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魂の叫び~響け、届け。~
いつも天使なキミでいて ~K side~
いつも天使なキミでいて ~Kira Amethyst side~
ゆっくりと覚醒していく意識の中で、頬に当たる陽射しを暖かいと思う…。
独りでは無いという、幸福感。
「…ん……」
傍にある温もりに誘われて再び眠りに落ちかけると、優しい吐息がそっ…と瞼に触れた。
「アスラ…ン…?ぉ…はよ……」
まだ上手く回らない舌の筋肉を意識しつつ、自然と閉じようとする重たい瞼を持ち上げる。
柔らかく笑むのは、恋人の翡翠の瞳。
「おはよ、キラ。もうそろそろ起きないと…今日は出掛けるんだろ?」
急かすような色を微塵も感じさせないその口調は、
気持ちをふんわりと包みこむように、心地良く耳に響く。
今日は久し振りに街に行って買物して、ランチして…、恋人らしいデートしようねって2人で決めていたんだ。
このまま寝ていたら、あっという間に昼になってしまう。
「うん…行く…」
身体に残る微かな疲労感を振り切るように起き上がると、僕は大きく伸びをした。
窓から入る強い光は、今日の“お出掛け日和”を物語っている。
あんまりにも今日が楽しみで、昨夜遅くまでなかなか寝付けなかった事…
アスランの事だからとっくに気付いているんだろうなぁ。
「おはよう」
いつものようにアスランの形の良い唇にそっと唇で触れる。
毎日毎日触れているのに、鼓動はまだ……勝手に走り出す。
…いつになったらキスをしてもドキドキしなくなるんだろう…。
離れかけた唇が再び寄せられたその瞬間…、
仰向けに寝ていたアスランの胸の上にちょこんと乗って来たのは、今日も可愛い我が家のアイドル。
「あ、お前もおはよっ、イザ子」
チュッ!
銀色に輝く小さい体をひょいっと持ち上げてキスを贈れば、嬉しそうにその頭を僕の頬にスリ寄せてくる。
大事な人と、可愛い仔猫、今日もそうして素敵な1日が始まった。
月の自由都市コペルニクスのはずれにあるこの家に、
恋人となったアスランと一緒に住むようになってそろそろ2ヵ月。
エレカで5分程の所には母さんの家もあり、もう少し行けば買物に便利な繁華街もある。
喧騒から少し離れてのんびりとしたここでの暮らしは、毎日が夢みたいに楽しくて。
こんなに幸せでいいのかな…なんて、贅沢な不安だよね。
ラグの上に座ったり寝そべったりしながら軽く朝食を取って、アスランと2人で今日の買物をリストアップする。
オンラインショッピングを使えばその日の内に欲しい物は手に入るけれど、
2人で一緒に出掛けて行って、どっちの桃が甘いかな?とか、どの色のシャツが似合うかな?とか…
そんな事をああでも無いこうでも無いと話すのがまた楽しいんだよね。
「えっと…あとはキャベツでしょ、ひき肉でしょ、それか~ら…牛乳と…」
頭の中に何通りかの献立を考えながら、食材のメモを取る。
「トマトと玉ねぎは?」
「あ、うんそうだね!それから…あ、イザ子のエサもそろそろ無くなりそうだからそれも」
イザ子はお気に入りのフードしか食べないので、いつも決まったメーカーの物を買い置きしているのだ。
万が一買いそびれでもして、可愛い愛猫を飢えさせる訳にはいかない。
「キラ…オスだったら、何て名前つけるつもりだったんだ?」
アスランはおそるおそる…という面持ちで聞いて来る。
「オスだったら?…イザ夫!」
「キ~ラぁ~…もうちょっとこう…何か無いのか?今更言ってもあれだが…いくらなんでも…」
「なんで?可愛いじゃない、イザ子もイザ夫も」
アスランだって、鳥型ペットロボに“トリィ”じゃないか。
そんなキミにネーミングでとやかく言われるのは心外なんだよね。
『日本語では“トリ”って言うらしいから』
そう言って、日系の遺伝子が入ってる僕にちなんで付けてくれたんだけど…、
もしも僕が英系だったら“バーディ”ってなってたかもしれないんだ。
リビングに置かれた観葉植物の枝に止まり、首を傾げているペットロボに、僕は思わず同情的な視線を投げた。
自分の名前を呼ばれたイザ子は、待ってましたとばかりに一声鳴くと、
お気に入りの窓辺から僕の膝の上に移動して丸くなる。
艶やかに輝く銀色の毛並みの感触を指で楽しんでいると、
以前アスランがイザ子の体毛を必死になって掻き分けてた事を思い出す。
ノミでも探してるの?って聞いたら、“いや、なんでもない”って……。
あ~れは絶対に……ネジやコードの類が無いか、本気で捜してたんじゃないかと睨んでいる。
元々アスランにさほど懐いていなかったイザ子が、あれ以来アスランに近寄ろうとしなくなったのは
…自業自得だと思う…。
“猫の面倒なんぞ見切れん”
そう言って、猫をプレゼントしてくれたのはイザークさん。
何だかんだいいながらも面倒見のいいイザークさんが、
本当はこの仔猫を大層可愛がっていた事が今の僕には判っていた。
プラントから月へ住居を替えた今でも、
イザ子の好物を持ってディアッカさんと一緒にフラリと遊びに来てくれる。
そんなに可愛がっていた猫を手離す程に、あの頃の僕は危なっかしく見えたんだろう…。
「優しい人だよね、イザークさんて」
「……はぁ~?!」
あの時、イザークさんは僕の事だけじゃなく…キミをも救ってくれたんだ。
表面上は微塵もそんな素振りは見せないし、アスラン本人に言ったって信じてくれないだろうけど…
―――――キミを誰よりも大事に思う僕だからこそ、それが判る。
「僕、イザークさん大スキ!」
「スキっ…て…ええっ?!」
僕の言葉にあからさまに動揺して、
そんでもってそんな姿を見破られまいと慌てて背中を向けるこの目の前の青年が、
『ザフト軍特務隊』を経て『プラント評議会議員』だった、
泣く子も黙るアスラン・ザラだなんて……。
…ほんっと……可愛い…っ。
「…ぷ…っ…くくくく」
「っ…キラ!」
「…ごめ…んごめんっ…あんまりにもアスランが可愛い顔するもんだからさ」
僕がそう言うと、アスランの肩はガックリと落ち、首はみるみるうな垂れてしまって…
あー、ちょっといぢめ過ぎちゃったかな…。
どうもイザークさんに対してかなりのライバル意識を持っているアスランなんだけど、
どうやら本人はその自覚が無いみたいで。
前にディアッカさんに聞いた話によると、イザークさんとアスランの関係はアカデミー時代から有名だったんだって。
ザフトの艦にいた時は秘密のファンクラブまであって、
『ガモフの双美人』とか『クルーゼ隊の緋薔薇と白百合』とか呼ばれて、
人気を二分していたとかいないとか……。
でも…僕がアスランと他の誰かを直線上で比べられるはずも無いって事、
……まだ伝わってないのかなぁ。
膝の上にいるイザ子をそっとラグに下ろし、拗ねたように丸められた広い背中を見る。
落とされた肩に顎を乗せて凭れ掛かり、その引き締まった腰を抱き込むようにして腕を回せば、
愛しさが次々と生まれては…膨れ上がる。
湧き上がるような感情が真っ直ぐに届くように、ことさらゆっくりと言の葉を紡いだ。
「…アスランは、他の誰とも比べられないよ?」
届くよね…?僕の気持ち。
いつだって、僕は…キミに夢中なんだ。
“好き”って気持ちを数字にしたら、きっと僕の方が沢山キミを好きだって自信があるよ?
―――――キミと僕の好きの重さ、目に見えて量れたらいいのに…。
「キラ……」
僕を見つめる綺麗な碧色に吸い込まれそうになる感覚…。
長くて綺麗な白い指先で優しく頬をなぞられれば、甘い予感に身体の芯は震えた。
ゆっくりと近付いてくる唇が、今にも触れようとしたその瞬間…
ピンポーンピンポンピポピポピポーーーーン!
ドンドンドンドンドンドドドドドン!
嵐のようなインターホンに続き、壊されそうな勢いでドアがノックされる。
―――――もしかして…。
「…イザークさん…かな」
「あんな鳴らし方する人間、他に誰がいるって言うんだ?」
…やっぱり…。
本日の計画変更が頭の中で瞬時に行われる。
玄関に向かおうと立ち上がろうとする肩をアスランに掴まれ、咄嗟に両手で口元を蓋った。
アスランの意図を読み取って、カッ!と体温が上がり耳まで熱くなってしまったが、
これ以上イザークさんにドアを叩き続けられてはたまらない。
「もぅ…、それどころじゃないでしょっ!」
勢いを付けて立ち上がると、慌てて玄関へと走った。
はめ込まれた曇りガラスの向こう、逆光に照らされて浮かぶ長身のシルエットが2つ。
「よっ!キラ、元気にしてたかぁ~」
「朝早くからすまんな、こいつが行くって聞かなくてな」
「…ってオイ!イザークぅ~?!」
扉が開くと同時に、賑やかな声と姿が飛び込んで来る。
今日の2人はいつもの議員服と軍服では無く、ゆったりとした普段着にその身を包んでいた。
僕とひとつしか違わないはずなのにとっても堂々として見えるのは、
その責任の重さを受け止めて前を向いているからなんだろう…。
「いらっしゃい、立ち話も何だし…どうぞ入って下さい」
玄関ホールに招き入れたと同時に、イザ子がその姿を見せる。
とてとてとて、と小さな足で近付いて来るとイザークさんの足元に自分からスリ寄って行く。
小さな身体を擦りつける仕草は見ている人間の気持ちを一瞬で和ませる。
「どーら、おっ…お前重くなったな?」
イザークさんは軽々とイザ子をその腕に抱えると嬉しそうに目を細めた。
そんな姿を見てディアッカさんの目もまた柔らかくなる。
「お前らそっくりだな、そーやってっと親子みたいだぜ?」
「ふん…、自分の方に寄って来ないからってやっかむのは見苦しいぞ」
相変わらずの2人を好ましく思いながら連れ立って向かったリビングで出迎えたのは、
完全に不貞腐れモードに入り、仰向けにひっくり返ったアスランの姿だった。
「いい格好だなアスラン、さてはキラに愛想尽かされたんだろう」
その言葉に億劫そうにこっちを見たアスランの視線は、イザークさんの胸の辺りでヒタ、と止まり……………
大人しく腕に収まっているイザ子を見るや否や、無表情のまますっくと立ち上がると…足取りも重く寝室へと消えて行った。
この日以来、アスランのイザ子に対する態度がますます悪くなったのは………言うまでもない……。
END
☆----------☆----------☆----------☆----------☆----------☆----------☆----------☆
2005/10/06up!
Athrun jade side と対のストーリーです。
スーツCDのアスラン編とキラ編が好きなので、あんな空気を意識して書き始めたのですが…
なんか違う方向に…(^_^;)
キラもちゃーんと、アスランの事を愛してるんだよ!
と思って書いたのですが、やっぱりイザークに全部持っていかれてる気がします。
恐るべし、オキャッパ!!
キリ番160000を踏んでくれた憂菜ちゃん、
そしてイメージイラストの寄贈に快く頷いてくれたsai-chaさん、
お2人に、このお話を捧げます。
恥かしいので返品の相談はメールにて…(汗)
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