2-19 川面



キミカは川原に出ると、有芯を振り返りもせずにずんずん歩いていく。有芯は困惑しながら彼女に従った。6月になろうとしている空気が、湿り気を帯びた生暖かい風になって、彼らの頬や髪を撫でていった。

先を歩くキミカの背中に、やがて有芯は重い口を開いた。

「キミカ先輩、ごめん。俺・・・実は朝子と・・・」

「分かるわ、聞かなくても」

有芯は一瞬口をつぐんだ。

「・・・・・ごめん」

キミカは振り返った。「・・・なんで、私に謝るの?」

「だって・・・朝子はキミカ先輩の大事な友達なんだろう?」

「そうね。ついでに言うと旦那を紹介したのも私だわ」

キミカがそう言うと、有芯は俯いた。

「・・・あんた、アサのことどう思っているの?」

有芯は顔を上げた。「俺は・・・あいつを愛してる」

そう呟く彼の目に一分の迷いもないことが、キミカには恐ろしく感じられた。

「朝子も、俺を愛してくれてると思う、多分。でも、あいつは俺を選ばなかった・・・。」

有芯は言葉を切ると、短いため息をついた。「俺、忘れなきゃだめだよな・・・。それが、朝子のためなんだよな・・・」

日が傾き始めていた。キミカは、言葉が出なかった。この二人は、こんなにも惹かれ合っている。ついこの間まで女なんて遊びで付き合うだけの男だったはずのこいつが、これほど苦しそうな表情を見せるなんて・・・。つい半年前まで幸せそうに微笑んでいたあの娘が、今は無理して笑っているなんて・・・。私があんなことさえ言わなければ・・・!!

キミカがそこまで考え目を伏せた時、有芯が切り出した。

「ずっと言おうと思ってたんだけど・・・」

「何?」

「・・・あの時、悪かった」

「え? 何のこと?」

「・・・俺と朝子がこうなったのは、キミカ先輩のせいじゃないから」

川面におちる二人の影が、ゆらゆらと揺れていて一瞬、有芯はキミカの心の揺れを見たような気がした。




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