闇の中で
「ここはどこだろう・・・」
少年はこの場所に長く居てはならないことを感じ取っていた。
「とにかくここから抜け出さなければ」少年はゆっくりと歩を進めたが、
足を踏み出すごとに体に痛みを感じた。
「あきらめないぞ」少年の中には、まだ力が残っていた。
時おり、何処からか友達の声が聞こえ、それに答えている少年の声が聞こえた。
「僕は、ここに居るのに・・・?」 「何も考えていないのに?」
少年は、今ここに居る自分と、何処かで友達と会話をしている自分に気が付いた。
「僕は二人いるのだろうか?以前いた世界と、今いる世界に・・・」
どれくらい歩いたのだろうか、迷い込んだ世界に少年は何一つ
持ってきてはいない。
少しの力と、自分自身以外には・・・。
朝も昼も夜もない。一定の暗さに包まれている世界。
その中で、時おり誰かと話しているもう一人の自分の声の他には、
少年に聞こえてくる物音は一つもなかった。
その静寂さと、もう一人の自分の存在に少年はとまどい始めていた。
「体がおかしい。僕、どうなってしまうのだろう」
歩いても歩いても何も見えてはこない。
少年の目の中には、ほんの少しの灯火さえも映ってはこなかった。
体がどんどん弱っていく、その事に気が付いてはいたが、
それでも少年は歩く事を止めなかった。
「ここで休んだらきっと戻れない」
少年は体全体でその事を感じていた。
だが、もはや少年を動かしているのは余力と呼ぶにはあまりに微弱なものだった。
まるで、自転車をこぎ続けペダルを離したにも関わらず、
かろうじて倒れずにいる惰性のような力に過ぎない。
その自転車はいつ倒れても不思議ではなかったが、
少年は必死にバランスを保ち続けていた。
そのうちに心の中は悲しさと恐怖心で埋め尽くされ、少年は
泣きじゃくりながらも歩いていた。
どうしてそんなに歩く事ができたのだろうか。
必死に進む少年の足音が薄暗い世界に響きはじめた。
ついに少年の目に何かが映った。
大きな大きな樹木だ。
少年はその樹木に寄りかかるように倒れこみ、
もはやバランスを保つ力も尽き果てていた。