青き天体研究所

青き天体研究所

第十話  戦う理由



3日後、クロガネは補給が済み再び出航したのである。

「艦長、テスラ=ライヒ研究所から通信が入っています。どうしますか?」

「よし、繋いでくれ。」

テツヤがそう言うとスクリーンから人が現れた。

「お久しぶりです。マリオン博士。」

「お久しぶりです。早速ですが用件を話したいと思います。」

そう言ってマリオン博士は手元にある書類を読み上げる。

マリオン=ラドム博士。

アルトアイゼンリーゼやヴァイスリッターを開発した人物である。

現在はテスラ=ライヒ研究所で参式の調整をするために地球に下りてきたのである。

「例の機体ですがまだ完成の目途がついていないようです。コバヤシ博士が何とか頑張っておりますが・・・・。」

「そうか・・・・・。参式の方は?」

「参式の方は完成しました。すぐにでも送りたいのですが・・・・。」

「分かっている。連合だな。」

テツヤの言葉に無言で首を立てに振る。

テスラ=ライヒ研究所はマオ=インダストリー社同様ディパインクルセイダーズに支援しているため連合に目を付けられているのである。

最近その目が厳しくなり物資を送ることが出来ない状況である。

その通信中セインがブリッジに入ってきた。

「久しぶりです、博士。」

「ええ、お久しぶりです。セイン、例のアレはまだ完成していませんよ。」

「それは別にかまわないがどうしたんだ?そんな難しい顔をして・・・・・。」

今の状況が分からずテツヤに尋ねる。

テツヤが話の流れを説明し、理解したセインはしばらく悩んで提案を出した。

「だったら俺達がそっちに行けばいいだろう。研究所のほうは俺達に脅されたって言えばいいんだし。」

「しかしそれでは・・・。」

「もともと公式上では悪者なんだ。その名が一つや二つ増えたところで変わらん。」

「という訳です。では我々がそちらに向かいます。」

マリオン博士は溜息を一回つき、正面を向く。

「・・・・分かりました。無事に着くことを願っています。」

そう言い終わると通信が切れた。

「よし!本艦はこれよりテスラ=ライヒ研究所へ向かう。総員第一戦闘配備!!」

テツヤが全クルーに放送で伝える。







クスハはベンチに座り溜息をついている。

「どうして私はこっちを選んじゃったんだろうなぁ」

そう呟きながら再び溜息をついた。

「どうしたんだ?クスハ・・・」

「セイン・・・君、第一戦闘配備じゃなかったの?」

セインはクスハの近くに座り話始める。

「俺の機体の調子がおかしくてな。今整備しているんだよ」

「そう・・・なんだ・・・」

「悩み事か?」

「私、逃げただけじゃないかなぁて思っちゃて」

セインは近くにあった販売機から飲み物を二つ買い、クスハに一つ渡した。

「私はあの時、戦う道を選べなかった。連合のしていることは許せなかったのに恐くて選べなかった。

一度戦ってしまったら元の生活に戻れないような気がして!」

セインは黙って聞き、飲み物を飲み始める。

「それなのに私はみんなが戦っているのに何も出来ないでいる・・・。何も・・・。

もうブリット君やみんなが戦っている姿なんて見たくないのに・・・・どうして・・・・!」

「何もしてない訳では無いさ。」

セインは一口飲むと口を開く。

「クスハ。お前は逃げたんじゃない。」

「でも!私達のせいでフィスやあなたに・・・」

「俺達は既に戦う道にいたんだ。少なくとも、俺はもう汚れちまったけどな。クスハ、戦いには二つの道がある。

一つは何かを守るため自分の力で戦うこと。もう一つは戦っている者を待ち迎える者。」

クスハは渡されていた飲み物の蓋を開ける。

「双方は非で似ているもの。お前は待つ方を選んだだけなんだ。」

「でも・・・・・・」

クスハはセインの顔を少し覗いてみると、セインは今まで見たことない少し悲しげな表情をしていた。

再びセインの口が開いた。

「クスハ・・・。お前は『運命』を信じるか?」

「えっ・・・・。」

急にセインに尋ねられどぎまぎする。

「もし自分の人生が自分の手でなく、他人によって動かされているならお前はどうする?」

「な、何言ってるの?セイン君。」

セインの言っている意味が分からなく尋ね返すクスハ。

セイン自身も自分の言っている事にハッとしたのか話をやめる。

「今のは忘れてくれ。・・・・ブリットが戦っている理由を知っているか?」

「自分のような人を出さない為・・・・。」

クスハは以前ブリットが答えた理由を言ってみる。

しかしセインは首を横に振った。

「違うよ・・・・。ブリットが戦う理由はクスハ、お前を守りたいからだ。」

セインの言葉に反応して目が開いていく。

「大切な人がクロガネに乗っているから。大切な人を悲しませたくないから・・・。人はその思いを持って戦っているようなものなんだ。」

クスハの目から一滴一滴涙が零れ落ちる。

「ブリットの場合それがお前だったんだ、クスハ。本人は否定するかもしれないけどな。」

自分の言ってるセリフがくさかった事を実感し始め、顔が段々赤くなっていく。

そのためかセインは混乱し始める。

「だから俺が言いたいことはその・・・・・・。」

セインが言いかけたその瞬間、クロガネに大きな衝撃が走る。

何かの直撃を受けたらしくところどころに傷が目立っていた。

「総員第二戦闘配備!繰り返す、総員第二戦闘配備!各パイロットは出撃し敵機を撃退せよ!!」

そのアナウンスが聞こえてかセインは表情を変え、格納庫に向かう。

「待って!セイン君!!」

急に呼び止めたクスハの方を振り向く。

彼女の目には何かの決意を秘めていた。






「ア、アレは!?」

「ゲシュペンストだと!?」

キョウスケ達が出撃して見た物、それはテスラドライブを付けているゲシュペンストの姿であった。

「も~!空飛ぶゲシュペンストはヴァイスちゃんだけでいいのに・・・。」

「エクセレン、文句を言うな。行くぞ!!」

エクセレンが文句をたれるのも無理は無い。

本来ゲシュペンストは陸戦用に出来ており、飛行形態にするにはそれなりの装甲の強度を落とさなければならない。

だが敵のゲシュペンストはテスラドライブを付けるだけで終わっており、ヴァイスリッターほどの運動性は無いものの普通のものより向上しているのである。

「たとえ空を飛んでいても・・・。頂く!!!」

レーツェルの乗るゲシュペンストMk-2はそれにも関わらずに一機一機と撃墜していく。

レーツェルはゲシュペンストMk-2のテストパイロットもしてた事もある為、ゲシュペンストの動きのクセを認知している。

そのためか他にパイロットより苦戦は強いられていないのある。

「パイロットが未熟であれば空を飛ぼう関係ない!トロンベよ、駆け抜けろ!!」

そう言って右手にあるプラズマステークのエネルギーを充電し、溜まったエネルギーをゲシュペンストに向かって叩き付ける。

『クソ、どうなっている!?何故そう簡単にやられていくんだ!!』

「経験の差だ。・・・バンカー、くらえっ!!!」

敵の通信に答えるかのようにリボルビングバンカーを突き刺し爆散させる。

確かに経験の差が物を言っていた。

今までリオンタイプに乗っていたパイロットがパーソナルトルーパーの乗り換えるという無謀な事がクロガネクルーにとって有利に働いていたのである。

『このままではまずい!今すぐバレリオンを出撃させろ、今すぐだ!!』

それに気付いた敵艦長はすぐにバレリオン隊を出撃させ、クロガネに向かって砲撃を開始する。

「させるかよ!!シロ、クロいけぇ!」

「「了解ニャ」」

マサキがそう叫ぶとサイバスターから小さな機械が出てきてバレリオンに攻撃する。

それによって二機が撃墜されたものの数は減らずにいた。

「くそ、こうなったらサイフラッシュで・・・・!」

そう言ってマサキが近づこうとしたときだった。

クロガネから突然、特機タイプの機体が出てきてバレリオンの方へと向かっていったのである。

「落ち着いて行け。焦ったら負けだ・・・・。」

「はい!」

パイロットは二人いるようで一人が指示している。

「よし!いけぇぇぇぇぇ!!」

その特機がいきなり変形し、回転しながらバレリオンに突っ込んでいった。

『な、何なんだ!これは・・・・・。うわぁ!!!!』

バレリオンのパイロットはその攻撃に対応できず撃墜されてしまった。

「アレは・・・弐式か!」

「実にトロンベ・・・・。素晴らしい攻撃だ。」

確かにそこにいた機体はグルンガスト弐式であった。

「いまの思いを奴にぶつけろ!!!」

「はい!天に凶星、地に精星・・・・・」

そう叫ぶと弐式から大きめの剣が出てくる。

「必殺!計都瞬獄剣!!!!」

『そんな、馬鹿な!!!!!』

出てきた剣で敵戦艦を一刀両断し撃墜させる。

残っていたバレリオン部隊は指揮系統が破壊されたことにより撤退せざる負えなかった。






戦闘が終わってクロガネに収容し、グルンガスト弐式のパイロットが降りて来る。

「誰なんだ、弐式のパイロットは・・・・。」

パイロットはヘルメットを脱ぎみんなの方へと行く。

その顔は誰もが知っている顔であった。

「な!どういうことだクスハ!!何で弐式に・・・・。」

そう、グルンガスト弐式に乗っていたのはクスハであったのである。

全員驚いているもののブリットに関しては信じきれないようである。

「ブリット君、落ちついて・・・・。」

「落ち着いていられるか!何で戦いなんかに・・・・。」

「クスハの決意が分からないのか、ブリット。」

グルンガスト弐式からセインが降りてくる。

「セイン。今まで何処に・・・・。」

「クスハに頼まれて乗っていたんだよ、弐式に。」

リュウセイに質問されたことをすぐに答え、ブリットの近くに向かう。

「ブリット。クスハは守りたくなったんだよ、大切な何かを・・・・。」

「大切な何かって一体何なんだよ!?クスハには戦いなんて・・・・。」

「見苦しいぞ!ブルックリン=ラックフィールド!!」

「!!!」

突然横に入ってきたゼンガーがブリットに向かって叫び始める。

「彼女の意思を尊重しろ。お前がどうこう言っても変わらん!」

「ゼンガー先生、でも!」

「もし死なせたくなければお前が守ればよかろう!!」

そう言ってゼンガーは何処かへ向かう。

「守るものが近くにいるとは良いものだぞ・・・・。戦う理由を見失わずに済む・・・・。」

そう言い残して・・・・。

ブリットはいまだ納得いかないようであった。

「何でゼンガー先生はそんな事を・・・・。」

「彼は守りたかった人を亡くしているんだ。」

レーツェルが行ってしまったゼンガーの代わりに答える。

「インスペクター戦線後、何者かにアースクレイドルが襲撃されたんだ。その時に・・・・。」

「・・・・・・・・。」

レーツェルの言葉を黙って聞くその場にいるパイロット達。

「この私も大切なものを・・・・。それ以来弟に嫌われているがな。」

その話をするのがつらいのかレーツェルの顔が少しゆがむ。

「ブリット、君の言いたいことは分かる。だが彼女の意思を尊重し、守ってくれ。俺達のようなことにならないために・・・。」

レーツェルの話が終わるとしばらく静寂が流れた。

「分かりました。・・・・・クスハ無茶するなよ。」

「ブリット君・・・。」

クスハはブリットが分かってくれたことがうれしいのか微笑みかける。

「また、関係の無い民間人を巻き込んでしまったな。」

「そうね・・・・私達のほうでも守ってあげましょう。彼らの未来を・・・・。」

キョウスケとエクセレンはその様子を見て呟いた。






ブリット、リュウセイと合流したクスハはふと思い出す。

(セイン君のあの時の表情と言葉、何なんだったんだろう・・・・・。)

セインに聞こうと振り向くが既にセインの姿は無かった。



一方セインは既に自室にいた。

しかしなにやら苦しそうに胸を掴みベットに倒れこむ。

「はぁはぁ・・・。くそ!」

そう言って机からなにやら注射器のようなものを持ち、その中に入っている薬を体に投与した。

「結局、巻き込んじまったな・・・・・。俺の戦いに・・・・。」

まだ彼らはセインの目的を知らない・・・・。


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