2-59 非常事態



朝子は気を取り直し立ち上がった。「出よう!」

有芯は慌てて朝子を引き止めた。「待て! 今出るのはさすがにまずいぞ?!」

その時、遠くから二人を探す男達が走ってくる気配がして、有芯と朝子は慌てて財布を取り出した。今ここから出て行けば、奴らに見つかってしまうばかりか変な誤解まで招きかねない。それにむしろ鍵のかかる個室があるのはラッキーかもしれない。何もしなければいいんだ、何もしなければ・・・!!

「やべっ・・・先輩、いくら持ってる?」

「大丈夫、あるから、早く!」

機械をバンバン叩きながらお札を詰め込むと二人は一目散に部屋に入り、扉を閉めた。鍵のかかる音を聞くと、肩を上下させながら二人は同時に汗を拭った。

「参った・・・」

朝子は息も絶え絶えでベッドに身を投げ出した。「本当。・・・そうだわ、ねぇ、何で私のことをあの人たちが知ってるの?!」

「・・・・・俺がエミを抱く時、お前の名前を言ったからだろ」

朝子は絶句した。

「・・・・・あんた、何やってんの?! それは怒って当たり前よ!! ・・・最低ね!」

「ああ、最低だ」

有芯は一人、壁の方を向いて床にあぐらをかいた。

「俺は最低だよ」

「・・・有芯?」

「立たなかったんだ。・・・・・相手があいつじゃ」

「・・・・・ごめんね」

「何でお前が謝るんだよ」

有芯は自らの煩悩を振り払うかのように後ろ頭をくしゃくしゃにした。

「・・・悪いのは俺だ。好きでもない女と寄りを戻すもんじゃねぇな。結局・・・お前の言った通り痛い目見てるんだから。・・・・・・・・・あさ・・・先輩?」

有芯が返事をしない朝子を振り返ると、彼女はベッドの上で静かに寝息を立てていた。




60へ



© Rakuten Group, Inc.
X

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: