第三話 「サティーンの坂にかかる虹」





 宿を離れてから三日、三晩、野宿の連続でイエムの疲れは限界に達していた。

目の前には急な坂道が永遠と続いている。

山の頂上は一向に見えない。


「急だとはきいていたが、まさかここまでとは」

イエムは自分の決断が初めてここで間違え立ったと悟っていた。


「すこし休みたい。。。」

ひたすら歩いてると前に人影が見える。


「すいません、このあたりで暖を取れるところをご存じないですか?」

人影はイエムの大声に気づき歩みを止め振り返った。

ゆうに70をこえるであろう老人ではないか。


「この月にミレウを越えようとしてる馬鹿者か?」


「貴方だって現にこの道を進んでいるではないですか?」


「今はミカケの月なるぞ」


「ミカケ?」


「知らぬのか!時期に吹雪が来るぞ」

イエムは先程思った決断の間違えをここで更に確信した。


「ここまで来ては戻る事もできません。行きたいのです」


「ならば行くが良い」


「少しこのあたりで休めるところはないですか?」


「歩みを止めるな、明日には吹雪が降りる、今宵、このサティーンの坂を抜

けねばお前は虹につかまる事になるぞ」


「虹ですか?この時期に虹。。雨も降らないのに」

何時の間にか老人は姿を消していた。

すると山小屋が見えてきた。


「良かったここで少し休もう」

イエムは火を起こし、持ち込んだ少しの食べ物と少しのお茶を楽しみ、一晩

を過ごした。


「さぁ~行くぞ」

イエムが歩みを始めてから三時間、山小屋ははるか遠くに見えなくなってい

る。

前の坂道はまだまだ先が見えない。

名をとどろかすこの霊峰ミレウ越えはやはり想像以上のなにものでもない。

その時である、今までヒラヒラと舞っていた雪のつぶてが速さを増し、突風

が襲い掛かってきた。

イエムは吹き飛ばされぬよう必死である。

あっという間に一面が白銀に閉ざされた世界に変わった。

雪が容赦なくイエムの顔を打ち付ける。

体に雪がまとわりつく。


「雪がこんなに重いだなんて。。。」

イエムが前にすすもうとするとそれを押し戻さんがばかりの風と雪がイエムを襲う。

イエムの目の前から光が消えていた。


「イエム起きなさい!さぁ~こっちに来るのよ」


「貴方は寺院復興の時にいつもお祈りに来ていたマリシアさんではないですか?」

マリシアは優しい微笑みでイエムに語り掛ける。


「もう時期、橋が掛かるの。パステル布で私が縫ったこの羽織を着てみんなでそこを渡るのよ」

イエムは何事かわけがわからない。


「あなたもこの羽織をどうぞ!そしてほらあそこの橋を追いかけて」

私が傘を差してあげるから、さぁ早く、あの橋を渡りにいこうよ」

マリシアはグリーンの絵に白の傘でイエムを優しく包む。

目の前には大きな大きな虹が繋がっていた。


「橋ってあの虹の事なの?」

マリシアは何も答えなかった。

すると老人が現れた。


「ミレウの虹は隠されし羽、お前は飛ばされる事になる。今宵はミカケの月なるぞ戻る事は叶わぬぞ」


マリシアは優しく胸に手をクロスして願いをこめている。


「私が傘をさしてあげるから、この虹を追いかけて」

マリシアの目に光が宿っている。


「マリシアさん僕はミレウを越えて生き別れになった弟を探さなければいけないのです。」

老人はささやく


「戻る事は叶わぬぞ」

マリシアは優しくつぶやいた。


「虹を掴む運命の人を導くのが私の傘よ。さぁ~あの虹を追いかけて」

イエムは走った。

ひたすら虹をおいかけて。

虹は姿を変えながら時に寺院の窓に宿り、汚された灰を拭き取るとそこから

虹が反射して道を告げた。

虹の抜け道を追っていくうちにイエムは何時の間にか鉄城門のわずかな隙間

を通り抜けていた。

イエムは我に返った。

吹雪が少し弱まっている。

イエムはついにミレウの頂上にたどり着いた。満天の星空がこれほど近くに

見えた事があっただろうか。

さぁあとは下るだけだ。 


              -つづくー


© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: