ペトラプト・パルテプト

まきまき / その5

まきますか? まきませんか? / その5





ベッドの横に見慣れぬものがある。絶対に昨日はそんなものがなかった。



小さめのトランクといったとこだろうか?




昨日の記憶を手繰り寄せるが、そんなもの買った覚えがない。

それに昨日はいつものかばんしか持ってなかったはずだ。







上質の革張りで出来たトランク。

四隅によほどの職人の技がつくされているであろう彫刻の入った金の金具。

中央にも同じように薔薇の彫刻がある。








どうみてもこの部屋には似つかわしくない。








「なんだコリャ!? 鞄?トランク?」





再び、確かめるように声に出してみる。




転んだときに打ったのだろう、ズキズキ痛む肘が寝ぼけていないことを証明する。



(いつの間にこんなものが? 誰かが置いた?? )




恐る恐る鞄に触れてみる。いや正直最初は触りたくなかった。

もっと気味の悪い感じがすれば触る気すらなれないだろう。

だけど、近くで見れば見るほどこの鞄がかなり高級な代物であるのが容易に感じ取れた。

この手の物にまったく縁のない自分でさえはっきりわかる。

生まれてこの方、一度も鞄なんかに興味を持ったことはない。

特にブランド物なんかはそうだ。

服なども普段から安っぽいものしか身に着けていない。

だから余計にその存在感(高級感?)に圧倒されてしまいそうだ。









(高そう――!! それに綺麗だ。)





それほど目の前のものに自分が魅了されているのだ。





やがて自分の中で警戒心が薄れていき、それが好奇心にどんどん変わってゆく。







(中には何か入ってるんだろうか?)


(よくあるホラー映画なんかで、開けると中から化け物が…ってパターンかも!?)






どう考えてもこの時間に化け物は似つかわしくない。

厳しい残暑を予感させる柔らかだが鋭い朝の光。






(財宝…ってことはありえないか。見た目はそれっぽいけど。)


(ていうか、トランクだから着替えだな。そいつは似つかわしい。)


(空っぽっていうのもアリか。中身まで期待するほうがおかしいような…。)





それ以前に鍵がかかっている可能性の方が高い気がした。

取っ手の留め金のところに(これまた豪華な彫刻なのだが)鍵穴らしきものが見える。







ここで開けることに罪悪感を覚えてしまった。



(俺が開けてもいいのだろうか?)


自分の部屋の中とはいえ、落し物の可能性はまったくないとは言い切れない。


でも誰かが置いていったと考えるしかないと思う。






(だとすればだよ、これが落し物だったとしても中身を確認しとかないと。)


(そうそう、拾った者が1割もらう権利がある。)





なんだか無理やりな理由をこじつけて、開けることに腹を決めた。





一度深呼吸してからスイッチらしき留め金を動かしてみる。






カチャ







鍵はかかってなかった。



でも予想を裏切らないくらい気持ちのいい音がした。


もう一度閉じて何回も開け閉めしたくなるほど心地良い留め金の音。








開く前にもう一度深呼吸する。なんだか緊張で汗が噴出してくるかのようだ。







ゆっくり、ゆっくり開く。あわてて壊したらとても弁償できそうにないからだ。









「え――――――――っっ!!」







中には財宝でも札束でも、着替えでも、もちろん化け物でもなく、

全然予想してなかった物、いや者!?が入っていた。








「人間の女の子ぉっ !!」 




あわてて閉じる。閉じたところで現実はかわらないのだが、思わず閉じてしまった。




(い、いかん。何がなんだかわからない。)



いろんな考えが次々に頭を駆け巡って呆然となる。






(と、とにかく落ち着かなければ。なんか大変な事件かも…。)





喉が渇いた感じがいっそうひどくなるが、とりあえずタバコに火をつけてみる。

だが、ライターが震えてなかなか火がつかない。



「この、この、この、…。」







      シュボッ


「ふ――――――っ…。」




朝の光がゆっくり差し込んだ部屋の中に紫煙が広がってゆく。

煙越しに見える鞄には当然、何もなかったように静かだ。








(け、警察に電話!? いや救急車が先か!? それとも…。)

(警察に電話するったって、この状況をどう説明する!?)




(「朝起きたら、鞄が置いてありました。鞄の中には女の子が入っていました。」)

(それじゃ全然信じてもらえないだろう。逆に誘拐殺人犯と間違われかねない!!)




(こっそり捨てるか? それじゃあ死体遺棄だ!!)



(いやまて、まだ死んでるとは限らない。でもそれじゃあただの誘拐!?)




(おいっ! おれがこの鞄を持ってきたわけじゃない! 起きたらここにあったんだ!)




(でも、マズイ。どう考えても俺には不利な状況だよな…。)


タバコ1本分の時間で考えがまとまるわけがなかった。

それにも増して落ち着きなど取り戻せそうもない。






グシャグシャと乱暴にタバコを消すと、鞄を見つめた。



(やっぱ、ここは状況を確認からするのがセオリーだよな…。)



まず、中の女の子が生きてるかどうか確認だけでもせめてやるべきだ。

心の中で神に祈りながら、再び開けることにする。





でも思わず声に出た。

「頼むー。どうか生きててくれー。」








手品のように先ほどの女の子なんか消えてなくなってくれればもっといいのに…。




でもやっぱり入ってる。




「息、してないよな…。」


近づいてよく見るとものすごく静かだ。まったく動いてる気配はない。


こんどは鞄を開けたまま、怖くなって思わず跳び下がった。





「やっぱり誘拐殺人…。」




全身から血の気が引いてくる気がした。


当たり前だがこんな体験は生まれてこの方一度もない。


視線は中の少女に釘付けになっている。逆に怖くて視線が変えられない。



心臓がバクバクいって、かなりの動揺している。





とにかく逃げ出したい。でもそれはできない。





どちらにしても無理だ。





だが…、ふと違和感に気づく。

「……んんっ…!?」













恐る恐る三度目のチャレンジ、鞄に近づいてみることにした。




さっきからパニクってて全然わからなかったのだが、ようやく気がついた。



  「 なぁんだ。人形か――――!! 」






to be continue




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