第11話-4



廊下を挟んで隣の部屋では、瀬奈が小さな身体をベッドに横たえていた


(全く・・どうしていらないという護衛を付けてくるんでしょうか・・アルおじさまも・・)


しかもその護衛というのは「変態ロリコン覗き魔」ときている(一方的観測)

・・いずれにしても彼女にとってはこの上ないイヤなタイプの弱腰男だ、毛嫌い以前の問題がある


・・私がこんな身体でなければ、おじいさまや皆さんと平和に暮らすことも出来たかもしれないのに・・


左腕・・正しくは肩の位置に刻まれた紋章のようなアザ

それが彼女が狙われる原因であると同時に・・彼女が護衛を必要としない一つめの理由でもあった


・・少なくともこの力は好きなのですが・・私の求める生活を奪っている点では何とも疎ましいものでしょう・・


瀬奈は寂しそうな顔をして、真上に掲げていた左手をベッドにぼふ、と落とした


・・・いつまで続くんですの?・・この日々・・・・


瀬奈の目からいくつかの水の粒がこぼれ落ちた

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数時間後・・夕暮れ時の市街地に、瀬奈とオミは買い物に来ていた


「・・ついてこないでくれませんか?・・あなたみたいなのが私の保護者に見られたら最低です」

「・・・・はいはい(泣)」

「買い出しは済んだのですから、さっさと荷物置いて帰った方が身のためですよ?」

「・・・・・・・」


まだ一日目だ。

もう胃に穴が空きそうだ。

・・オミは今、人生で一番の疲労疲弊と戦っていた


・・ふっ・・と気がつくと、前を歩いていた瀬奈の姿がない


(あれ?)


・・あれ?じゃないだろう。


「瀬奈ちゃん?・・・に・・逃げられた!?」


あの言動にあの性格、まして自分を心底嫌っているとなれば・・

やはり煙に巻いてどっかに逃げるつもりなのか!?


オミはそれでも右手の買い物袋だけは離さず、走り出していた

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「・・・ドコ行ったんだろう・・・」


表通りを探し終わって、路地裏に入った時だった

もう息の上がっているオミの耳にも、はっきりその音が聞こえてきた

・・誰かがケンカでもしているのか?


オミはその方向へ向かい・・路地の間でその光景をみた


・・・青い髪の女、見た所18歳くらいだろうか・・ちらっと見ただけでも見惚れる程美しい

それが銃で武装した男5人を相手にもの凄い速さで戦いを挑んでいる

目にもとまらぬ、を体現するかのように動き、銃を弾き、肘打ちや正拳、それだけで5人がまたたく間に戦闘不能に陥っていく


「すごい・・・」

「・・・!」


女はオミの姿に気がつくと、いきなり走り出し・・いずこへともなく消えた

・・後には文字通りボコボコに叩きのめされた男達が倒れているだけ

オミはすたすたと歩み寄り、落ちていた身分証を確認する


「道路工事要員?・・・ 「鳳星会」 ?」

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ホテルに戻ってきたオミはクオリファイドに「鳳星会」についてのデータを調べてもらっていた

・・妙に引っかかるのだ、その単語・・


「銀河通商連合のナンバー2的位置にある・・まぁ、ヤクザ屋さんって所ですね」

「・・「会」ってついてるからやっぱりなぁ・・・」

「惑星プライマリー宙域、及び衛星港アルト近辺を中心に活動しているようです」

「プライマリー・・って瀬奈ちゃんと会ったトコ?」

「ええ、そうですね・・・・ところで瀬奈様はどちらに?」

「・・・・・ははは(苦笑)」


どうしようかと困惑していると、オミの後ろのドアを開けて瀬奈が入ってきた

相変わらずオミの前ではむっとした表情のままで・・


「・・・ふん」


何を言うでもなく「ぷいっ」とそっぽを向いて、さっさと部屋から出て行ってしまった


「嫌われてますねぇ」

「・・・・別に好かれようとは思わないけどさぁ・・やりづらくて胃に穴があきそうで(泣)」


・・ま、それはそれとして・・さっきのあの人、綺麗だったなぁ~・・


オミは別な事を考えて、今のこの自分のやるせない気持ちを落ち着けようとしていた

・・路地裏で屈強な連中をモノともせずに片づけてしまった、美しくて強い人

あんな某映画のヒロインみたいな人もいるんだなぁ・・と思っていた


オミは瀬奈の部屋の明かりが消えたのを確認すると、自分もゆっくり寝る事にした

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・・翌朝・・


「おはよう、瀬奈ちゃん」

「・・・気安く呼ぶのはやめていただけませんこと?・・・全く・・いつ私が許可しました?」

「だ、だって他に呼び方ないよ?」


瀬奈は鼻で笑う


「私は瀬奈「様」・・ですわ♪」


・・昨日と同じ調子でホテルを出て、オミと瀬奈は水族館の方向へ向かっていた

こうして歩くのを端から見たら「護衛と対象の関係」ではなく、やはり「妹連れのちょっと気弱そうなお兄さん」くらいだろうか

やたら妹が不機嫌なのが気になる所だが(汗)

瀬奈は常にオミと5メートルの距離を保っている


「・・大人しく町歩いてる分にはいい娘なんだけどなぁ・・・」

「丸聞こえですわよ?」


瀬奈がこっちを向いている

オミはばつが悪そうに笑う

・・・ホテルから目的の水族館は割と近かった

事前にクオリファイドが調べてくれた「デートコース」のおかげだ


(デートねぇ)


色鮮やかな熱帯魚を見て目をキラキラさせている

しかしオミが半径5メートル内に近づくと、一睨みの後さっさと次の場へ行ってしまう


(・・この「鬼ゴッコの鬼と逃げ側の関係」をデートと見るのか、クオリファイド?)


オミは何度目かわからないため息をつきながらも、瀬奈の5メートル半径の外をついていった


「ふぅ~・・・」


外に出ると瀬奈は大きく息をはいた

さりげなく見えた横顔からは、かなり楽しむ事が出来たらしい

・・本当にデートだとしたら好感度くらい上がりそうだけど・・僕の場合は意味ないな(汗)

せめて瀬奈ちゃんが攻撃をやめてくれれば気持ちは楽になるのに・・


「・・いたぞっ!!」


声がした

続いて車の滑り込んでくる音と、航空機が飛ぶような空気を裂く音・・そして着地する重機音・・


「クオリファイド!!ゼンガーを・・」


クオリファイドからの応答を僕は聞く間がなかった

とっさに瀬奈ちゃんの前に飛び出し、自分の身を「盾」にする

そうしなければ間に合わない、自分の任務を果たせなくなる所だった


ばずっ・・・・


銃弾は2発、左胸に一発、右足に一発


「っ!・・・・・・・・」


足を撃たれた事で、僕の身体は膝から倒れて前のめりになる


「・・僕が食い止める・・・逃げて、瀬奈ちゃん!!」

「飛び出す事はなかったのに!なんで私の前に・・!?」

「護衛ってのはこういう事するもんなの」


すっげー痛い・・今更のように激痛が脳に伝わったらしい

瀬奈ちゃんの顔が泣きそうになっている

それでもなんとか逃げてくれたのを確認して、僕はクオリファイドに一方的な命令を伝えた


「こっちじゃない、ゼンガーは瀬奈ちゃんの保護に回して・・僕は・・」


自分の事は気にするな、そう言おうとして僕の意識はとぎれてしまった


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