板をかける・・

現在時刻は19:00、それがここの閉店時間である

セラとメイはテーブルのひとつについて、ガンマが持ってきた食事を頂く

・・その間に2階から降りてきたシードが掃除をはじめ、ネスは今日の分の会計を行う

・・今ではもう当たり前の光景だ


「・・・・・・」


ガンマの作った夕食・・今日はグラタンが出されているが、それを食べながらメイは思っていた

・・うふふ~♪・・やっぱりこっちの方が楽しいよね♪・・

いきなり顔がゆるんだ姉の顔を見て、セラが怪訝そうな顔をする


「・・お姉ちゃん、どうかしたの?」

「ん~ん、なんでもない♪」


・・彼女がそう思うのは・・T.Cの頃に散々な思いをした事が理由である

ヒドイ目にしかあわなかった頃に比べて、今では毎日が平和そのもの・・楽しくてしょうがない♪

・・経営状態・客入りうんぬんが理解できていない彼女にとっては最高の日々だった


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・・にぎやかで平和な日々の中、フィアはいつものように事務所で遺跡資料を解読していた

しかし、今彼女が手にしている資料は遺跡とは全く関係のないものだ


ロディとセラの身体情報、さらにはメイとシュウ、サクラのデータもあった


(・・遺伝子を意図的に改造されてしまったシュウくんにサクラちゃん・・)


二人の遺伝子配列がピックアップされ、画面に現れる

次にメイの資料が最前列に移った


(・・遺跡のシステムで遺伝子の一部を書き換えられてしまったメイちゃん・・)


メイの遺伝子配列・・タキムラ姉弟とは異なる、「三本目の列が存在する」DNA螺旋が現れる

・・・フィアはふぅ・・と息をはいて、改めて子供達のデータをピックアップする


(やっぱり・・・)


ロディとセラのデータと今までのデータ、そして自分から採血したDNAのデータが表示される

シュウ達のものは明らかな操作の跡があり、メイのものは三本目の線というあり得ない情報が存在している

・・自分のものは一般の人間のもの・・

問題は、ロディ、セラのデータだ


遺伝子配列的に「わけのわからない」情報がこれでもかと詰め込まれている

・・深く考えていなかった事が、なんとなく気にかかって調べてみれば・・とんでもない結果が出た

ロディ、セラの遺伝子には、遺伝子改造やナノマシンの寄生、そういったもので説明のつかない組み合わせが施されていた

(・・これは「人間の遺伝子」なの・・・?)


・・・フィアは、階下から聞こえてくる楽しげな声も耳に入らないでいた


「・・そんな事気にしてどうするの・・私はあの子達の母親なのよ・・」

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「・・フィアちょん・・気にしないのが吉、そーゆー事もあるにょん。」


サクラはドアからこっそりその様子を伺い、つぶやいた

フィアが気がついて、ちょうど同じ研究をしている彼女が気がつかないワケがない


「・・おにーちゃんの方はオールマイティーな戦闘センス、おじょーちゃんは格闘特化・・」


・・しかもあたし達姉弟みたいに脳細胞の異常発達、記憶力の強化・・(こっちはおにーちゃんダメダメみたいだけど♪)


・・ま、人間かどうかなんて個人の観点が決める事よん。

・・あたし達だって人間じゃないようなモンなんだから・・・・

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一部の者には少しだけ迷いのある日々・・・・それでも、時間は流れていった


「いらっしゃいませ~!」

「ここの名物はなんつってもコックの包丁(剣)さばきですよ♪」

「オーダー入るよ~」

(・・皿洗いも大変やなぁ・・)


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ロディは「CLOSED」の看板をドアにかけて、大きく伸びをしながらへらへらと笑った


「ネス、今日もずいぶん客が入ったなぁ♪」

「ええ、真面目に仕事をする甲斐がありますねぇ♪」


・・ようやくその存在が認知され始めた「喫茶・ユニオンリバー」は順調に売り上げを伸ばしていた

シュウ達も「発明」の特許を取り始めて、数々の臨時収入をもたらしてくれる

・・今まさに、最盛期といった感じだ。



そう、ロディは全部を取り戻したのだ。

まだまだ知らない本当の事があっても、それを知るつもりはない

・・少し他人より不幸な所はあったが、彼にとってはもはや過去など関係のない事だ

忘れてはいけない事だけ覚えておいてイヤな事はすっかり忘れてしまう、彼の良いような、悪いような特技だ

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今日も小さな喫茶店のドアが開く

カーテンがしゃっ・・と開けられて、快晴の空と同じ色の海が視界に広がる

・・一息ついて、始業。


「さぁーて、今日もぶっ倒れないてーどにがんばりますかっ!!」


まだどこかで子供のまま止まっている彼にとって、これ以上ない宝物のような一日が今日も始まった

・・家族と、家族同然の皆と一緒に。













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・・2990年編 完・・



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