第十話 「封ぜられた酷流」




イエムはダークルーズの源流となる御影石の眠る街、ミラーズマーカスに来ていた。

旅の僧はイエムに語りかけた。

「汝の見し、見かけの白は黒であり。

だが、見かけの白もまた白でありえるものだ。

逆もまた真なりは幻想である。」

「汝がこのダークルーズの激流を封じたくば心眼を開き、流れを知る必要がある。

お前にどうやら試練が与えられたようだ。」

「どうすれば良いのですか?」

「そこの黒い猫の尾を斬ってみよ」

「わたしに生き物を殺す事などできません。」

「斬るというのは流れを断つという事だ」

「流れを断つ?」

「日本語の れ は ね に非ず」

「れをなせばおのずから流れが逆戻り跳ね返りその黒猫を断つ事はできぬ」

「見掛けの白は白に非ず」

「では黒猫の罪悪を断つにはどうすれば良いのでしょう?」

「考えるのじゃ」

「黒き流れは根深き黒を生み、跳ね返せばその黒は飛び火しますます黒が広がり黒は深きものとなる。」

「今からこの紙に水墨で描かれた大木に花を咲かしてみせよ」

迷わずイエムは水をその水墨の上に落とした。

水を落とされた黒は薄められそこに花が咲いた。

「もう気づいたであろう。」

「ねをつけるには清き水のねを足すのじゃ」

「さすれば黒のれにならずねになるのみじゃ」

イエムは河の前に飛ばされた。

いつの間にかイエムは幼少の姿に変えられていた。

女の子が犬を連れて走り回っている。

次の瞬間、女の子は勢いよく地面に転がった。

足をもつれさせたのだ。

「馬鹿ね!だから走ったら危ないって言ったじゃない」

母親は容赦なく女の子をしかりつけた。

女の子は泣くばかりである。

イエムは迷わず女の子の方に駆け寄り、転んだときに脱げ

た女の子の靴を河から拾い上げそっと女の子に渡した。

「だいじょうぶ?」

その瞬間ダークルーズの47なの灯篭に灯がともった。

「ダークルーズに留めが入った!」

激震が走る。

イエムはそれを鏡に写し、鏡を二つに引き裂いた。

ダークルーズは封ぜられた。

         -つづくー
mou



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